4-12.奴隷商会
う、うさんくせぇ……。
この男、髭と緑のジャケットが絶妙なうさん臭さを醸し出している。
なんというか、わざとやっているんじゃないかと思うようなうさん臭さだ。
「セブンリングの若殿ではありませんか。ようこそおいで下さいました」
「お久しぶりです。オルデウス会頭」
2人が握手を交わす。
2人はなかなか良い関係のようだ。
「ところで、若殿はやめてください。特に今日は商会員としてではなく、友人の付き添いとして来ましたので」
「それはそれは。そちらがその友人様ですかな?」
「えぇ、紹介します。こちらはリュウ。最近売り出し中の将来有望な冒険者ですよ」
そんな持ち上げた紹介しないでくれ。
ちょっと恥ずかしいじゃないか。
「なるほど。お噂話かねがね。私はアスモス商会で会頭職をさせていただいております、オルデウス・アスモスと申します。以後、よしなに」
「あ、はい。こちらこそ」
俺はオルデウスから差し出された手を思わず握り返した。
ん?
なんだか手のひら側に比べて手の甲側が硬いような気が……。
もしかして拳を鍛えている人の手っていう奴なのだろうか?
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。すみません。なんだか手を鍛えているようでしたので」
「……驚きました。流石は、新進気鋭の冒険者、と言ったところでしょうか」
なんだかよく分からないが好評価をもらえたらしい。
「オルデウス会頭、実は彼は屋敷を買うことになりまして。家人を探しているのですが」
握手を交わす俺の後ろからロスがオルデウスに話しかける。
その声にオルデウスが反応を示した。
「なるほど、家人ですか。でしたら最近、何人かよい人材を仕入れましたから、ちょうどよいかもしれません。ご案内しましょう。どうぞこちらへ」
そういうとオルデウスは扉を開けて俺達を招き入れてくれた。
俺とロスもそれに続き扉をくぐる。
オルデウスについて行く際、俺はこっそりとロスに話しかけた。
「なぁ、大丈夫なのか?ロス?なんだか胡散臭そうな人だけど」
「ははは、確かに見た目はそうですね。ただ、商会としての実力と信用度は折り紙付きです」
聞けばここ、アスモス商会はアスタランテでも一二を争う奴隷商会なのだそうだ。
この町の代官からの信頼も厚く、商品は教育も行き届いており良質、取引に誠実で金銭に誠実との評価だそうだ。
商人としてはとても信頼できる人物らしい。
それがこの商会とこの男の評価だった。
「しばらくこちらでお待ちください」
そういって通された部屋はシックな調度品とソファが並んだ部屋でいかにも応接室といった感じの部屋。
暫くするとお手伝いさんっぽい人がお茶の入ったカップを持ってきてくれた。
「しばらく時間がかかりますのでこちらでお待ちください」
「ありがとうございます」
ロスが受け取ったお茶に口をつける。
俺もそれに倣ってお茶に口を付けた。
いや~、なんだかほっこりしちゃったな。
ここが奴隷を買うための商会だって忘れそうだ。
お?このお茶菓子はなかなか。
砂糖をたっぷり入れたただ甘いだけのお菓子じゃなくて果物の上品な甘さ。
無理矢理現代に当てはめるなら、スコーンの上に果物を乗せて焼いたような感じ。
果実乗せクッキーの方が近いか?
この果物は何だろう?
「これは旧帝国域で取れる果物のモッカの実ですね。ねっとりとした食感と甘さが特徴の果実です。おそらく去年の秋前に収穫したものを氷室に入れて保管していたものでしょう」
「去年の秋に収穫した実が今頃出回るのか?ほぼ一年たってるじゃないか」
「えぇ、この果実は未熟な状態で収穫して一定温度以下に保管しておくと3年近く持ちますから。ただ一定以上の温度になると2週間かけて熟していきますから、これだけ新鮮なものは珍しいですが」
「それは我が商会の運送部隊に特別に運ばせたものだからですよ」
お茶菓子を食べてロスと話していると、件のオルデウスが戻ってきた。
「氷魔法を使えるものに水の中に氷を入れてもらい、水ごと馬車に積み込んで運んできたのです。骨が折れましたよ。なんせ運賃だけで金貨2枚分はかかりますから。あとはトゥノー公爵領に運び込んで冬を越し、春前にこちらの氷室に移したのです」
へぇ。手間がかかってるな。
しかし、そこまでして食べたい果物だったのかな?
「いえ、全然。ただ、このようにしていれば奴隷たちの良い訓練になりますし、借金奴隷たちが少しでも返済を行う事が出来ますので。我が商会では果実運び、書類精査、折衝業務は訓練として行っております。まぁもっとも、さすがに販売に回すと高額になりすぎますのでこうしてお客様にお出しするお茶うけにさせていただいているのです。もしお気に召されたのでしたらいくつかご用立て致しましょうか?」
「え?いいのか?」
「えぇ、もちろん。もっとも、それなりの金額はいただくことになりますが」
どこからか、バケツ一杯に入った果実を取り出してきた。
「少なくともこのバケツ売りで金貨1枚くらいは……」
「わかった。貰おう」
「え?」
俺は金貨1枚を取り出し手渡した。
代わりにバケツの中に入った果実を一つ貰う。
見た感じはアボカドっぽい。
包丁を取り出して刃を入れてみると、予想通りすぐに固い部分にぶつかった。
固いものに沿って回していくとすんなりと切れて行った。
切れた果実を捻るように回して左右を分割すると辺りに甘い匂いが広がった。
うーん。
見た目はアボカドだけど匂いを嗅いだ感じは熟す途中のパパイヤっぽい。
焼肉のたれに使えるかもしれない。
青パパイヤに含まれるパパイン酵素は強力なたんぱく質分解酵素だったはずだ。
さらに糖質分解酵素であるアミラーゼや脂質分解酵素であるリパーゼも含まれる対食物最強の果物だったはず。
強力すぎて扱いが難しく、漬ける時間の調整が必要、そんなイメージだった。
「驚きました。モッカの実をご存じだったのですか?」
「いや、初めてですけど。似たような植物を知っていたというか。まぁ、中身は全然違うっぽいんですけど。もしよければ、バケツ一杯追加で購入しますので、氷室から出したてのもっと熟してないものもいただけませんか?」
「……かしこまりました。用意させましょう。……なるほど、セブンリングの若殿が推すはずですね」
「オルデウス会頭、若殿は……」
「えぇ、わかっておりますとも」
「そういえば、なんで『若殿』なんだ?」
ちょっと気になったので二人の会話に割り込んでみた。
さっきも言ってたけど『若殿』ってそもそも何なんだろう?
「あぁ、それは、私が現会頭の甥にあたる血筋だからですね。父の兄君が会頭をなさっています。まぁ、今の私は商会所属ではありませんので」
へぇ。結構いいところのお坊ちゃんだったんだな。
それなのにあんなに夜中まで働いてくれていたのか。
頭が下がる思いだ。
「エレナ。彼女達を連れてきなさい」
「彼女達ですか?しかし、まだ……」
「このお方であれば問題ないでしょう。連れてきなさい」
「畏まりました」
俺達が話している横でオルデウスと出迎えてくれた女性が話しているのが聞こえた。
「失礼、リュウ様。ぜひ推薦したい商品がございます」
そう、オルデウスが俺に向かって言う。
はて?
暫くして、応接室の扉が再び開かれた。
「失礼いたします。商品を連れてまいりました」
そう女性が恭しく礼をして入って来た。
一歩引いた彼女の後ろには……。
「し、失礼いたします」
銀髪に金の瞳の女性と、その女性の影に隠れて赤毛に金の瞳を持つ少女が立っていた。




