4-16EX.護衛ドヴァダン・ダ・オシギネ
「はぁはぁ!これで、最後じゃ!」
儂は手にした斧を思いっきり振り下ろし、足で固定していたオークの脳天を割った。
鈍い音と共にオークの脳天が血を垂れ流す。
「おい、小僧!生きとるか?」
「えぇ。なんとか、ですが。あと、小僧はやめてください。僕にはパトロクロス・マレットという立派な名前があります。ドヴァダン殿」
大の字で寝転がっていた子供からそんな憎まれ口が聞こえた。
「ははっ、そんな口が利けるなら上等じゃわい。しっかし……惨憺たると言うにふさわしい状況じゃな」
あちこちに転がったオークと人間の死体の数々。
飛び散った血や内臓が既に不快なにおいを放ち始めている。
可哀そうだが、埋葬できるような状況ではないな。
せいぜい埋めてやるくらいしかできんだろう。
「大地を統べるの土の王よ、契約の元にその力を示せ。汝マルクト。大地を我が意のままに開きたもう。落とし穴」
儂が魔法を発動すると大地に二つの穴が開く。一つは大きめ、一つは小さめ。
人を埋める用とオークを埋める用じゃ。
儂は懐に短杖を仕舞う。
儂のように魔法と武器の両方を使うものはこうやって二つとも携帯しておかなければならないのが難点じゃな。
「ドヴァダン殿、一つはわかりますが二つ目は何に使うのですか?」
「オークを埋めんといかんからな」
「なぜオークを?」
はん。戦闘力はそれなりだが、まだまだ世間知らずじゃな。
「今回壊滅しかけたのはなぜじゃ?」
「それはタイラントラプトルがオークを追って森から出て来たからで」
「ならヤツはなぜオークを追って来たんじゃ?」
「それは餌として……、あ」
「そうじゃ。放置すればこの大量の餌を嗅ぎつけて更に魔物がやってくるじゃろうからな。持ち帰れない魔物はよほどの事情がない限り何かしらの処理をしておくに限る。オークは脂が多くて燃やしやすいが、暫くとどまれない限り火の始末の問題があるから、普段は埋めるくらいにしとくんじゃぞ。とりあえず、死んでしまった者たちを放り込め」
……死んでいった者達からギルドの棒証を外す。
これはこやつらの形見になるからの。遺体は持って帰れぬがせめてこのくらいは持って帰ってやらねばな。
それと悪いが使えそうな道具は使わせてもらおう。
ポーション、ナイフ、ロープ、マジックバッグなどなど。
それらをマジックバッグに放り込んでいく。
「オークの素材はよろしいのですか?」
「多少なら持って行っても構わんが、食う分の肉ぐらいにしておけよ。どうせ持っていけん。魔石があれば取っておけばよい」
マジックバッグで多少軽減できるとはいえ、重量はどうしようもできんからな。
一部の高位の神官や魔法使いが行使できるという空間を操るディメンションルームかアイテムボックス、先天的に才能として手に入れられるスルーディメンションでもあれば話は違うんじゃろうが。
「一応言っておくが、マジックバッグはマジックバッグに入らんからな」
「わかってますよ。そのくらい」
たまにおるんじゃよな。
マジックバッグをマジックバッグに入れようとするやつ。
中に仕込まれた空間魔法同士が干渉して壊れてしまうんじゃが。
改めて惨状を確認する。
オークの数は20体。倒した数は13。逃げた数は7。
こっちは儂についてきたパトロクロスを含む8人と勝手についてきたハルジェンティの子飼いの者ども3人。……儂とパトロクロスをのぞいて死者8人、重傷者2人。
「小僧!重傷者にポーションを飲ませてやれ!」
「小僧じゃ……、もういいです」
パトロクロスが生き残りにポーションを飲ませていく。
とはいっても2人しか生き残っておらんがな。儂らを含めても4人か。
まぁ、4人生き残っただけでもまだいい方か。
タイラントラプトルが暴君の森の深部から出てくるなんぞ聞いたことない。
サラフィズベルグで用事を済ませた儂らが南下してくると、このルベルトス手前でオークたちに襲われた。
まぁ、もっとも、そのオークもタイラントラプトルに追われてきていたみたいじゃが。
まったく、そこで死んでおるうつけ者がちょっと珍しい素材に釣られて道を逸れさえしなければこのようなことにもならなかったろうに。
好奇心、なんとやら。じゃな。
こうならぬために儂に依頼されたというに。
ハルジェンティの子飼いどもは全滅。
いや、まぁ、そもそもこやつ等は勝手についてきただけでものの数ではないがな。
「終わりましたよ。ドヴァダン殿」
「助かったぞ、ドヴァダン。ははっ、やっぱ冒険者ってのはこうでなくてはな」
「九死に一生とは、この事だな。俺は帰ったら畑でも耕して暮らすことにしようかな」
生き残った三人がそれぞれの反応を示す。
さて、オークや死体を埋めてやらねばな。
「大地を統べるの土の王よ、契約の元にその力を示せ。汝マルクト。この世を統べる理を我に一度預けたまえ。落下制御」
儂が魔法を唱えると穴に落とした死体の上に、先ほど穴を掘ったときに出た土をかぶせる。
とりあえず、これでいいじゃろう。
「とりあえずルベルトスまで帰るぞ」
やれやれ。
まさか行きより帰りがつらいとは思わなんだ。
「おぬしら、ルベルトスに着いたら好きなものを食うと良い。今日を生きた喜びを噛みしめてな」
「「おー」」
「……はい」
ルベルトスまではあともう半日程度は掛かる。
儂らはその地点で一度野営をすることにした。
うつけ者はもう死んでしまったのでここで反対するような奴はおらん。
そんな中、憔悴した小僧が話しかけて来た。
「どうした?小僧?」
「こぞ……、いえ。私は小僧だったのでしょうね」
儂の隣に小僧が腰かける。
「正直、今回のは堪えました。戦場に出ているイーリヤス様や冒険者として活動してこられたドヴァダン様は、毎回このような死線をくぐり抜けて来られてたのですか?」
「流石に毎回ではないぞ。まぁ、今回のは結構ヤバかったがな」
「そうですか……」
実際、死にかけた事なぞ何度もある。
その時限りの仲間を見送ったことも何度もある。
「良ければどのような死線をくぐり抜けてこられたのか、聞かせていただけませんか?」
「はは、言って聞かせるような話ではないわ。その日のことは、その日の酒で流すに限る」
儂はコップにサラフィズベルグで買ってきたワインを注ぐ。
「小僧も飲むか?」
「いただきます」
とりあえずは乾杯。
「今後はどうされるのです?」
「とりあえず、ルベルトスに寄ってこの墓の事を報告する。その後は……一度、アスタランテに向かう」
「アスタランテ、ですか?」
真面目な話、戦力が足りない。
この辺りからだとポティランドまで大体片道一月といくらかくらいか。
新設されたきれいな街道があるとはいえ、王都オーゴニアに寄った後は登山になるからな。
戦力が多いに越したことはない。
ピース公爵領に入ったら驢馬か大角鹿を買って荷を引かせる。
そのためには多少金が要るか。
なら、冒険者として多少仕事もせねばならんな。
帰るのは……、しばらく先になってしまうかもしれんな。
「よし!小僧!アスタランテに着いたら小僧の冒険者として登録するぞ!」
「ぼ、冒険者?し、しかし私は……」
「構わん構わん。年齢制限はこちらで何とかするわい」
さて、方針は決まったな。
やれやれまともな冒険なぞ何年振りかのぅ。




