4-14.新居へ引っ越し
「おぉ!こりゃ、すごいな」
「素晴らしいお屋敷かと思います」
「おおきい!」
俺はエースとウーミタンと契約した夕方、購入した屋敷に来ていた。
書類とか手続きとか細かいところはアリュシエールさんとギルドマスターに手数料を払って代行してもらった。
二人には今回の手続きと今後の面倒事の押し付け……、もとい前金としてそれぞれに金貨1枚を渡した。
アリュシエールさんもギルドマスターも涼しい顔をして受け取っていたところを見ると、多分金貨みたいな大金にも慣れているのだろう。
ちなみにロスにも1枚渡した。
ロスも倉庫の方でいろいろしてくれたしな。
受け取った本人はすごい顔をしていたが。
エルたちに渡した金額の50分の1なんだがな。
「みてみて!お母さん!お庭に草がいっぱい!」
「こ、こらウーミタン。いったん落ち着いて、転んでしまいますよ。すみません、ご主人様」
「あぁ、いいよ。子供は遊ぶのも仕事だし」
「ありがとうございます」
2人が庭を見て回るのを見ながら、俺は先ほどオルデウスに言われたことを思い出していた。
「それで、一つ。お伝えしたいことがございまして」
「うん?」
「彼女たちが海外の奴隷という事は先ほどお伝えしましたが海外からの奴隷というのはある種、制約のようなものがございます。それを先にお伝えしておかなければ、と思いまして」
聞けば海外からの奴隷と国内の奴隷は色々と違いがあるらしい。
最も大きい違いは、海外から仕入れた奴隷は海外で犯罪を犯し処罰された奴隷のため、国内奴隷とは違い国内で処罰を受けたわけではない。
逆を言えばそれは国内では解放の術がない、ということだ。
つまり、エースとウーミタンはどれだけ俺の元で働いても絶対に解放されないという事だ。
「ですが、抜け道もあります」
「抜け道?」
「国内で犯罪を犯させ、国内の奴隷紋で上書きしてしまう事です」
なるほど。
奴隷紋は上書きが可能なのか。
どういう仕組みなのかは分からないがそういう裏技を使っている奴らもいる、そういう事だろう。
「なぜそれを俺に?」
「失礼ながら、私は職業柄、人を『視る目』だけは自信を持っております。そして、奴隷を買った者たちがその奴隷たちをどのように扱うかも、存じ上げているつもりでございます」
ほうほう。
まぁ、確かに奴隷商なんてしていればそうなるだろうな。
「貴方はいずれこう考えるでしょう。相応の働きをした二人は解放されるべきだ、と」
……ないとは言い切れない。
実際に同情などから解放しようと思うのは十分にあり得ると思う。
「ですので、もしもそのように考えられたのでしたら、ふたたび私の元にいらしてください。王国に認められた奴隷商には、奴隷を一存で罰する権限も付与されています。それと……」
ガチャリ、と音と共に準備を終えた使用人たちが入って来た。
「奴隷とは別に家人としてメイドか執事を雇う事をお勧めいたします」
「それはなんでだ?」
「単純なことでして。あの屋敷は以前の持ち主の時に出入りさせていただいたこともありまして。2人、実質1人では少々手に余るかと。理想としては……そうですね、最低でも3人ほどお雇いになるとよろしいかと」
そう勧めてくれたのだった。
「ご主人様、台所と食料庫の方を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼むよ」
そういえば2人の服とか日用品も買い足さないと。
包丁とかは俺が以前買ったものがあるけどそういえば料理に必要なものを除いて日用品ってほとんどなかったな。
俺はアリュシエールさんからもらった屋敷の間取り図を見てみる。
さすがに家の権利書とか間取り図は羊皮紙に書かれているみたいだ。
見た感じ1階は水回りと倉庫部屋。それに主人用の部屋と応接室があるようだ。
2階は4部屋あるらしい。
水回りスペースはかなりの広さを使ってあるな。
それと地下室。ここは食糧庫として使用できそうだ。見た感じは水回りスペースと同じくらいの大きさだな。
公共トイレがすぐ近くにある為、トイレはなし。
どうやら元は塀伝いに壁と塀の隙間に水槽を用意して室内に引き込み水道としていたらしい。
なかなか面白い仕組みだけど残念ながら現在は壊れてしまっているようだ。
まぁ、家で使う水を溜めるのが吹きさらしって言うのもな。
せっかく広いなら室内に風呂を……。
いや、地下室があるなら下手に改装するよりは別に作ってしまった方が良いか。
と、なると結構色々用意する必要があるか。
倉庫を買い取ったときに中の資材も買い取ったはずだから、資材は十分。もし足りなければ買い足せばいいし、その量も最低限で大丈夫だろう。
ロスも明日には職人を紹介してくれるって言っていたし、小屋程度なら数週間で建てられる可能性も高い。
うん。
思った以上に早く解決しそうだな。
「ご主人様、水周りの確認が終わりました。掃除も行き届いておりましたのですぐにでも利用できます」
「あぁ、ありがとう。そうだ、エース。今日はもう夕方だから明日二人の服を買いに行こう」
「……ありがとうございます」
うん?なんか一瞬間があった気がするが。
まぁ、気のせいか。
「あら?来ていたのね?」
うん?ってアリュシエールさんか?
っておや?
「先ほどぶりです。リュウ様」
「ランプ?どうしたんだ?アリュシエールさんと一緒に来るなんて。というか二人して何を抱えてるんだ?」
「手続きが完了した書類とか、ギルドマスターからのお土産とか」
「お土産?」
ランプが抱えた荷物の中から何かを取り出した。
あれは……、ギルドの棒証か?
「本当はギルドマスター自らが渡したかったらしいですが」
「何か他の仕事が溜まってるらしいから、代理で渡しておく。貴方のCランクの棒証よ。古いランクの物は次にギルドに行ったときに返しておいてね」
「え?Cランク?」
「今回のオーク討伐のご褒美だそうよ。あと、これ」
日用品がいくつかと、なんだこれ?請求書?
「今回、家の掃除はギルドを通して10人雇ったから。その請求書」
「えぇ……」
せめて相談してほしかったよ。
別に払えない額じゃないが、無駄な金は使うつもりはないのだが。
「代金請求はギルドの支払いと一緒に回しておくわ。今回はギルド関係の仕事だから急遽参加できる冒険者10名ね」
なになに?
『冒険者10名強制招集。放置屋敷の掃除及び資材の運び込み約2時間。手数料込琥珀貨5枚』
え、琥珀貨5枚か。まぁ、10人2時間雇ったにしては……。いや、高いな。どう考えても。
ギルドの掲示板で見たことある掃除の依頼の報酬は銀貨2枚とかだったはずだから琥珀貨2枚が妥当じゃないか?
まぁ、いいか。勉強料だと思おう。
「私も、稼がせていただきましたよ」
ちゃっかりしてるな。このじいさんも。
「老い先短い身ではありますが、生活費くらいは稼いでおきませんと」
そういえば俺への支払いと冒険者仲間の死体の回収でほとんど財産使っちまったって言ってたな。
冒険者も引退するって話だったし。って……うん?
「なぁランプ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「はい?どうかされたのですか?」
「冒険者は引退する、みたいなことを言っていた気がするんだけど」
「えぇ。さすがにこの歳からパーティーを探したりするのは大変ですから、どこか山の方へ行って畑でもしながら隠居でもしようかと」
「そうか。……じゃぁ、俺のところで働く気はないか?」
「え?」
「もちろん冒険者としてじゃなくて、いや、冒険者として働いてもらってもいいんだけど、この家の家人……執事として働いてくれないかなと思って。もちろん嫌なら良いんだけど」
「それは、私は問題ありませんが。よろしいのですか?この通り老いぼれですから、お役に立てるかどうかは……」
「そこの二人が奴隷として働いてくれることになったんだけど、最低三人くらいは雇った方がいいぞってアドバイスされてさ。幸い部屋もあるし、どうかなと」
「いい考えね。ランプはこの町じゃ名の知れた冒険者。冒険者としての心得を教えてもらうにも、警備としてもこれ以上ない人選だと思うわ」
だよな。
あと、俺の思惑としては火の魔法を教えてほしいってところ。
もちろん俺に使えればの話だけど。
「一応、俺にもメリットもあるし、そっちにとっても悪い話じゃないと思う。部屋は2階の一室を自由に使ってもらって構わないから、どうかな?」
俺のその提案にランプが胸に手を当てて答えた。
上位者に対する礼だろうか。
そういう作法的なところも今後教えてもらえると助かるんだが。
「承知いたしました。執事の任、謹んで拝命いたします」
「おう。よろしく!」
こうして、俺は初めてのマイホーム、初めての家人を得たのであった。
それはさておき。
「さぁ!焼肉の時間だ!」
「「「はい?」」」
この新たな歩みを記念しなければならないのだ。




