4-1.約束された小金持ち
「まてまてまてまて!!」
ギルドの解体所でインベントリからオークを出している最中、ギルドマスターが俺を止めた。
いや、まだ10体目なんだが。
「お前さんらいったい何体倒したんだ!?」
「何体って……、あとコレの3倍くらい」
「はぁ!?」
ギルドマスターがあんぐりと口を開ける。
まぁ、確かに一気に出し過ぎて、若干解体室が狭い。
オークって1体ごとがそれなりにでかいからわからんでもない。
「ギルドマスター、まだ驚くのは早いぞ」
「おいおい、これ以上何が……」
エルがギルドマスターの耳元に口を寄せる。
(オークキングだ。それも特大のな)
ぶふーっ!!
げ、きったねぇ。
ギルドマスターが盛大に噴き出す。
「そこら辺のオークの上位種じゃないぞ、こちらを罠にはめ魔道具まで使いこなす理性、村を襲う計画性、他のオークキングのゆうに二回りは大きい身体。……あれは、ネームド認定されてもおかしくない」
「ネームドじゃと!?」
ギルドマスターが頭を抱え始めた。
そんなに頭を抱えることなのだろうか。
「リュウ、お前これに加えて三倍はあるって言ったな」
「あぁ、まぁあるぞ」
「つぅことは、一匹金貨10枚でここにいるだけでも100枚……、それにオリーヴィアの里で狩った奴が5匹いるって言ってたな、それも合わせると金貨で150枚、リュウが持っているオーク全部で450枚は用意しなけりゃならんって事か」
まぁ、そんな感じだろう。
計算は合ってるな。
……計算といえば、向こうに行く前は100を超えるオークとか言ってたけど、あそこでは50ちょっとくらいしか見てないよな。
まぁ、一つの巣にいっぱいいる方が動物としてはおかしいのか?
「おいおい、ギルドマスター。君の目は節穴か?オークの状態を見てみろ。普通とは比べ物にならない、」
「わかっとるわ!あえて言わんかったんじゃ!」
ん?どういうことだ?
「無駄な戦闘痕のない完璧な体、最低限の傷しかない素材、新鮮な肉!どれをとっても普通の価格じゃ買い取れねぇ」
あー、そうか。
確かに武器でも魔法でも戦えば傷ができる。
牙も皮も肉もボロボロになる。
俺は包丁で首を飛ばしたからほとんど戦闘痕はない。
インベントリのおかげで肉が劣化することもない。
なので素材も最大限使える、最も価値のある状態を保てているという事だ。
当然その価値は跳ね上がり……。
「金貨12枚。それ以上は無理だ。オークの状態によってそこから割り引く。それでどうだ?」
「いいだろう。そういえばリュウ、買取に関して何か要望があったんじゃなかったか?」
「あぁ、そうだった。こっちから買い取ってほしいんだ」
俺はインベントリから新しくオークを取り出す。
村を守るためにエルフ達が狩ったオークたちだ。
代金回収するために一緒に帰ってきていたエルフは、今ごろ宿を探しているころだろう。
色々処理をすることがあるので三日間はギルドに通うといっていたから三日以内に処理してもらえば問題ないはずだ。
ちなみにレモンさんも荷物をまとめて後処理が終わったら数日中にはこちらに来るそうだ。
「ん?こりゃ……、質はリュウの狩った奴ほどじゃねぇが、傷が少ない。それに、この傷はエルフ達の使う矢や刃のものと一致しているな。こいつはエルフが狩ったもんか」
「わかるのか?」
「ドワーフを舐めるでないわ。そのくらいは見てわかるわ」
それは素直にすごいな。
ドワーフってのはそんなこともわかるのかね?
っと、そうだ。
「すまないけどエルフの狩ったの解体は急ぎで、終わったら俺達と一緒に来たエルフに処分は聞いてくれ。他はゆっくりでもいいけど、肉を確保したいから1匹、肉だけ切り出してもらえないか?」
「……は?肉?ってあぁ、食うのか。分った明日の朝まで時間をくれ。エルフ達への支払い分と3匹分は仕上げて見せよう。それと……おぃ!カーティレイジの馬鹿はどこにいる!」
「後ろに」
「ひゃい!?」
ギルドマスターの後ろからカーティレイジ氏がぬっとあらわれた。
カーティレイジ氏はギルドのサブマスター。
薬草とか薬は個人的に売ってくれとか言ってたな。
「ば、ばばばばばば、バカもん!!驚かす出ないわ!!」
「それは失礼。リュウ殿がいらっしゃっているのが見えたので、ずっと後ろで待機しておりました」
え、全然気づかなかったけど。
明らかにギルドマスターのドラムレットよりも背が高いのに俺達に悟らせずギルドマスターの後ろにいるなんて物理的に不可能な気がするんだけど。
「サブマスターですので、このくらいは」
……ギルドの上層部ってのは魔境かなにかか?
「それで?なぜサブマスターが?」
「それは……」
そう言いかけたドラムレットを押しのけてカーティレイジ氏が俺に迫ってきた。
「是非とも!オークの血液を私に売っていただきたい!」
「え、なに?血?」
あ、圧がヤバい。
なんか目がイっちゃってる気がする。
「はい!ギルドの解体ではどうせ捨てる部分になりますので勿体ないでしょう?普通に販売してもわずかにしかなりません。魔物の肉は戦闘で興奮やストレスを感じる分、かならずストレス物質が血中に分散して質が劣化します。しかし、お話を聞く限り、このオーク肉にはそれを最小限に抑えてある点が素晴らしい!それにこの肉の新鮮さ!時間が経って間もない空気に触れていない血液!これほど良質な血液はめったに手に入りません!ぜひとも1匹分、いえ2匹分は売っていただきたい!」
「は、はい……」
そんな風に手を握らないでほしい。
俺の片手を両手で握る様は恋人に向けるそれにしか見えない。
いや、俺に男色の趣味はないけど。
「それは、売って頂けると解釈しても!?」
「え、えぇ。構いません。どのみち捨てるものみたいですし」
「もしよければ!年間契約など!」
更にカーティレイジ氏の顔が迫ってくる。
「カーティレイジ!」
「あうっふぅ!?」
ドラムレットの拳骨が炸裂した。
ドワーフのぶっとい腕から繰り出された拳骨。
実に痛そうである。
「すまんな、こやつは薬の事となると人が変わってな」
「オークの血が薬になるのか?」
意外や意外。
血なんて薬になるのだろうか?
「正確にはその精錬素材になる、だがな。偽血清といって薬を作る前の前の前くらいの素材じゃな」
へぇ。
そういえば鉄分のサプリって豚の血から作るって聞いたことがあったようななかったような。
「まぁ、その辺の話は追々な。とりあえず、血がいらない時はこいつに売ってやってくれ。大体ほとんどの動物や魔物の血を買い取ってくれるだろう。お前の狩った魔物の品質なら喜んで買い取ってくれるだろうよ。それと、明日までに金と解体が得意な連中を用意しておく。明日、肉を取りに来たついでに出してくれ」
「わかった。じゃぁ、また明日の昼に来るよ。エルはどうする?」
「私はトマスのところに行ってくるよ。妹が来ているはずだからな」
「妹?」
そういえばローズさん、だっけか?
依頼に行く前にエルとトマスが内緒話してたよな。
「お兄様!!!」
ん?
ギルドの解体場の扉が乱暴に開かれる。
そこにはおおよそ作業場に似つかわしくない、ドレス姿の女性。
鑑定眼にはローズ・ド・オーゴンと表示されている。
なるほど、彼女が妹さんのローズさんか。
「やぁ、ローズ。奇遇だね」
「奇遇ではありませんわ」
ローズさんがスカートを持ち上げながらずかずかと接近してくる。
そうしてエルの前にたどり着くとスカートから手を放し、エルの胸のあたりを指で押す。
「一体、一週間もどこで油を売っていらしたのかしら?」
「いや、まぁ依頼で少し遠出をしていたんだよ。トマスからも聞いているだろう?」
「王族が供も連れず、狩りに出かけるなどと……、この事は御じいさまやクロエにも報告させていただきますからね!」
「いやいや、勘弁してくれ。妹よ。御じいさまはともかく、クロエにばれたら説教が3日くらい続いてしまいそうだ。それに、供が居なかったわけではないぞ。後ろにいるリュウとカルバラを連れて行ったからな」
「リュウ?」
ローズさんがエルから目を放してこちらを見る。
げ!?
やばい。
その目はこちらを完全にターゲッティングしている。
またしてもスカートをもってずかずかとこちらに向かってきた。
そして俺の前まで来てぴたりと足を止めてスカートを持ったまま頭を下げる。
カーテシーって言うんだっけ?あれ?カテーシーだっけ?
距離感も近すぎず、遠すぎず。
動きも品があって一目で貴族の女性だとわかる。
……いや、まぁ俺には品とか分かんないんだけど。
「お兄様の護衛、見事果していただきましたこと、感謝いたしますわ」
「あ、あぁ。はい」
感謝されてもな。俺達は依頼で行っただけだし。というか護衛ですらない。
「それでリュウ様、ご相談なのですが……」
うん?
なんだかそこはかとなく嫌な予感。
「貴方、王室の専属料理人になっていただけませんこと?」




