3-19宴会、焼肉を突き抜ければ歓喜に至る
「それでこのくらいの色になったらひっくり返さず引き上げてくれ」
「わかりました」
「こっちの芋はこんな感じで炒めてください」
「承知しました」
残りの調理をエルフ達に任せ俺は後片付けを始める。
150人以上の調理は流石につらい。
「よぅ。またうまそうなもん作ったな?」
カルバラが洗い物をしている俺のところにやってくる。
肩を組むな。洗い物しづらい。
「まさか、応援を送る間もなくあれだけの群れを倒しちまうとは」
カルバラには殲滅部隊を任せていたのだが出番なく終わってしまって申し訳ない。
結果として、その部隊はそのまま他にオークがいないかを確認してもらう索敵部隊に変化した。
10体ほどのオークを確認し倒したとのことだった。
……俺のインベントリにはその4倍入っているんだが。
流石に、この里だけで買い取るのは無理、とのことだった。
オークの支払いにオークを渡されてもそれはそれで困る。
というか俺が倒したオークと違い戦闘による痕がある分俺のオークより価値も下がるらしい。
なので彼らが仕留めたオークは俺がアスタランテで売ってくるという事で話が付いている。俺たちが戻る際、一人ついて来てくれるそうだ。
ちなみにだが、このオークは俺のおごり。
綺麗な方から使わせてもらった。
これだけきれいだとオークでも金貨10枚以上になるんじゃないかという話だったが、どうかな。そもそも相場より高い金額で買い取ってくれるって話だし。
ふふふっ。否応なく俺を送り込んでくれたギルドマスターめ。
腰を抜かすと良い。
あ、そういえば運搬人を手配してくれるんだっけ?
数日の道程とはいえ彼らの仕事を取り上げてしまうのも申し訳ない。
一週間後に送り出すって言ってたから、今から出るとギリギリ出立前には辿り着けるか?
彼らの報酬がどういった形態で払われるか分からないが、多分オーク5匹分の荷車は持ってくるよなぁ。
「なぁ、カルバラ。運搬人部隊って何人くらい来るかわかるか?」
「ん?ポーターたちか?多分10人と1頭引きの荷馬車が5台かな?」
「いや、生ものだからオークは俺が運ぶとして、彼らの仕事がなくなるなと思って」
「たしかに、そうなると、もう今更出立には間に合わんだろうし」
「よう、何か相談事か?二人とも」
カルバラと悩んでいるとエルがやって来た。
いやなに、運搬人たちに仕事をって思ってな。
オークは俺が運ぶから……なにか別の物をって。
「なるほど……。そうだな。ではこういうのはどうだ?」
エルが提案したのは火災のあった周辺の切り取った木々たちの運搬と売却。
俺が思っている以上に結構な量があるらしい。
というのも、俺たちがオークを狩っている間、すこし切り取り範囲を広げることにしたらしい。
防災の為だ。
その前段階としてニ、三本切り取ったそうだ。
つまり、これからしばらくどんどん出てくる。
里の中で起こる火災はどうしようもないが、今回のように外敵に備えるためだ。
エルフの里は基本的に森のなかに壁や堀なしに作られているのが普通らしい。
森の中に段差や小さな棚田を作って生活しているらしい。
ちなみにこの里もそういう作りになっていて、北側にはわざわざ作った段差を用意して棚田を作り、東は川、西は居住区、南は村の入り口や広場といった具合に作られているらしい。
ちなみにこの棚田、作られている作物は上段から稗、粟、そばが植えられ、それ以外の畑に胡麻や芋、山菜などが植えられているそうだ。
なんだか上から下まで救荒作物っぽい感じがぬぐえないが、逆を言えば極端な環境でも同一の生活水準を保てるという彼らなりの知恵だろうか?
種類自体は里の環境で少しづつ違うようだが、この里ではジャガイモのような芋とあのポメロ・ロワイヤルと呼ばれるグレープフルーツのような果物が植えられているそうだ。
小麦は取引で手に入れるそうなのでパンを作るときは雑穀パンになるそうだ。
稗や粟のおかゆも主食としてよく食べられているらしい。
それはそれでうまそうだな。
干し肉や燻製肉を切って青物や根菜と一緒に炊くとかいいかも。
それはともかく、この里の防衛設備を整える目的はともかく、金が要るのは間違いないからな。
聞けばオリーヴィアの里の木材は良質なのだそうだ。
アスタランテとしては取引量を増やしたいがエルフとしては過度な伐採は控えたい。そういう訳で今回だけ特別に、俺たちがあらかじめカットした分とエルフ達が今から切る数本分を売却することにした、という事らしい。
ついでに少量の土も持っていくそうだ。これまたそこそこの金額で取引されるらしくポーションや魔法の品を作る際のツボなどに加工されたりするらしい。
土や木材なんてどこのでもいい気がするが、きっと俺には分からない何かがあるのだろう。
「そうだ、カルバラ。これやるよ」
「ん?なんだこれ?」
俺はカルバラにオークキングが持っていた剣を渡す。
太目の片刃のサーベル状の剣だ。
サーベルというか太いのでどっちかって言うと鉈っぽい。
オークキングが持っていたから小さく見えたが、人間が持つと大剣じゃないかと思える程度にはデカい。
「これは?」
「オークキングが使っていた魔剣だ」
「……」
「……」
「……」
「はぁ!?魔剣!?まじか!?」
「俺もエルもこんな形状使わないからさ。報酬代わりにやる」
「いや、やるったって……」
炎の魔剣。
聞こえはいいが、残念ながら俺とエルには非常に使い辛い一品だ。
エルはロングソードや細剣なら扱えるがこんなタイプの剣は無理。
というかそもそも俺が倒した相手が持っていたものだから自分には同行する権利がない、と。
では俺はと言うと、ウェルチ包丁があるって言うのもあるけど、切った端から燃えてしまう剣なんて使いにくくて仕方ない。
肉は焼肉で焼いてこそ、だ。
「……まぁ、そういうことなら、ありがたくもらっとくよ」
「あぁ、魔力を通すと火が出るから試すなら里の外で試せよ」
「……そうさせてもらうよ」
なんだか力なくうな垂れているから、なんだろうと思ったが、彼の中での価値観がガラガラと崩れてしまったらしい。
そんな大げさな。
「あ、いたいた。御三方、先に食べてしまってください」
エルフの一人が俺達を呼びに来た。
俺の作った第一陣は子供たちに譲ったようだから俺達は第二陣だ。
後回しでもいいといったのだが、先方に固辞されたので先に頂くことにした。
俺はエルフが運んできてくれた皿をもらい、箸を取り出す。
エルやカルバラ、エルフ達は箸が扱えないのでフォークとナイフだ。
「失礼しますね」
レモンさんも皿をもってやってくる。
うん。なんだか周りでも宴会ムード。
それじゃ、ま。そろそろいただきますか。
「「「「いただきます」」」」
まずはジェノベーゼ風ポテト炒め。
本当はパセリとか松の実、胡椒を使うんだけど、今回は大葉と胡麻で代用したもの。
うん。なんというか、予想どおりの味だ。
副菜としてはいい味。
鼻に抜ける大葉と胡麻の風味。
「ふぉぉぉぉぉ!なんだこれ!?」
「すごい風味。大葉ってこんなに風味豊かなんですね」
「ふむ。これは確かに良い風味だ」
「ちなみに大葉って毒があるものもあるから勝手に食うなよ?見た目じゃ判断できないんだから」
なんだか大葉の味にえらく感動してるな。
まぁ、大葉は毒のある野生種もあるし。
あまり食べたことないのも仕方ないよ。
ペリラケトンだっけか?
日本の大葉は品種改良して無毒かつ香り高くなるように改良された品種だったはず。
今回は調べた感じ、全部毒はなさそうだったからそのまま刻んでもらったけど。
さて、ここからはメインディッシュだ。
オークロース肉のネギ塩ポメロ焼き。
見た目が完全に肉だったから何も気にせず作ったけど、これ二足歩行だったんだよな。
ちょっと躊躇するが、こうやって肉に加工されると実に豚肉だ。
どれどれ……。
俺は箸を使って肉でネギ塩ポメロだれを挟む。
こぼれやすいので注意が必要だ。
箸が扱えない他の人らはどうもナイフで切って食べているようだ。
それじゃ、一口。
「おっ?」
「ふむ」
「おぉ!」
「まぁ!」
「「「「うんまぁぁぁぁぁい!」」」」
これはうまい。
思った以上に赤身の旨味がすごい。
もっと脂身の甘みが先に来るかと思ったが、真っ先に感じたのは赤身の旨味。
しっかりとしたワイルドな味が来た後で脂身の甘みが広がる。
見た目通り豚肉に近い味だが、肉の味に奥行きを感じる。
恐らくだがオークは二足歩行によって普通の豚とは筋肉の付き方が違うのだろう。
これ、脂身がもう少し多ければもっと深みが出そうな味だ。
そして、この赤身肉の旨味に負けない、ポメロの柑橘のさわやかさ。
酸味・甘味が見事なバランスで共存している。
ポメロ・ロワイヤルといって『王の果実』と呼ばれているとさっきエルが言っていた。
てっきり大きさだけのことかと思ったが、きっとこれはこの味を含めて王の果実なのだろう。
一瞬食べた瞬間は八朔かな?と感じたが、どちらかといえばグレープフルーツのような風味だ。
少しだけ広がる脂身の甘みを柑橘のさわやかさがしっかりと受け止め、ネギ塩がそれらを一つにまとめている。
実にうまい。
今回はエルフたちに簡単に早く、大量に。というリクエストだったので深く考えて作ったわけではなかったが、これなら少しポメロ・ロワイヤル、研究してみてもいいかもしれない。
そういえば、ギルドからもらったオークの資料には冬越しの為に季節によって食料が変わるとか書いてたな。
であれば、ひょっとして旬があるかもしれない。今度ギルドで探してみよう。
「すごいですね。リュウさん。こんな食べ方を思いつくなんて」
そう、フォークを置いたレモンさんが話しかけてきた。
食べ終わったわけではなく箸休めだろう。
実際、豚ロースとジャガイモの組み合わせは結構重いし。
「いやいや、いつかは誰かが考え付いていたさ。今回は、俺が思いついたってだけだ。それに……」
俺も一度箸をおく。
しまった。お茶を用意していなかったから、口を洗い流すものがない。
「レモンさんと同じだよ。研究し解を導く。それを実践してまた研究して繰り返す」
そうして作った食べ方やタレを頭に残しているだけだ。
俺は空を見上げる。
そんな俺に釣られたのかレモンさんも空を見上げた。
そう、すべては最高の焼肉と最適な焼肉の為に。
「……はい!」
そう笑った彼女の頬には一筋の涙が伝っていた。
……え、泣くほどうまかったの?
研究職って大変なんだな。
こうして、夜は更けていく。
薪と炭の匂いと、歓喜の声に包まれて。




