4-2.ローズの要求
「えっと、お断りします」
「そうですか、では早速準備をって、えぇ!?」
「「「えぇ!?」」」
「えぇ!?」
その場にいた全員が驚く。
あまりの驚きっぷりに遅れて俺も驚いてしまった。
「えっと、何をそんなに驚いているんだ?」
「何をって……、お前このお方がどのような方かは知っているのか?」
どのような方かって言われても初対面だしな。
「あ、でもエルの妹って事は、王族か」
俺の言葉にギルドマスターが再び頭を抱えた。
エルが1人笑いをこらえているのが目に入るが、少し煩わしい。
「お、お前、相手が王族と知ってなお、招待を断ることの意味が分かっておるのか?」
「仕方ないだろ?だって俺、焼肉を作って提供じゃなくて、提供された焼肉を食べたいんだから。そんな奴、料理人としては使えないだろ?」
俺はローズさんの方を見てそう宣言した。
当然の話だ。
俺は自分で食べる焼肉は徹底的に研究するし、店の焼肉も好きだ。
だがそれは誰かに焼肉を作りたいんじゃない。
究極の焼肉を自分自身で味わいたいのだ。
他人には他人の好みがある。俺のそれとは合わないかもしれない。
好みは十人十色、千差万別。
わざわざ自分の喰いたいものや味付けの好みを他人に合わせる必要もないのだ。
「はははっ!まぁ、リュウならそう言うだろうな」
エルが唐突に笑い始める。
よほど可笑しかったのか、腹を抱えて笑うのは初めて見るな。
「ひー、オカシイ。おほん。リュウはこういう男だ、ローズ。わがままを言ってはいけないよ」
「っ!しかし、お兄様!優れた人材、隠れた才能を配下に置きたいと思うのは当然のことではないですか?」
「いや、まぁ。確かにそうなのだけどね。私もこの1か月、この男を観察してきたが、こいつはそういうのが嫌いそうだ。だから私はただの友人でいることにしたのだよ」
「むー」
そこまで言うとエルがローズさんの頭に手を置く。
ローズさんが膨れている姿はちょっとかわいい。
ギャップ萌えとでもいうのだろうか。
長い髪と真っ赤なドレス、高い身長からはどちらかといえばクール系のお姉さんって感じだったが、今は兄に甘える子供のようだ。
(それに、まったく策がないわけではない。私もリュウは全力で押さえようと思っているさ。もうしばらく待っておいで)
(策?わかりました、お兄様を信じましょう)
ぼそぼそと小声で何か言っているな。
ところどころ聞き取れなかったが、エルのことだしどうせろくなことじゃないな。
出発前にエルとトマスが話していたひそひそ話は聞こえたけど、今回はなんだか聞き逃してしまった。
「そうおっしゃるならわかりました。……リュウ様、無礼な振る舞い謝罪いたしますわ」
「あ、いや。別に謝られるようなことじゃないから問題ないよ」
「そうおっしゃっていただけると幸いですわ。……さて、それはともかくとして。私、リュウ様の作った料理を食べてみたいのですが、ご用意いただけまして?」
ん?どういうことだ?
料理?
俺が戸惑っていると、エルが小声で教えてくれた。
「要はトマスからリュウの作る料理の話を聞いて食べてみたくなったということだろう。すまないが、私からも頼みたい。何か作ってやってはくれないだろうか?」
とはいってもなぁ。
「今、ウサギ肉くらいしか手持ちがないんだけど、ウサギ肉でもいいか?」
「ウサギというと。途中で出してもらった壺のあれか?」
「うんにゃ、次は別の物を作ろうかなって」
「料理するならそっちの端っこの台を使え。あと、解体が後でもいいオークはしまっとけ。邪魔で仕方ねぇ。」
「ん?ありがとう。使わせてもらうよ」
そういって、俺はオークをしまうと端っこに備え付けられた台に向かうのだった。
……、あれ?
これもしかして、ここにいる全員分作らなきゃいけない感じか?
さて。
俺は備え付けられた台に向かいウサギの魔物を取り出す。
この台、よくよく見たらオーブンの設置されたキッチンだ。
そういえば、上が金のない冒険者たちの雑魚寝のスペースだっけ。
それで設置してあるのかな?
すでに血抜きと皮剥ぎ、頭と内臓、魔石の処理は済んでいるのでここにあるのは肉だけだ。
血抜きをする際に川の冷たい水で洗ったので肉自体もひんやりとしている。
2羽を1セットとして足を縄で結んでいる状態なのでまずは縄を外す。
……よくよく考えたら、こうしてまじまじとウサギ肉は見たことなかった。
日本ではペットの印象が強いが、ヨーロッパでは現代でも立派な家畜、それも肉を取るための家畜だ。
妊娠期間が短く、多産であっという間に成長するウサギは、良い家畜らしい。癖がなくヘルシーで鶏肉のような肉で、豚や牛よりもこちらの方が好きと言う人もいる。
以前、フランスに旅行に行ったときに普通に肉コーナーに売ってあってびっくりしたな。
そういえば、なんでも食べる、なんでも食べられるようにする日本人だが、ウサギとハトだけは食文化が残ってないのはなぜだろう?
両手両足に当たる部分を切り落として胴体だけにする。
モモはビジュアルがいいので骨付きのまま焼きたい。
腕もコラーゲンが豊富で煮込みに使うと良い味を出す。牛のテールスープの様に使うといい。
が、今回はこの二つは作らない。
なのでこいつらはインベントリ行だ。
今回のメインは胴体部分。
まずは骨を外すところからだ。
俺はウサギの胴体に包丁を入れていく。
最近の勉強の成果だ。
骨を外し、骨と身を分ける。
これも今回は使わないが干しておいてガラとして使う。
鶏ガラならぬウサギガラ。良い出汁が出る。
背肉腹肉の部分はまとめて細かく切っておく。
今回は肉だけ使えればいいからな。
肉の大きさや硬さは考えなくていいのが今回の救いだな。
肉は背中側も腹側も纏めてぶつ切りに。
いつもなら脂身のバランスまで考えるが、今回は気にしない。むしろ若干脂身が若干足りないのでオークの脂身を用意しておこう。
オークの脂身を取り出して兎肉と混ぜながら細かく切る。
この辺りは温度が勝負なのでできるだけ冷たいうちに終わらせてしまいたい。
体感で3分ほど混ぜ合わせながら叩くとミンチ状になる。
肉の温度が常温に近づくと粘り気が出てくるので冷たいうちから始めるとしっかりと食感が残る。
これをあと2回ほど繰り返してそれなりの量のミンチを作る。
うぅ……。腕が痛い。
「リュウ、なにか手伝う事はあるか?」
「あー、助かる。じゃぁ、このパンとチーズをおろし金で削ってくれ」
おろし金は元々この町にあったモノを買った。
金属製の鬼おろしって感じの見た目だ。
元々はベリーを潰しての果汁を絞るためのものだそうだ。
エルが削ってくれている間にこっちはこっちで準備しないと。
せっかくオーブンがあるならオーブンを使ってみよう。
まぁ、使い方がわからんのだが。
ふむふむ。なるほど。下段に薪を入れるのか。
分らんがとりあえず火を入れておこう。
で、竈側。こっちにも火を入れておく。
火力の調整とかはできないっぽいがしょうがない。
適当な分量突っ込んでおこう。
よし。火が付いた。
これで焼いている間にオーブンが使えるだろう。
「リュウ、あらかた終わったぞ」
「あぁ。ありがとう」
エルからパン粉とチーズを受け取る。
軽く触ってみるがいい出来だ。
先ほどのミンチ肉を入れた皿を手元に持ってくる。
ここに粉チーズ、パン粉、卵、塩、刻んだハーブ、みじん切りの玉ねぎを加えて混ぜ込む。
これを一口大にまとめて種は完成。
種は硬めにしておくと形が崩れにくい。まぁ、卵が入ってるから焼けば固まるんだけどね。
ちょっと深めの中華鍋っぽいフライパンに脂身を溶かす。
本当は揚げるほど用意したいけど、脂身だけだと匂いが気になるからな。
フライパンに肉団子を投入。
脂身の中で転がしながら、表面が焦げるまで焼く。
これを肉団子すべてに行う。
肉団子をフライパンから降ろしたら別の準備をする。
粒マスタード、パン粉、少量の砂糖大根の煮汁、ハーブ、残った脂身を混ぜて香草パン粉の準備をしておく。
さて、次は……。
肉団子を焼いたフライパンにバター、ワイン、ニンニクを加え、底の旨味をこそげ取りながら軽く煮詰めバターソースを作る。
これで準備は完成だ。
厚手の皿、……要は耐熱皿を用意したいんだけど。
「あるぞ」
え?あるの?
「そりゃ、パンを焼くときに一緒に焼くときもあるからな。そっちの棚の中だ」
へぇ。じゃぁ、借りよう。
棚を開けるとグラタンっぽい皿がいくつか。
これを使おう。
焼いた肉団子をグラタン皿に並べる。
此処にバターソース、香草パン粉の順で乗せていく。
これをオーブンに突っ込んでっと。
よっし、これで後は表面のパン粉がほんのりきつね色になるまで焼いたら完成だな。
これで香草パン粉焼き、いわゆるペルシャ―ドの完成だ。
初めはディアブル風を作ろうとしたが、今回胡椒と唐辛子は見つからなかったので仕方ない。
ちゃんと生産した、安定した酢が手に入ったらマヨネーズを作って味付けするのもいいな。
まぁ、ともかく、今は。
「さぁ!焼肉の時間だ!!」
え?どこが焼肉かって?
肉を焼いてるんだから焼肉だろ?




