4-6.ローズ専用特別メニュー弁当
「実に有意義な会議でしたわ」
「さいですか……」
たっぷり二時間くらいは下着談義に巻き込まれていたな。
いや、提案したのは俺だけども。
なんというか、非常に疲れた。
まさか女性用下着の話を二時間もさせられるとは。
「助かりましたわ。リュウ様。お礼は楽しみにしておいてください」
「お礼?」
「ギルドマスターから伺いましたわ。貴方、大量のオークをギルドに持ち込んだそうですわね?」
「ん?あぁ、まぁ」
「でしたら、私からも口添えさせていただきましょう。量的にギルドだけではオークの買い取りは難しいでしょうし、私の持てる財産の中から少しだけ支援させていただきますわ」
え?支援?なんか悪いな。
まぁ、王女様の持てる財産ってもとをただせば王家の財産、要は国の財産だろうし、ギルドを支援って言うのは国による金銭的支援とかだろうか?
「っと、そうだ。忘れる前に。これを渡しておこう」
俺はインベントリの中から今朝作った『弁当』を取り出した。
「今日帰るって聞いてたからな。新作の弁当を作っておいた」
「お弁当?……ですか?」
「あー、持ち運びやすい調理の方法で殺菌効果の高い容器に入れた料理とでもいうか。まぁ、お昼用の携帯食だと思ってくれたらいいよ。レシピも入ってるから、気に入ったら料理人にでも作ってもらうと良いよ」
「ありがとうございます。助かりますわ」
俺は大きな葉にくるまれた弁当をローズさんに手渡す。
ふわりとバラの香りが漂う。
「……仄かにバラの香り?」
「まぁな。ローズさんの名前からバラを使った何かができないかなって思って。そういえば最近は焼肉バイキングでもサラダチキンとかおいてあるなと思って」
焼肉バイキングって結構いろいろあって面白いんだよな。
新しいソースとかタレの刺激になる。
今回、弁当として作ったものは割と単純だ。
まずは木の棒とブロック、二つの鍋で簡易蒸し器を作る。
水を張った鍋の上に木の棒を並べてきれいな布を置いておく。
鍋に少量の水を張って、かまどの鍋の周りにブロックで足場を作る。
この鍋より一回り大きい鍋を逆さにしてかぶせると簡易的な蒸し器の完成だ。
昨日エステルアリト商会で手に入れたローズティー用のバラの花を花びらにバラしておく。
おっと、ダジャレじゃないぞ?
綺麗な布には昨日使わなかったウサギのモモ肉を入れた。
フォークでいくつか穴をあけたウサギのモモ肉とバラの花びら、少量の油、ハーブをきれいな布に包んで、バラの花びらとルーヴを煮て砂糖大根の煮出し汁にバラの香りを纏わせる。
この煮出し汁を作る際の湯気で肉を蒸すのだ。
この煮出し汁はあとでソースとかに使うと良い感じになるが、現代でも鶏肉などの下ごしらえとして5%塩糖液……いわゆるブライン液を作ると柔らかくジューシーに仕上がるので覚えておくとなにかと便利だ。
今回はこれで15分ほど蒸し上げるとバラの香りが移るんじゃないかと思ってやってみた。
蒸しあがった肉を薄めに切って余っていた新鮮なバラと共に弁当箱に並べるのだが、今回は布に包んだまま弁当っぽい箱に入れておいた。
弁当箱は昨日の市場で仕入れたものだが、この箱に入れておくと少しだけ食材の持ちがよくなるらしい。
多分、笹の皮や葉蘭のように木自体に抗菌作用がある木なのだろう。
ちなみに葉蘭とは現代におけるプラスチック製のバランの元になった植物の葉っぱで、よく高級寿司の詰め合わせみたいな弁当や川魚の料理の下敷きに使われている大きな葉っぱのことだ。
ソースの方は小さい壺にマスタードソースと、煮出し汁とベリーを使ったジャムのようなソースを作っておいた。
低温でじっくり煮込むジャムが俺の好みだが、これはあくまでソースなのでそこまではしなくていい。
サクッと片手間で作っておいた。
……?え?今回こそ焼肉じゃないだろって?
いやいや、何を言っているんだ?焼肉屋には点心などの蒸し物も、それなりに置いているところは多いから、これもちょっと特殊なだけの焼肉屋の料理、つまり……焼肉だ!
「ありがとうございます。道中いただきますわ」
「そうしてくれ。あぁ、そっちの小さい奴はソースだから好みで付けて食べて」
ローズさんが弁当を親衛隊っぽい女性に渡す。
親衛隊っぽい女性は何も言わずそれを受け取って下がっていった。
おぉ、さすが王族のお付き。眼力がすごい。
というかめちゃくちゃ睨まれている。
毒とか入ってないから。ただの弁当だから。
「リュウ、すまなかった。姫のわがままに付き合ってもらって」
「いや、まぁいいよ。俺、同席しただけだし」
「なんというか、姫は研究熱心というか、偏執的なところがあってな。一つの事を考え始めると、どうもとまらない気質があってああいう事は割とあるんだ」
まぁ、気持ちはわからんでもない。
俺だって焼肉の事を考え始めたら、止まらなくなる自信はある。
たぶん、トマスだって剣術とかなにか止まらなくなるものはあるんじゃないだろうか。そう、誰だって何かの変態なのだ。
「そうだ、リュウ。後で殿下からも来るとは思うが、我々も来週には一度、王都に帰る予定だ」
「ん?そうなのか?」
それはちょっとさみしくなる。
「それですこし相談があるんだが、リュウも王都に来ないか?」
「王都に?」
「道中の護衛をしてほしいというのもあるが、私もエルも最近はリュウの食事以外は考えられなくなりつつあるからな」
ありがたいことだ。
順調に焼肉が布教されているな。
だけど。
「悪いけど、しばらくはアスタランテを拠点にしようと思っていてな。まだこの辺の特産とかも探索しきれてないし」
何か焼肉に使えるものがあるかもしれないし。
そうやってメセグリン酒やワインビネガーや魚醤を見つけたわけだから、まだまだこの辺りには隠れた食材があるはずだ。
はちみつが豊富に手に入る場所ではメセグリン酒のような工夫された酒は見つけられなかっただろうし、魚醤も種類があったから、もっといろいろあるかもしれないのだ。
これをみすみす逃す手はない。
「そうか、残念だな」
「まぁ、絶対に行かないってわけじゃないし、王都とかって多分うまいものがここ以上に集まるだろうし、いつか観光に行くよ」
「あぁ。まぁ、我々が王都に向かうのもまだしばらくある。気が変わったら教えてくれ」
「気が変わったら、な。っとそうだ、忘れないうちに」
俺はインベントリから壺を出してトマスに押し付ける。
「これは?」
「ヨーグルト漬けのウサギ肉。渡した分、もうないだろ?」
中身は俺たちがオリーヴィアの里に発つ前、トマスに渡したものと同じようなものだ。
キャベツと肉を交互にヨーグルトの漬け汁に漬けたもの。
「いいのか?」
まぁ、俺の焼肉を絶賛してくれたからな。
それにトマスはネギ塩ポメロ焼きも食べられてないからな。
せめてものお礼のつもりだ。
「ありがたく、頂いておくよ」
そういって俺はトマスとローズさんと別れたのだった。
俺は二人と別れて空を見上げる。
アスタランテの空は現代の空の様に建物が多く圧迫感がある。
建物の隙間からひょっこりと顔を出した雲がもうすぐ夏が来るぞと、語りかけてくるような気分になる。
夏といえばやはり夏野菜を使った焼肉だろうか。
網の端で低温で軽くあぶる感じでトマトやキュウリやピーマン、じっくりあぶる感じで玉ねぎやトウモロコシもいい。
あぁ、網で焼いた香ばしく甘い野菜の香りがしてくるようだ。
俺は思いっきり息を吸い込んだ。
……ん?
……いや、汗くさっ!?




