4-10.倉庫内見
「おぉ、でっけぇ……」
「そうですね。正直なところ、うちでも持て余していまして」
俺はロスと内見の物件に来ていた。
アリュシエールさんやギルドマスターは先に店舗の方で物件の書類やらなんやらを用意してくれるそうだ。
まぁ、あっちの家はもうほぼ購入を決めたようなものだからいいんだけど。
こちらの造りはもう完全に倉庫といった感じで間口が広い。
高床式と縁側で構成された造りはなんとなく日本の古い家を思い起こすような作りだ。
「ロス、あの縁側って何のためにあるんだ?」
「縁側?あぁアレは商品の搬入口ですね。ここは元々別の商会の倉庫で、今はあちら側が壁で囲われていますが、以前はあちら側から馬車の出入りが出来たそうですよ。専用荷馬車で乗り入れることで商品の搬入を楽にしていたようです。薬草倉庫の前は穀物倉庫だったらしく、そのころに作られた設備のようですね」
へぇ。穀物の倉庫だったならこの高床式も納得だな。
ロスが喋りながらも倉庫のカギを開けてくれる。
大きな南京錠がガチャリという音と共に解錠される。
ふと思ったがこの世界でも南京錠は南京錠なんだろうか?
あれってそもそもなんで南京って名前がついてるんだろうか?
ガガガッという扉がこすれる音と共に扉が開いていく。
「うーん。やはり大分ガタが来てますね」
引き戸ってなんだかヨーロッパ風のこの世界では珍しい気がする。
「珍しい形状の扉だな」
「あぁ、これですか。100年くらい前までは多少なりともあったらしいのですが、近年は防犯などの面から強化扉などが増えましたからほとんど見ることはなくなりましたね。うちの商会でも一度は撤廃されたのですが、最近は町が比較的安全になったので、商会などの大きな間口が必要な場所では、また多少は使われるようにはなったのですが」
安全になったってのはどういう事だろう?
まぁ、政策や社会政策が上手く行っているという事だろう。
「まぁ、もっとも。今回のように騒ぎがあると強化扉などにしていかないといけませんがね」
騒ぎというのはオークの騒動の事だろう。
確かにオーク相手じゃ、引き戸じゃあっという間に壊されてしまいそうだ。
日本だと今でも当たり前だけど、中世の日本がヨーロッパに比べて安全だったという事だろう。
それにしてもこの佇まい。
なんか日本的な……、そうだな例えると古い町の雑居ビルの間にある銭湯とかそんな感じ。
ちょっと残念なのは屋根が瓦じゃないところと煙突が見えないところか。
いや、言い過ぎか。
多分、昨日まで風呂の事を考えていたからそう見えるだけだろう。
「そういえばロス、持て余してたって言ってたけど、この家屋なんか欠陥でもあるのか?」
「欠陥と言いますか、元穀物倉庫だっただけあって足元はしっかりしていて頑強ですね。ただなんせ古い建物で足元をあげている分、天井が低く感じられて最近の流行からは外れています。構造は奥に広くなっています。あとは、これを動かすのが大変なのでそれが嫌厭されている感じですかね」
中に入るとむわっとした埃と湿気の匂いが嗅覚を襲ってくる。
こりゃ、だいぶ長い事、風通ししてないな。
倉庫の中には大量の板材やら角材が置かれていた。
殆どが埃をかぶっているが全然まだ使えそうな感じ。
……ただ、若干短めなのかな?
1本は2mくらい。
小物にするには大きく、大きなものを作るには短い大きさ。
「一時期、流行りで大量に仕入れた山の方の木材なのですが、こっちまで運ぶために短めにしているため建材には利用できず、薪にするには更なる加工が必要で手付かずな状態だったのです。石材は庭の方に」
へぇ。そんな感じだったのか。
たしかに、このくらいの木材って意外にも使い勝手が悪かったりするからな。
俺ならどう使えるだろう?
そもそも倉庫としての役割はインベントリに入れればいいし、木材たちをここに置いておく必要はない。移動もインベントリに入れればいいからはるかに楽だ。
木材の活用方法としては小屋の下段を石材で整えて、上段に和風建築の要素を入れて、無双窓で換気とちょっとした露天気分を……。
って、だめだ。
今はどう考えても風呂にしかならない。
……あぁ、そうか。
「ロス、ここは改装は自由にしていいのか?」
「えぇ。というか、むしろお願いしたいですね。何か活用方法があればそちらでやってもらっていいですよ。必要な場合は我々の商会からも職人をご紹介しますよ」
「そうだな。大工と設計士みたいな人がいれば紹介してくれ」
「分りました。すぐに手配しましょう」
そうロスが答えた。
その答えに俺は満足して大きな倉庫を見上げた。
新しい家でテストをした後はここの改造をしてみよう。
うまくすればこの建物の価値は一気に変わるだろう。
『銭湯』
それが俺がここの大きさを活用できると感じた可能性だった。
まぁ、時間はかかるだろうけど。
やれるだけやってみよう。
「ではこちらの条件で商会とギルドで話をまとめて置きます」
「あぁ。頼むよ」
ロスと少し話をした後はロスに手続きを任せる。
これで報酬から金貨150枚、そしてアリュシエールさんの手続きで手に入る家で金貨50枚、ギルドの報酬から減額されることになる。
とはいっても未だ500枚を超える金貨が報酬として提示されている。
「ところで、なんでロスやアリュシエールさんは今回物件を紹介してくれたんだ?」
「あぁ、そのことですか」
ロスが書類をまとめながら答えた。
「ああいったギルドからの要請というのは実はよくある話なのです。探索で鉱脈が見つかったとか、大きな利益になるものが見つかった際に出し渋ればギルドへの冒険者たちからの信用はなくなってしまいます。とはいえ、支部一つで抱えるには財政的な困難が伴います。本部へ連絡が容易でじっくり考えられる時間があれば良いのですが、今回は『生もの』ですので時間もありません。そういった場合は伝手のある商会が報酬の一部を肩代わりを申し出て、その代わりに今後の利益や権益で優遇してもらう、というのが割とよく起こるのです。今回は特にギルドは日報を報告する馬車を襲われた直後でしたから、多少の資金を持っていかれた後だったのでそういうこともあるかなと思って事前に手を打っておいたのです。まぁ我々としても今回の取引は良いことづくめでしたから損はしていません」
なるほど、それで異様に準備が良かったのか。
今回の二軒の物件はどちらも商会内で持て余されていた物件らしいし、確かに二つの商会には損はなかったのだろう。
商会は、金貨150枚と金貨50枚で今後の利益と在庫処理を同時に行え、ギルドは支払いができないという汚名を回避できる。冒険者は物納にはなるが予定通り報酬がもらえる、といったところだろうか。
「あ、そうだ。ロス。一応、ついてきてくれたエルとカルバラにも分け前を渡してもらえるか?」
「いいですけれど、リュウの報酬から減額で良いのですか?」
「あぁ、それでいい。金貨50枚ずつくらいで」
二人ともついていっただけだからとか、カルバラはギルドからボーナスが出るからとか、いろいろ言って断られていたが、多すぎない金額なら問題ないだろう。
何なら送り付けて知らぬ存ぜぬで通すという手もある。
ある程度、現金は確保しておきたいとはいえ、このくらいの金額ならいいだろう。
……それでもまだ400枚以上になるんだし。
「わかりました。手配しておきます。ふふふ、焦るエルの顔が楽しみですね」
そうくすくすとロスが笑う。
こいつはこいつで結構いたずら好きっぽいよな。
「そういえばリュウ、先ほどエステルアリト商会の持ち込み物件を軽く見せてもらったのですが」
「うん?あぁ、アリュシエールさんがくれた資料のことか。どうかしたのか?もしかして有名な事故物件とか?」
「いえ、そのようなことは。ただ、老婆心ながらアドバイスさせていただきたいのですが、改装は明日以降からするとして、今日のところは家人を雇うことを優先したほうがよろしいかと思います」
「……家人?」
なんだそりゃ?




