4-8.報奨金仮査定、大金
「いや、驚いた。見違えたよ。……えっと」
「ランプ、で良いですよ。貴方は私に気力と誇りを取り戻してくださった大恩人ですから」
いや、大げさすぎる。
俺は死体の場所を教えただけだし。
「あなた、『炎熱の使徒』のランプと知り合いだったの?」
「あぁ、まぁ。ここに来たときに色々」
本当に色々あったからね。
牛とかティラノサウルスとか。
あぁ、そういえばあの牛やティラノサウルスを狩りに行くのもいいな。
ティラノサウルスが牛を襲ったことから、最低でも牛の方は美味いと予想できる。
飼育環境下じゃないから、霜降りのような柔らかい肉じゃなくて硬い赤身肉だろうがそれはそれで楽しみだ。
今度、森の奥に行ってみるか。
「まったく、散々な目に遭ったわ!」
ギルドマスターが拘束によって固まった腕を回しながらこちらにやってくる。
「あぁ、もう。もう少し縛られてもよかったのに」
メイド服姿のモミジさんが服に付いた埃を払いながら後ろに続く。
どうやったのかメイド服は縛られていたはずなのに皺ひとつない。
え?なに?そのメイド服、形状記憶材質か何かなの?
現代にも折り目のつきにくい布ってのはあったけどさ。
「このような戯れはほどほどにせい!おぉ、ランプ。戻っておったか!」
「えぇ。今朝30名の冒険者と共に無事帰還いたしました」
帰還?って、あぁ、そうか。
そういえば、あの遺体を回収するための依頼とか出してたな。
それのことかな?
「おかげさまで無事回収できました。ありがとうございます」
「ギルドに長年貢献してくれたお主等の為だ。ギルドも協力は惜しまん。今朝戻ったのなら疲れもあるじゃろう。ご苦労であった、ゆっくり休むと良い」
「えぇ、そうさせてもらいますよ。私の最後の大仕事でしたから」
そうギルドマスターに言われると、ランプは下がって行った。
身綺麗になった精力的な格好とは裏腹に、その背中は少しだけ寂し気に感じた。
「最後?」
「ん?あぁ、歳が歳だからな。この任務が終わって埋葬が終わったら冒険者を引退してどこかで隠居生活をするつもりらしいぞ」
そうか、隠居か。人間ならいずれはそうなってしまうだろう。
老いというのは人である以上、避けては通れない。
考えたくはないが、俺だっていずれ焼肉を食べられなくなることも来るだろう。
「いくら有名冒険者と言っても、パーティーも組まずに冒険者業は難しいからな。一人ではなかなか割の良い仕事も渡してやれん」
「そうなのか?有名冒険者なら一人でも引く手数多じゃないのか?」
「老体だからな。知恵袋としては良いが冒険には不向きだし、どうしても他の冒険者に比べると、な」
ふーん。
そういうものなのだろうか。
俺ならむしろその知恵袋として雇いたいくらいだけどな。
ただ、確かに冒険者ってのは仕事の一覧を見てもわかる通り、一部の有名冒険者を除けば短期間雇いの何でも屋みたいなものだから拠点や屋内での仕事っていうのは意識が薄いのかもしれない。
いくら得意な仕事でも仕事がなくなれば別の土地に移らざるを得ないだろうし、そういった転々とした生活を好むものもいるだろう。
もしかしたら俺の様に拠点を構えようとする方が珍しいのかもしれない。
「ほれ、二人とも上に来てくれ。リュウの報酬のことで詰めなきゃならんからな」
ランプの話もほどほどに、俺とアリュシエールさんはギルドマスターに呼ばれて二階のギルドマスター執務室へと通された。
ドカッとギルドマスターが椅子に腰を下ろす。
ギルドマスターの後ろには身の丈もあろうかという大斧が鎮座して存在感を放っていた。
「さて、まずはこいつを見てくれ。リュウの持ってきたオーク、オークキング、ヘビーウェイトコングの仮査定の報告書、それにオリーヴィアのエルフに渡したオーク分の査定書だ」
ギルドマスターが、バサッと書類の束をこちらに寄こしてくる。
「なになに?オークの買取が1匹金貨12枚。状態によっては減額査定が行われるが全43匹の査定を行う、暫定516枚。オークキングの素材は買取不可、ただしネームドクラスだったことを踏まえ報奨金金貨150枚を出す。また、オークの集団を壊滅し未然に危機を防いだことで追加の報奨金金貨100枚。ヘビーウェイトコングも同様の状態と仮定し、金貨32枚、依頼外の討伐なので依頼報酬はなし。解体は1匹琥珀貨1枚。45匹で金貨4枚と琥珀貨5枚。これらすべてを了承した場合、金貨798枚。差し引き金貨793枚と琥珀貨5枚。オリーヴィアのエルフに渡した5匹分の査定は金貨50枚。仮払いとして行う。差額はオーク討伐の報酬から差し引きを行う。なお仮査定の値段からの差額分は特例として一時預かり対象とする、っと」
まぁ、予想通り。
ちなみに一時預かり対象というのは仮査定額を先払いするから減額査定が適用された際は今後の活動で得た報酬やギルドに預けた金などから徴収させてほしい、というギルドの特例制度らしい。
こちらに不利なように感じるが、その辺も無理に徴収はできず、ほとんどギルドの体面を保つために使われる制度であるらしい。
個人的にはもう少しヘビーウェイトコングが高いかと思ってたけど、こんなもんか。
ただ懸賞金はうれしい。合計で250枚ももらえたな。
これだけあれば家も買えるんじゃなかろうか。
「で、ここからが本題だが。はっきり言ってギルドにはこれだけの金額を払う余裕はない」
「えっ?」
「考えてもみろ。おおよそ金貨800枚だぞ?そんなもん、いちギルドが一気に払えるわけなかろう。ちょっとした豪邸が建つレベルじゃ」
……な、なるほど?
払えないものなのか?
何か勝手なイメージだけど、ギルドって結構金持ってるイメージがあるんだが。
「そんなわけがあるか。考えてもみろ。村や町が出している依頼が毎回冒険者たちが納得のいく金額で出てくるわけではない。中には明らかに足りない時もある。だがそういう依頼こそ、何処にも頼めず、本当に困っている奴の依頼だ、と言うのがギルドの基本方針じゃ」
確かに。言われてみればモンスターに困っているからと言って、例えば買い取りの金貨32枚を村や個人が払えるとは思えない。だからと言って安すぎると冒険者たちは引き受けてくれないだろう。しかも、今回のように依頼を受けて買取=報酬ならともかく、普通は報酬と持って帰れた体の一部などの買い取りになるのだろう。そうなってくると冒険者たちの命のリスクの方が高くなってしまう。そういった依頼はいつまでも受けてもらえないだろう。
「そういった、あからさまに足りない部分はギルドが補う。そのうえで手数料や素材の売却益で利益を出して還元しているのが冒険者ギルドじゃ。もちろん、場所によっては領主などとのつながりで利益を出しているものもいるがな」
なるほど。確かに言われてみれば、公共事業や日雇労働斡旋所に近いんだもんな。
「という訳でじゃ。ギルドとしては今回減額交渉をするつもりもないが、一括で払うには先立つものがない。だが、払わないというのはギルドの体裁として非常にマズい。そこで、だ」
「それで私のところに連絡が来たのね」
「そうだ」
どういう事だろう?
「エステルアリト商会は少しだけだけど不動産も取り扱っているの。先日、殿下を通して貴方に物件を融通するように連絡があったの。ギルドと領主代行の連名でね」
え?
もしかして、思いもよらずマイホームをゲットするチャンスか?




