3-13.オークキング
さて、どうしたものか。
俺は再びヘビーウェイトコングをインベントリに仕舞う。
いやもう、便利過ぎて泣けてくる。
ついでにだが、レモン女史を縛り付けていた石棺のような作りの台も纏めてしまっておいたのでエルには鎖を切ってもらう手間もない。
そのままレモン女史を保護してもらえばいい。
幸い、オークの注意は全てこちらに向いている。
あと数秒、意識をそらし続けられればレモン女史を含めてすべての救出は完了したとみていいと思う。
本当であればエルの魔法で遠距離から戦うのが良いだろうけど。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
オークキングが再び吠える。
その瞬間、ヤツの持つ剣が燃え始める。
「うそだろ。なんだそれ?」
もしかして、ファンタジー作品恒例の炎の魔剣って奴か?
傷口が燃えたのもやっぱりあれのせいだな。
チラリと、顔はそらさず目線だけでエルを確認する。
なんとか救出には成功したみたいだ。
エルには俺のマントを渡しているのでそれを掛けているようだ。
彼女を連れてエルが通路側へと退避する。
部屋の中にはオークが全部で5体。
全部が俺に集中しているため、エルの心配はいらないだろう。
俺のインベントリには現在オリーヴィアの里で倒した5体。
洞窟内で倒した30体。
ここにいるオークキングを含めた5体。
まだ洞窟内にいるかどうかは分からないが、ちょっとした軍隊みたいな数だ。
オークって知恵のない魔物って聞いたけど、こんな軍隊みたいな数を統率できるものか?
この場合、オークキングが統率者ってことかな。
にしても……。
趣味の悪いネックレスしてるなぁ……。
頭蓋骨のネックレスって。
まぁ、俺たちの世界の小説なんかでもよく登場する装飾品ではあるが。
実際見てみると思った以上にキモイ。
というか、なんだか底知れぬ視線を感じる。
髑髏の目の部分から発される威圧感というか。
底の知れない闇というか。
何なんだろうか。この感覚。
例えるなら風呂嫌いが縛り付けられて風呂に入れられたみたいな。
うへへ、口では拒否していても体は正直だぜ、みたいな感覚になる。
例えがあってるかはわからんが。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
おっと、考え事をしている場合じゃない。
オークキングが手に持った剣を振り下ろしてくる。
俺はそれを後ろに飛んで避けた。
この世界に来て、俺の能力はかなり向上したのか、すごく集中すればオークキングの攻撃がスローに見えてくるほどだ。
正直なぜこれほど身体能力が強化されたのかはわからないけど。
俺の目の前をオークキングの剣が通り過ぎる。
そのままオークキングは俺の方へ突進して剣を横なぎに振るってきた。
俺は後ろにとんだ力を利用してしゃがみ込み、その横なぎを避けた。
オークって大体どんな作品でも鈍重なイメージだが、こうしてみると結構速いな。
よくよく考えたら豚って脂身のイメージが強いけど、筋肉の塊だしな。
人間でいうと体脂肪率15%ぐらいでアスリートか細マッチョ体系だっけ?
なんかたれの研究をしているときに栄養学の本でそんなコラムを見た気がする。
ちなみに俺は焼肉においては赤身脂身どちらも愛している。
何ならすじ肉もホルモン系も愛している。
っと。
俺はオークキングの攻撃を避け続けていたのだが、ついに壁際まで来てしまった。
しかし、ヘビーウェイトコングやジャイアントボアに比べれば随分と迫力不足だ。
それに先ほどは統率できているとは言ったが、連携の方はおざなりのようだ。
現に俺への攻撃はオークキングしか行っておらず、残り4匹のオークは手を出してこようともしない。
なんだかすごくもったいないというか、あべこべな印象を受けるんだが。
オークキングの剣が再び俺に向かって振るわれる。
俺はそれを斜め前に飛ぶことで回避した。
オークキングの剣は壁を砕き、バランスを崩したオークキングの巨体はそのまま壁に激突した。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
激突の衝撃と共に広間が揺れ、オークキングの悲鳴が響く。
「これで終わってくれれば楽なんだけど」
俺は土煙の先を見つめながらそう独り言をつぶやいた。
しかし、無慈悲にも黒い影がぬっと立ち上がってきた。
「うへぇ。丈夫だな……」
そうつぶやいた瞬間、今度はオークキングが俺に向けて突進を仕掛けてくる。
俺はその突進を再び右斜め前に向けてかわし、オークキングは仲間のオーク1匹にぶつかり、もみ合いながらこけた。
そろそろエルも洞窟を出たころかな?
決着をつけてしまった方がいいかもしれない。
俺はそう思ってウェルチ包丁をインベントリから取り出し構えた。
またも土煙中から立ち上がる影が見える。
しかし、どうも様子がおかしい。
土煙の中から立ち上がったオークキングが再び屈んだのだ。
土煙の向こうから聞こえる。
不快なぐちゅぐちゅという肉を食む音。
砕ける骨の音。
皮や肉を引きちぎるぶちぶちという音。
一気に充満する鉄の、いや血の匂い。
それらはあまり日常生活で聞くことのない音。
そう、生きた動物を食う音。
オークが、オークを食っていた。
共食いする瞬間なんて初めて見た。
食事を終えたのか、オークキングはゆっくりと立ち上がる。
すると切り落としたはずの左手の肩あたりが盛り上がり、肉が蠢く。
次の瞬間、腕が再生した。
……まじ?
俺は思わず、切り飛ばしたオークキングの腕を見る。
腕はそこにあった。
ということはいつの間にかくっ付いたわけではなく、やはりゼロから再生したようだ。
ゲームや漫画では再生したとか幾度となく見たことがあるが、実際に見るのは初めてだ。
あんな気持ち悪い感じで再生するのか。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
オークキングは明らかな敵意を俺に向けていた。
……さぁ、どう切り抜けるかな。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
オークキングが再び大きく叫びをあげる。
口からは血とよだれが飛び散る。
うへぇ。
汚い。
豚って確か雑食だよな。
豚っていうか猪だろうか。
毛皮はほとんどないから豚っていう方が正しいよな。
オークキングに触発されたのか、周りのオークがぎゃぁぎゃぁと喚きちらし始めた。
五月蝿い。
そんなに文句があるなら仲間がオークキングに食われたところですればいいのに。
しかし、ジリ貧だな。これ。
オークキングが回復しないように先にオークたちを仕留めるか?
いや、またすぐに呼ばれても困るしな。
やっぱり、先にオークキングを仕留めるのがいいか?
あの燃える剣が邪魔だなぁ。
うん?待てよ?
俺は、相手の剣をインベントリに入れるように意識する。
するとオークキングの手からフッと剣が消えた。
Buhyaa!?
よし、成功だな。
今まで使った感じだとインベントリは俺から数メートル以内くらいの生きていない物を収納する。
だからこういう使い方もできるとは思っていた。
まぁ、流石に町の中の人に向かってやるわけにはいかないので、試したりはしていない。
普通に窃盗だしな。これ。
ただ、今回はモンスターが相手だから問題ないと思う。
ふと思ったんだがこれって、今着ている服とかでもできるんだろうか?
俺は思い立ってオークのうちの一体で試してみることにした。
なぜつけているかわからない腰布を目標にしてみる。
Buhyaa!?Buhyaa!?
おぉ。できたな。
普通に。
焦ってる焦ってる。
というか、知恵の無い魔物なのに腰布はつけるんだな。
不思議なもんだ。
俺はその隙をついてオークの首をウェルチ包丁を飛ばして刎ねる。
吹きあがる血液は彼らの強靭な心臓を物語っているようだ。
できるだけ体はきれいな状態で手に入れたいからな。
オークって食用になるみたいだし、できれば首から上もきれいな状態の方がいいだろう。
ドシン。
静かになった空間にオークの倒れこむ音が聞こえた。
さすがに動揺してほかのオークたちも静かになったようだ。
さらにここでオークをインベントリへ収納。
オークキング以外のオークはこれで黙った。
後はオークキングだけだが。
奴はまだやる気のようだ。
血管が浮き出るのがわかるほど、頭に血が上っている。
まぁ、気持ちはわからんでもないが、お前らはそれを人間にしてるんだろ?
なら、おあいこだろう?
自分たちがされて嫌なものは相手がされても嫌なのだ。
俺は静かになったオークを無視して、オークキングに肉薄する。
ウェルチ包丁も手元に戻している。
振りの速度も申し分ない。
仕留めた!
そう思った。
俺がその時見たのはオークキングの口角が上がる顔。
そいつは、その時確かに笑っていた。
俺の視界が紅蓮に染まる。
見るとオークキングはどこからか宝珠のようなものを取り出していた。
そこから放たれた炎。
やられた。
こいつはたぶん、この瞬間を待っていたのだ。
俺が油断して攻めてくるその瞬間を。
俺は一瞬躊躇はしたが防御の姿勢を取る。
俺の視界は、炎の中に飲み込まれていった。




