3-17.宴会、むちゃぶり
「さぁ、着きましたよ。お嬢さん方」
「あ、ありがとうございます」
エルが御者席を降りてエルフ達に手を差し伸べる。
その手を取り、エルフ達が一人一人下りてくる。
こういうところは貴族っぽいというか、紳士っぽい。
「すみません、リュウさん。こんなことになってしまって」
「あぁ、いや。問題ないよ。元々オークを倒すっていう依頼だったし。むしろあと数時間早ければ迎撃から参加できたかもと思うと遅れて申し訳ない」
俺の隣で謝罪してきたレモンさんに俺はそう返した。
なんというか、我ながら事なかれ主義というか日本人的というか。
謝罪されたら、謝罪で返す。
そんなやり取りの典型っぽい。
ちなみにレモンさんは俺のマントを羽織ってはいるがほぼ服が体をなしていなかったので着替えてもらおうと先に降ろしたのだが。
焼けた家の中にレモンさんの家があったそうだ。
里長は廃棄前の家だって言っていた気がするが、中に一軒あったとは。
なんとも運の無いというか。
もちろん里長も知らなかったわけじゃなくて、正確にはしばらくしたら冒険に出ることを考えていたらしく、ある程度は片づけていたのだが、肝心の着替えや生活用品は未だ家の中に置いたままだったらしい。
つまり、彼女の服がない。
今は里長が自分の奥さんに言って服を見繕ってくれているらしい。
出来れば早くしてあげてほしい。
服は俺のを使えばいいかとも思ったが、女性用下着は持ってないしな。
さすがにほとんど知らない男が着た服を下着もなしに着るのは嫌だろうとの判断で里長の奥さんにお願いした。
っとそうだ。
「レモンさん、これ何かわかる?」
俺はオークキングを倒した洞窟で拾った紋章のようなものが描かれた石を取り出してレモンさんに見せる。
「何ですか?これ?」
「オークキングのいた洞窟で拾ったんだけど、……その反応じゃ知らなそうだな」
「うーん。そうですね……。太陽とドラゴン、……いえ、ワイバーンですか、それに剣と松明……。すみません、見たことのない紋章です」
やっぱり、そうか。
レモンさんが俺に石を渡してくる。
「そもそもあそこの洞窟は私たちの里の領地の中だったんですが、今までオークが巣食っていた、なんて話は聞かなかったんです。それに、奥にあのような人工の空間が続いているとは思ってもみませんでした」
へぇ。
そういえば、攫われたエルフの女性たちは牢屋のような空間にとらわれていたし、あの奥にあった石棺は確実に人工物だ。
「……あ、そうだ」
「?どうされたのですか?」
「いや、そういえば、レモンさんが繋がれていた石棺、そのまま持ってきちゃったなって」
「石棺って、あ、アイテムボックスの魔法ですか?」
そういってレモンさんは手を打つ。
そういえば、アイテムボックスってことにしてるんだ。
さっき、エルにも秘密にしとけってくぎを刺されたしな。
……それよりも、手を動かすとちらちら肌が見えるので勘弁してほしい。
俺が貸した外套は全身をすっぽりと覆う外套で夜によく使っていたものだ。
左の肩に付けられた留め金で留めるので必然的にスリットが左側になるのだが、左はともかく右手を動かすと大きく外套全体がめくれてしまうため、自分で腕が出るようにスリットを作ったのだが、どうも切った部分がほつれてしまうので、今度じいさんの店にもっていこうと思っていたところだった。
理想はスリットじゃなくて袖を作ることだけど、まぁ、金額次第かな。
「リュウ。待たせたな」
エルがエルフ達の誘導を終えてこちらにやって来た。
「ん?なんだ?それは?」
エルが俺の手元を見ながら疑問を投げかけて来た。
「あぁ、これはさっきの洞窟で見かけたものでな。レモンさんに見たことがないか聞いてた」
俺はエルに先ほどの紋章入りの石を投げた。
エルが顎に手を当てて紋章を凝視する。
「ふむ。私にも分からないな。……しかし彼女に協力を仰いだのはいい判断だと思う。魔道具作りの天才たる彼女なら我々より知識が豊富だろうからな」
いや、そうなんだろうけどさ。
悪意を感じないから、確実に褒めてるんだというのはわかるんだが。
「エル。彼女の知識は天才だからあるわけじゃないぞ」
俺は正面に立つエルを真っ直ぐに見据えて言った。
「どれだけの時間と労力をかけて学んできたか。その膨大な知識は、天から与えられた才能なんかじゃなく、彼女が地道に歩んできた努力の証だ。そこは間違えないでやってくれ」
「……確かに、失言だった」
エルは小さく息を吐き、姿勢を正すと、改めて真っ直ぐに言葉を紡いだ。
「すまなかった、貴女。私の謝罪を受け入れてほしい」
そういうと、エルは自分の左肩に右手を当て頭を下げる。
どうやらこの世界の貴族社会での礼のようだ。
「あ、頭を上げてください。だ、大丈夫ですから!」
慌ててレモンさんが止めに入る。
王族に頭を下げられる機会なんてめったにないし、せっかくだから受け取ればいいのに。
「ちょ、リュウさん!?」
「……はは、お前は本当に」
「そういえば、何か用事があったんじゃないのか?」
俺の言葉にエルが思い出したように反応する。
「そうだった。用事というか相談なんだが。とりあえずオーク襲撃で食料がいくらか焼かれたらしくてな」
「そういえば解体予定の家屋は共有倉庫にしていたって話だったな」
「あぁ、運悪く、そこに今年分の穀物とか干し肉があったらしくてな」
穀物や干し肉?村の食料庫だったってわけかな?
しかし、自宅じゃなくて共有倉庫なのか?
「エルフの集落は個人宅にも保存はするのですが、里で出し合った交易品や穀物などは共有財産として保管されていたりするんです。正確には交易担当が仕入れたものを私たちが買うようなイメージですかね」
へぇ。よくわからんが、確かにそれなりに町から離れているから、いっぺんにまとめて買って分配したほうがいいのかもな。
「で、その倉庫が燃えてしまって、今、食料がもともとこの村で取れたものか、我々が狩ったオークくらいしかないわけだが」
うん?まぁ、そうだろうな。
「すまないがリュウ、何かオークで作ってくれないか?できれば簡単で素早く、うまいもので頼む」
おいこら。
「すみません、お手数ですが私からもお願いできないでしょうか?」
レモンさんがグイっと俺の服を引っ張る。
うぐぐ。
まぁ、バーベキューと思えば焼肉か。
それよりもレモンさんの服を引っ張る力が強い。
これは、早く回答しないとギルドの時の様にドジかまされるパターンだ。
「あぁ、もうわかったわかった。ただ、作りはするけど口に合わなくても文句言うなよ」
「そこはそれ。信用しているぞ」
「おっ?なに?リュウ何か作るのか?」
「え?兄ちゃんが作ってくれるの?」
「人間の町の料理って俺ら食べたことないんだよね」
カルバラやエルフの里の子供たちまで来やがった。
さてはあらかじめ仕込んでいたな?
まぁ、全員分作らせていただきますがね。
俺は子供たちに手を引かれるまま、オークが解体されている現場、要は炊飯所へと連れていかれた。




