1-5.初めての実食。森に出ずんば、極上カルビを得ず
何とか半分くらい、いや、多分もうちょっとくらいは切り出せたと思う。
解体の知識はないけど、剣やナイフも油だの血だのでベタベタだ。
なんとかない知識で頑張ってみたけど、右半身は切り出すことをあきらめた。
一人でやるのが限界だったというのもあるけど、内臓をちゃんととらなかったせいで、異様な匂いを発するようになってしまった。
あの肉を食べられる気はしない。
内臓も言わずもがな。
流石に全く洗わないままこれを食べれる気はしない。
左半身の無事な肉はちょっとずつ切り出して馬車の荷台で作った床に置いておいた。
ので結構な食べられそうな部分が無事なまま残っている。
とりあえず、そこら辺から木の棒を探してくる。
切り出したときに失敗したりして他のブロックより薄くなったものを細かく切って木の棒を刺す。
細かいと言っても、7cm角の15cmくらいの実にワイルドなブロック肉だ。
部位はアバラ、つまり豚バラ肉ならぬ、猪バラ肉。
九州や西日本ではヤキトリといえば豚バラらしいが、それの超ワイルド版だと思ってもらえればいい。
ぶっちゃけ、もう少し小さくしたいんだけど、まな板も包丁もないので結構厳しかったのだ。
ワイルドに食べるにも限度がある。
意外にもというか、こういったナイフは調理するにはとんでもなく使いづらい。
動画サイトでも見れればまた違うんだろうけど。
とりあえず、贅沢は言ってられないよな。
俺は残った肉を自分が使っていたエプロン代わりの幌の布に包む。
……参ったな。全然布が足りない。
……包み切れてない肉がその辺に放置されている形になっているが仕方ない。
俺は木の棒を焚火の側に立てる。
じっくりと焼く必要があるので少し火から離しておく。
そしてもう一つ。
切るときに脆くなっていたのか、一緒に付いて来てしまった骨のついた部位。
ちょうどアバラの周りの肉なのだが、てこの原理で切り出しているときに骨ごと落ちてしまったものだ。
身の付き方の良い方を残して骨の周りの肉を削ぎ落してみた。
肋骨なので、若干骨が太いが見事なマンガ肉だ。
これも火の側において焼いておく。安定しないので、周りから石を持ってきて立てかけるように火の近くに置いておく。これだけ大きいとしばらく時間がかかるかな。
……しかし、解体してみて思ったがあのマンガ肉はモモ肉かすね肉以外では絶対あり得ないだろうな。関節あるし。
……って、しまった。バラにバラが被ってしまった。
ロースっぽい背中の肉を焼けばよかったな。
しかも、塩もなければコショウもない。
さっきニラっぽい草を見つけたけど、確かニラって現代では水仙の葉と間違えて食中毒事件が多発してたはずだからとりあえず今日のところは我慢。
少し離れたところに見たことない実やキノコもあったけど、論外。
結局、今の状況だと素焼きしか選択肢がないのが非常に残念だ。
ぱちぱちと脂が焚火にあたって爆ぜる音を聞きながら、イイ感じのところで表と裏をひっくり返すのを繰り返す。
この世界に来て初めての『焼肉』、だな。
正直な話をすると、俺の焼肉への情熱は他人から見ると変人としか思えないだろうことはわかっている。
だからこその金曜日の一人焼肉ではあったのだが。改めてこれを『焼肉』かと皆に問えば10人中8人は否と答えるだろう。
俺はその中の2人の枠に収まる側だ。
『焼肉』とは。
料理の名前に非ず。
食事の内容に非ず。
その心意気である。
『焼肉』屋で供されるものは全て焼肉であるべきだし、外で火を起こして食べるものは『焼肉』である。
その延長線上の食べ物も『焼肉』といってよい。
つまり、この超ワイルドな肉だって、『焼肉』と定義できるのだ。
これは誰にも譲れない俺の定義だ。
『焼肉』にはそこで提供されるすべての食事が含まれているのが当然、とみるべきなのだ。
ワイルドすぎる肉の暴力的な匂いが辺りに立ち込める。
普通だったら確実にもう手をつけているであろう匂いの立ち方だ。
だが、俺の第六感が告げている。
まだ、その時ではない、と。
最高の瞬間を見極めろ、と。
それは先ほどの戦闘中の感覚に似ている。
極度の集中状態。
それは時の流れさえゆっくりになってしまったように感じる『錯覚』。
炎の揺らめきさえ遅く、脂が飛び散る瞬間さえ、永劫に感じるその時間。
俺の腕は、今か今かと、その瞬間をじっくりと待っていた。
パチッ。
俺の集中力はその音でかき消される。
今だ!!
俺は木の棒に刺したバラ肉を地面から抜き取り、その瞬間を待った。
ここですぐに口をつけるのは簡単だ。
だが俺が狙っている瞬間はいまではない。
溶けだした脂が垂れ落ちるその微妙な一瞬。
俺は肉に口をつけた。
ぅんまあぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!!!!!!
何もつけてない猪の肉がこんなにうまくなるのか、と思えるほどの美味。
適度に乗って口の中ではじけあふれ出す脂!
前歯を押し返しつつ包み込む程よい弾力を保った赤身!
味をつけてないがゆえに感じる野生の味!
仄かに香る森の味とも言うべき芳醇な香り!
肉なのに、どこか高級なキノコのエキスを煮詰めたような、濃厚な旨味が後味に残る。
どれをとっても今まで食べて来た猪の中で最高の食材と言える。
当然だろう。
苦労して狩猟して(襲われただけだが)苦労して解体して(マジで苦労しました)自分で焼いて食う。
これほどまでに美味い飯はないだろう。
あぁ。俺は現代人だったんだな、としみじみ思う。
スーパーに供されていた肉や野菜たちも、生産者が食べればきっとこんな思いだったのだろう。
あぁ!
おしいなぁ!
新鮮なうちに全部食べてしまいたい!
けどこの量は絶対無理だな。
はぁ。
これがアニメとかの主人公ならこう、手をかざしたらパッと……。
パッ。
ん?
あれ?
残りの食材どこ行った?
まてよ?ひょっとしてお約束なアレだったり?
……えっと、どうすればいいんだろうか。
あぁ、考えれば良いのか。
内容量は分からないが、あれだけの量の肉が入ったんだ。
結構容量がありそうだ。
……ちょっと試してみるか。
俺はバラ肉の串の最後のひと欠片を口に放り込みながら、今できる範囲で試してみる。
アバラのマンガ肉はまだまだ時間がかかりそうだ。
まずは起立。
馬車の胴体で試してみる。
うん。
難なく出し入れできる。
猪の本体はどうだろう?
ちょっと匂いが気になるが。
一度入れてみてすぐに出す。
もう一度試してみるが難なくできた。
あぁ!勿体ねぇ!
もっと早く知っていたら半身をダメにすることはなかったのに!
いやしかし。
こんな巨体が入るって、どれだけ容量があるんだ?
大体こういう時って、中が混ざらないようになっているはずだけど。
枝に余った端切れの幌を巻いて薪で火をつけてみる。
それをそのまま収納する。
よし、これで暫く待機だ。
その間に、マンガ肉を仕留めてしまおう。
色々試している間にすっかり食べごろだ。
では、いただきます!!!




