3-16.帰路、秘密の共有
「リュウ!無事だったか!」
洞窟から出るとエルと一人のエルフが小走りにやって来た。
洞窟を出たところには救出されたエルフの女性たちと助けに来たエルフ達で構成された部隊、それと殲滅部隊の先行としてベースキャンプを張りに来たエルフの連絡役3人がいた。
連絡役のエルフ達は荷馬車を持ってきてくれたようだ。
「オークキングはどうした?」
「倒した。多分、洞窟内にはもういないと思う」
「お疲れさまでした。話は聞きました。後の洞窟内の確認は我々にお任せください。おい!」
エルフは部隊長なのか、後の確認を引き継いでくれるそうだ。
エルフの男の指示でエルフの中から二人、俺たちの近くにやってくる。
「必ず二名で行動しろ。まだいると思って行動しろ」
「「はっ!!!」」
エルフの二人は指示された通り、洞窟へと向かって行った。
「では私も仕事に戻ります。戻られる際はあの荷車を使ってください」
「ありがとう」
そう言われたので俺とエルは荷車を付けた馬車の御者台に乗った。
まぁ、尤も、俺は御者はできないからエルにお任せって感じになるが。
「それで?あのヘビーウェイトコングはなんだ?」
エルが馬車を動かしている最中に問いかけてきた。
「なんだ、って?」
「とぼけるな。あれはBランク。出会うだけで災害と言われる魔物だ。しかもまだ死後硬直も始まっていなかった。100歩譲ってお前が仕留めてアイテムボックスに入れたからと言ってあんな状態で取り出せるような状態ではない」
あぁ、そういうことか。
確かにインベントリに入っている間は時間の進行がストップするみたいだし。
倒した直後にしまってそのまましまい込んでいたからまだ死後数十秒かそこらの状態だからな。
そりゃ気になるか。
「安心しろ、秘密を漏らしたりはせん。それに彼女たちも今は恐怖から解放されてしばらくは目覚めないだろう。聞こえることはない」
考え事していた俺が秘密を出し渋っていると思われたのか、エルがそう言ってきた。
いや、まぁ。なんとなく言わなかっただけで別に秘密ってわけじゃないんだが。
「なんなら、私の秘密も話そうじゃないか。これならお相子だろ?」
エルの秘密?
「あぁ、この国の王子様ってことか?それともトマスが騎士団長ってこと?」
「え?」
「え?」
一瞬、時が止まった気がする。
「あれ?もしかして秘密だった?」
「ぐ、ぐぬぬ……。……いつから知っていた?」
エルが悔しそうに手綱を握りしめる。
「いつからだっけか?俺なんか鑑定眼とかいうスキルが使えるようになってな。それで人を見ると情報が出てくるんだ」
「鑑定眼?そんなスキル先々代の魔術師団長くらいしか使えるものがいなかったぞ」
魔術師団長。逆に使えたのがすごいな。
「俺の場合、いつだったか森でキノコを拾って食べたときくらいからかなぁ……ってどうした?」
俺がキノコ、といった瞬間、エルがガクッとうなだれる。
な、なんだよ。一体?
「おまえ、よりによって私の前でキノコを食べたなどと……。リュウ、少しは常識をわきまえろ」
「どういうことだ?」
聞けばこの国、フィルフィリア王国ではキノコの採取、販売は資格が必要らしい。
それ以外の者が流通させた場合、最悪は死刑になるそうだ。
キノコ一つで死刑とは。なんとも厳しい世界だな、おい。
「キノコは中毒の危険性もあるからな」
まぁ、確かに。明らかに食べられなさそうなキノコはともかく、食用と見分けがつきにくいものもあるし。
今になって思えば俺もなんで食べようと思ったのか正直わからん。
普段の俺なら、誤食による中毒を警戒して食べないと思うんだが。
これもバアル=ゼアルが何かしたのだろうか?
まぁ、結果オーライということで。
「それで?結局あのヘビーウェイトコングはなんなんだ?」
「倒したんだよ。エルたちと出会う直前だったかな?」
「硬直が始まっていなかった理由は?」
「あー、あれは……」
まぁ、エルとトマスになら言ってしまっても構わんだろう。
ここ数日の様子を見ているとエルは特に物欲に乏しいと感じる。
依頼の報酬をトマスに丸投げする傾向にある。
そりゃ、この国の王子様なら金は臣下に丸投げってのも納得なんだが。
そんな彼なら俺のインベントリを知っていても無暗に利用しようなんて思わないだろう。
聞いた感じ他にも国はあるみたいだし、最悪逃げるって手もある。
俺はインベントリから一本の細い木の棒を取り出した。
「それは?」
「まぁ、慌てんなって。言葉で説明するより実際に見たほうが早いだろ?」
取り出した木の棒にナイフを寝かせ、落ち切らない程度にスライドさせていく。
ちなみにナイフはアスタランテで購入した小さめの解体用ナイフだ。
ウレルターノに売ってもらったナイフとは別に2本小さいものを1本バトニングできる大きいナイフを購入した。
それぞれ、用途別の解体用、それに薪を割る鉈の代わりだ。
今取り出したナイフは刃が他の物に比べ薄めで刃渡り14cmくらい。切れ味に優れている。
ナイフを当てた木の棒は上へ向かって捲れ上がっていく。
それを何度か繰り返す。しばらく作ってなかったけど、案外覚えているもんだな。
所謂、フェザースティックだ。
本来は薪に火をつけやすくするために使う。
現代では着火剤や火の付きやすい薪なんてものがあるからキャンプではあまり使われることはない。
使ってるとしたらボーイスカウトとか、サバイバルを楽しんでいる人だろうか。
この技術も以前、高校卒業以上の年齢のローバー隊に所属していた友人に教えてもらった技術だ。
日本ではバーベキューなんかで割りばしと小さな刃物さえあればできるから意外と使い勝手はいい。
ポイントはしっかりと乾燥した薪に適した木材で行うといい。
広葉樹より針葉樹の方が乾燥したときに縦向きの繊維がはっきりするからそちらの方が適している。
きれいな彼岸花形にするのは練習がいるが、ぶっちゃけ片面だけ削った歯ブラシ型でも火はつく。
これを2本用意。
俺はフェザースティックにチャッカマンで火を入れる。
するとあっという間に火の先端は燃え上がった。本当に一瞬だ。
刃物の扱いに慣れていないと羽根の部分が分厚くなってしまったり、けがをしてしまったりするので注意が必要だが。
俺は火のついたフェザースティックの一本をインベントリに入れる。
そのうえで、もう一本のフェザースティックに火をつけてしばらく手に持っておく。
ある程度燃えたら手袋を付けた手で握って消してしまう。
「とまぁ、普通に燃やすとこのくらいが限界なんだが、俺のスキルの中に入れたフェザースティックは……」
俺はインベントリからもう一本のフェザースティックを取り出した。
……インベントリに入れたフェザースティックは当然ながらまだ燃えていた。
「まさか、お前のアイテムボックスは……」
「多分、考えている通りだと思う。容量は分からないけど、どうやら時間の経過はないか、ものすごく遅いらしい。あと、アイテムボックスじゃなくてインベントリってスキルらしい。まぁ、対外的にはアイテムボックスってことにしてるけど」
「とんでもないな」
「これだけじゃないぞ。俺もいろいろ試しているが未だに容量の底が見えない。無限に入るんじゃないかな?多分。実際、今だけでも俺の装備品や服、数日分の食料、ヘビーウェイトコングにエルフの家が3軒、エルの切り倒した木がいくつかと、オークが……」
「わかったわかった。もういい」
エルが頭を抱え始めた。
「まったく、常識はずれにもほどがある」
「そうなのか?」
はぁ、とエルが大きくため息をつく。
「また今度、教えてやる。ともかく、そのことは誰にも公開しない方がいい。トマスやロス、この国の国王にもな。本当に信頼できる人間以外は隠し通せ」
そういってあきれながらに正面を向いた。
まぁ、そうだよな。
俺はエルに従って正面を向く。
もう少し、この世界の常識っていうのを学んでいかないとな。
そう、夜空を見上げながらひとりごちるのであった。




