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異世界焼肉道  作者: グッチ
4.今日の焼肉こそ、真の贅沢である
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4-16.実食、今日の焼肉こそ、真の贅沢である

「さーて、上手く炊けてるかな?」

 火を引いてから5分ほどで火を完全に落としたので今は蒸らしの段階だ。

 体感だが大皿に野菜を準備したりといろいろしていたので10分くらいは経っているだろう。

 俺は慎重に蓋を開けてみる。

 蓋を開ける際にどうしても湯気が出てくるので手前に少しスライドさせて体にかからない方向に少しだけ湯気を逃がす。

 湯気は高温なので飯盒や自宅で羽釜や土鍋を使うときにも、これを覚えておくとやけどしなくて済む。

 ……まぁ、尤も白米であれば炊き立ての匂いに包まれるこの瞬間はむしろ望んでかかりに行くやつもいるだろうが。

 余談だが白米を炊くときに使う羽釜の蓋の向きにまでこだわっている旅館には好感が持てる。

 実際、羽釜用の蓋は簡単に動かないようにかなりの重量になるので取っ手を縦向きにおいて両手でも取りやすくしているはずだ。

 今回はちょっと重い木の板で蓋の代用にしたが、いずれ取っ手付きのきちんとした蓋も羽釜付きで作っておきたい。

 やはり王道の焼肉に必要なものと言ったら白米だろう。

 店で食べる米料理であれば、炒飯や寿司もあるし、石焼ビビンバもあるが、やはり基本は白米との組み合わせが一番。

 いやしかし、ビビンバもいずれは作りたい。

 コチュジャンの材料はもち米や大豆、それに麹。

 代用となる豆板醤もそら豆と麹が必要だから、やっぱり次は麹をどうやって手に入れるか、か。

 麹が手に入れば醤油や味噌にも手を付けられるはずだ。


 蓋を完全に外すと鍋の内部に残っていた湯気が一気に解放される。

 いいかんじに炊きあがっているようだ。

 しゃもじがないのでここは木のヘラで代用。

 さっくりと混ぜるようにヘラを切る。

 雑穀だけで混ぜているので多めに6回ほど繰り返してもう一度蓋をしようと思ってふと手を止めた。

 雑穀の時も二度蒸らしは有効なのだろうか?

 俺が白米を炊くときは、一度蒸らした後、米を切るように返してもう一度蒸らしていた。

 こうすると底の方にあるご飯粒まで均一に水分を飛ばすことができて最後までおいしく食べられる。

 さすがに雑穀だけで炊いたのは今回が初めてだからうまくいっているかは……。

 そう思って顔を上げると、俺の後ろにはお椀を持ったエルたちが。

 なんだかエサを待っている犬に見えてきた。

 かわいそうなので今回はこれでいいか。

 きっとまだまだ食べられる機会はあるだろう。


 俺は後ろに並んだエルたちから皿をもらい、雑穀をよそっていく。

 その上から、先ほど作ったオーク肉をかけ仕上げに山菜の浅漬け、ゆで卵を乗せると完成だ。


「さぁ、ルーローハンの出来上がりだ!」







 ベーコンと小さな柑橘系を一つの皿に乗せ、雑穀を全員分よそい終えると、大きなテーブルに全員でつく。

 このテーブルはアリュシエールさんが事前に用意してくれたものだ。

 要は冒険者10人の雇い入れ費用の中に入っているものらしい。

 10人は座れるテーブルと座席。

 各部屋にベッドとサイドテーブル。

 ここまでがサービスの内らしい。

 買いに行く間もなく3人を雇ったから正直ありがたい。

 ちなみにここは1階の倉庫部屋とされている場所。

 実はまだなにも配置されていないので広い部屋がここに余ったのだ。

 地下室もあるし、別に倉庫もいらないような気がする。

 ここをダイニングとしてもいいかもしれない。

 配席は向こう側にエル、トマス、ロス、アリュシエールさん。

 こちら側に俺、ランプ、エース、ウーミタンだ。

 さすがに先ほどまで同席を戸惑っていただけあって、彼らの隣に座る勇気はなかったらしい。


「それじゃあ、いただきます」

「「いただきます」」

「「「「い、いただきます?」」」」


 エルとトマスは俺とよく飯を食ってるから、「いただきますに」対応できるが他はまだわからないよな。

 こればっかりは仕方ない。

 食前のあいさつを終えると、皆が思い思いにスプーンに手を付け食事を始める。

 ちなみに俺は自作の箸だ。

 最初に、何の躊躇もなく口に入れたのはエルだ。


「う、うまい!なんだこれ!?」

「えぇ、稗や粟を入れていたのを見て、正直大丈夫かと思いましたが。まさか稗や粟でもこれほど旨くなるとは」

 エルに続いてトマスが絶賛。それを見た向こう側全員が口を付け始めた。

「驚きました。この上にかかっている細かく刻まれた肉もいいですね。これは魚醤を使っているようですが、あの魚臭い調味料がここまでの旨味になるとは」

「上の肉と下の麦たちを一度に食べることで肉だけで食べるのが苦手な子でも安心して食べられそう」

 ロスとアリュシエールさんだ。

 まぁ、そりゃ。まずくなるようには作ってないからな。

「ほら、三人も食べてみてくれ」

「は、はい」

 俺から促されたためか三人も口を付ける。

 口に入れてひと咬みしたところで全員の目が開かれる。

「なんと柔らかく濃厚な味でしょうか」

「えぇ。稗や粟はそれほどおいしいものではないと思っていましたが、丁寧に下処理をするとこれほどおいしくなるのですね」

「おいしいね!おかあさん!」

 三者三様。味をかみしめる者、驚く者、共有する者。

 良い笑顔だ。

「それはよかった。じゃぁ、俺も」


 一口、頭と雑穀を同時に口に入れる。

 うん。なかなかいい出来だ。

 雑穀も丁寧に浸水して炊いたから雑穀特有のもっさり感も少ない。

 ……が、これは俺が稗と粟、大麦、白米をそれぞれ食べたことがあるから感じる感想だろう。

 少なく感じるだけで、もっさり感がないわけではない。

 現代でも雑穀を混ぜ込んだ『十六穀米』『十八穀米』なんかが売られているが2合の白米に対して、わずかワンスティックでも苦手な人は苦手と言っているしな。

 だが、その雑穀特有のもっさり感をオークの肉と魚醤の濃い脂の味が包み、気にならなくしている。

 恐らくだが表面に脂がコーティングされることでもっさり感を隠しているのだろう。

 魚醤の混ぜ方もなかなか良かったのかもしれない。

 川魚の方ではあっさりしすぎると思ってうなぎの方と混ぜたのが功を奏したようだ。

 醤油よりもやや雑味と野性味にあふれる味がうまくオークと雑穀をまとめ上げている。

 卵は帰りに村で買ったものだが、ニワトリの物より、若干黄身が赤みがかって濃厚な味に感じる。

 あり合わせで、なんちゃってで作ったにしては、なかなかいい出来じゃないか!


「いや、まいったな。大麦や稗は粥にして食べるものかと思っていた」

「この辺じゃ、炊いたりする調理はないのか?」

 エルの言葉に思わず反応してしまった。

「聞いたことないな。正直、煮るかパンに混ぜ込むくらいしかないだろうと思っていた。そういえばアルサンピーク王国で、似たようなどうやっても食いにくい穀物を少量だが取り扱っている商会があったな」

「えぇ。確かライムギのパンに混ぜ込んで嵩増しするくらいしか食べようのない、穀物と聞いたことがありましたね」

 へぇ。どんな穀物だろ?俺の知らない救荒作物だろうか?

 蕎麦はエルフの里にあったし、それ以外となると黍とかその辺だろうか。

「あぁ、生でも食えない、煮てもさしてうまくない、異様なにおいがする、植えてもまともに育たない、パンにしてもボソボソのボロボロでホコリっぽい風味になる、使い道の少ない穀物だとは書いていたな。ローズに何かの研究に役立てられないかとサンプルを送ってきたが現時点ではお手上げだったよ」

「そんな食べ方の思いつかない植物、よく持っていたな?」

「いやなに、アルサンピーク王国は東大陸からの貿易船も止まるからな。東大陸からなかなか奇妙なものが届くこともあるんだ」

「なんでも、もともとは東大陸の主食らしく、おいしいとの話だったが、食べ方を知る前にその貿易商が病死してしまったという話はしていたな。ほとんどがひどい手足のむくみがでて、反応が鈍くなり、最後には心不全になって倒れたそうだ」

 へぇ。そんなことが。

 なんだか俺たちの世界の脚気のような話だ。

「案外リュウなら、それさえもおいしく料理してくれそうだがな」

「買いかぶりすぎだよ」


 うん?

 なんだかエースの食が進んでないな?

 さっきは美味しいみたいなこと言ってたが?

「嫌いな物でもあったか?」

「い、いえ……。そういう訳では……」

 うん?じゃぁ、どうしたんだろう?

「奴隷がこのように美味しい、皆様と同じような物を頂いてよかったのかな、と」

 いや、美味いとはいえ、雑穀だしな。

 別にいいんじゃない?

「というか、奴隷だけ別の飯を食わせるような感覚は俺にはないし」

「え?そ、そうなのですか?」

「そもそも、同じ家で生活する家族みたいなもんだろ?流石に遠慮ばかりされたらこっちの気も持たないし。今まで何があったかは知らないけど、ここにいる間は俺の方針に慣れて行ってくれればいい」

 焼肉だってそうだ。

 肉ばかりでは胃がもたれる。

 キャベツや玉ねぎ、カボチャやニンジン、ピーマン。

 野菜を途中に挟んでこそ、肉が輝く。

 特に脂が多い肉ではそうだろう。

 肉と野菜が合わさって混然一体の調和というものが生まれるのだ。


「……はい。かしこまりました」




 ……、まだ固いけど。

 まぁ、その辺はゆっくりと慣れていってもらえばいいか。

 今日という焼肉を楽しんでこそ、真の贅沢と言えるのだ。






 俺はそう思いながら、自分の造った焼肉……、なんちゃってルーローハンに舌鼓を打つのであった。

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