4-3.ペルシャード風ミートボール、実食
「ほら、並べるの手伝ってくれ。ってあっつ!?まだ熱いな」
「儂に任せい」
ドラムレットが素手でオーブンから取り出した耐熱皿を運ぶ。
「熱くないのか?」
「ドワーフにはこのくらい、なんてことないわ」
おぉ、すごいな。
流石ドワーフ。
鍛冶で鍛えた耐熱性能もあるのだろうか?
「せっかくじゃ、今日は上に誰もおらんからな机を出させよう」
「既にご用意しています」
ドラムレットの後ろからメイドさんが出てくる。
モミジさん、だっけ?
「はい、アスタランテギルドマスター、ドラムレットの愛欲奴隷。モミジでございます」
「それはもういいっちゅうんじゃ」
目の前で繰り広げられる漫才を見つつも俺たちの足は二階へと向かって行った。
解体場の二階に上がるとモミジさんの言う通り、既にテーブルが用意されていた。
円形のテーブルが二つ並んでおり、それぞれ椅子が3つずつ並んでいる。
エル、ローズさん、俺、ギルドマスターのドラムレット、サブマスターのモミジさん、カーティレイジ氏で6人分なのだろう。
「ほれ、さっさと並べんか」
「ん?あぁ、すまない」
ドラムレットに急かされたので敷きパットを並べる。
この敷きパットはなんだかコルクっぽいな。
熱された鉄の皿にはやっぱりこういう方が良いんだろうか。
俺が敷きパットを並べるとドラムレットがその上に皿を、そしてモミジさんが全員分のフォークを2本ずつ並べてくれる。
今まで俺たちが使ったことがないような三本爪の銀製のフォークと、二股のフォークだ。
前も言ったかもしれないが、この世界の庶民のフォークは三本爪の木製のものが主流。
やっぱり王族ともなると銀製のものを使うんだろうな。
ってあれ?そういえばエルは木製のものを使って居た気がするが?
アレは俺の所持品に合わせてくれていたのか?
よくよく考えたら銀の食器って毒の検知とかにも使っていたって話だから、木製の食器を使わせるのは悪かったかな?
「お茶は青茶を用意しました」
青茶?
見た感じ緑茶っぽい見た目だ。
現代のものと比べると若干色が薄い気がするが、まぁいいか。
パンは向こう通りのか。
あそこのはこの町のスタンダードスタイルって感じで塩だけの味付けなんだよな。
「さて、みんな揃ったな。それじゃ……」
「「「「「「いただきます」」」」」」
俺とエルは日本スタイルの合掌。
他のみんなは祈るように手を握るスタイルだ。
エルはどうやら俺と食べるうちに俺のが移ったっぽい。
二階にいた皆が思い思いに肉団子に手をつけ始める。
モミジさんとローズさんはお茶から、エルは三本爪フォークで、残り二人は肉用の二股フォークを使って食べ始めた。
俺は勿論肉から。
三本爪のフォークの方が食べやすそうなのでそちらを使う。
「ほぅ。これは……」
「なんと!驚いたのぅ!」
そう言うのはエルとドラムレット。
「まさかウサギの肉がこれほど柔らかくなるとは思わなかったな」
「まったくじゃ。それにこのサクリサクリとした食感が良いな!」
エルとドラムレットの話を聞いてローズさんが手をつけ始める。
「まったく、それほどの絶賛をするほどの物なのかしら」
そんな憎まれ口をたたきながら、ローズさんも三本爪フォークを差し込んで口に運ぶ。
今回は女性でも食べやすいように肉団子自体は小さめのものにした。
それにソースも垂れにくくシンプルなものにしたのでドレス姿のローズさんでも食べやすいだろう。
「これは!食べやすいですわね。元々たんぱくなウサギ肉と味や食感を邪魔しないパン粉とハーブ」
「えぇ。ソースが薄そうでしたけど肉に負けないサクサク感とハーブの香りとバターの風味、素晴らしいです」
「なるほど肉団子状にすることで一口で食べやすく、パン粉もこぼれにくいように工夫しているのですね。それにこのハーブの複雑な香り。細かく刻まれて混ぜ込まれているからこそすべてのハーブの味が複雑に絡み合うとは」
それぞれが思い思いに感想を言いながら食べる。
俺はその間にお茶をすする。
青茶と言われたそれは、見た目通り緑茶だった。
お茶が緑茶なのでもう少し料理を日本風にした方が良かったかもしれない。
……しかし、緑茶か。
そういえば出発前にも緑茶のようなお茶を出された気がする。
茶葉があるということはうまくすれば烏龍茶を作れる、ということだ。
一般的に緑茶、烏龍茶、紅茶の茶葉は同じもの。違うのは発酵具合だったはずだ。
もちろん、適した品種というのは存在したはずだが、基本的にはすべてチャノキから作られているはずだ。
俺の知識だと緑茶は新芽、ウーロン茶と紅茶はある程度成長した厚いものから作ってるんだっけ?
ここに緑茶があるということは少なくともアスタランテ市内で手に入れることは可能だという事だろう。
今度『目利き人』に手伝ってもらって探してみるのもいいな。
上手く発酵させることができればウーロン茶を作れるかもしれない。
なんせウーロン茶はビールと合わせて焼肉屋のマストドリンクだからな。
この世界で焼肉を作るつもりなら外せない。
最近ではハイボールやレモンの酎ハイ、キンキンに冷えたジョッキに注がれた麦茶なんてものも用意されているが、やはり焼肉と言えばウーロン茶が外せないと思う。
まぁ、それはさておき。
今は目の前の焼肉を楽しもう。
エルも王女様もギルドのメンツもうまそうに食うなぁ。
これだけ美味そうに食ってくれると作り甲斐もあるってものだ。
「ふぅ。満足しましたわ。お兄様、まさかここひと月いつもこんな美味しいものを独り占めされていらしたのですか?」
「独り占めというか、クラシタの分も含めたら二人占めだな」
いや、別に独り占めされてるつもりはないが。
俺はあくまで俺の分を作ってるだけだし。
「こいつに作らせると大体なんでもうまくなるからな。知識もあるし、機転も効く」
「機転?……へぇ、そうなのですね」
「このビネガーにしてもそうだ」
「ビネガー?」
エルが俺の持っていたビネガーの樽を抱えた。
量が少なくなってきたので小分けに樽に入れて置いたやつだ。
そういえばさっき調理したときに出しっぱなしだった。
「ローズ、ビネガーの作り方は知っているか?」
「いえ、存じ上げません。しかし、確かひぃお爺様の代の職人が確立された方法を体系化した、みたいなお話はお聞きしたことがありますが」
「そうだ。おじいさまのお父様、つまり先代の王の側近が体系化した作り方が今は主流だが、これを凌ぐ速度でビネガーの作りができるかもしれない。まぁ、まだ空論の段階だがな」
え、俺なんか言ったっけ?
エルが言っているのはおそらくオリーヴィアからの帰りに話していた内容だろう。
俺が小分けにしたワインビネガーをさらに小分けにしているときに話しかけてきたのだ。
小さめの樽の半分くらいになってしまったので小さな調味料用のクルエットに小分けにしたのだ。
ちなみにだがクルエットとは西洋風醤油さしだったり卓上調味料瓶だったり、そんな感じの入れ物だ。
日用雑貨を買った際に使うかもしれないと一緒に買っておいた。
まぁ、そこをエルに見られたわけだが、あの時はどんな話をしていたかな?
たしか、宿屋の親父さんに分けてもらったことを話して、ワインビネガーのできる条件を話して。
あぁ、そうそう。たしか効率的に作るために、製塩の知識から流下式塩田や滴下法の話になったんだった。
『酢』の効率的な生産を可能にしたブールハーヴェの滴下方式は、現代の酢づくりの基礎にもなった、人間の食料史のターニングポイントの一つだからな。
マヨネーズやケチャップなんかの調味料を手作りする際にも酢は使うし、ちょろっと覚えていたから、ドヤ顔で披露した記憶がある。
今思うと、だいぶ恥ずかしいことをしているが。
「そんな大げさにいう事か?」
俺の言葉に、エルが大きくため息をついた。
「大げさなものか。酢は保存料としても使われる。もし生産が早くなれば世界の食料事情が一変するぞ」
そんなものだろうか?
「なるほど。お兄様がおっしゃった意味が少しわかった気がします」
何でローズさんはそんなに物分かりがいいのかな?
「リュウ様。この料理、見事でありました」
「あぁ、どうも」
「それで、折り入ってご相談がありますわ。明日、もう一度お会いすることはできませんか?今度はクラシタ騎士団長も一緒に」
クラシタ……あ、そうか、トマスのことか。
「まぁ、話を聞くくらいなら」
「感謝しますわ。あと、今回のお礼は別に考えておきますから、ご安心を」
いや、別にいらないんだが。
はぁ、なんかずいぶん疲れた。
はやく鉄板街灯亭で癒されたい。




