3-12.突入
俺は気づけば飛び出していた。
後先考えてなかったと今では反省してはいるが。
とりあえず、襲われている人がいるなら、助けられるなら助ける。
聞いた感じオークに攫われて無事に戻って来られるようなことはないらしいから、今のうちに始末をつけて問題ないはずだ。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?
俺は飛び出してインベントリからウェルチ包丁を取り出し、思いっきり振り下ろした。
オークの左腕が宙を舞う。
左腕はオークの前方に叩きつけられるように地面へと落ちた。
他のオークよりひと際大きなオークから血しぶきが派手に飛び散り、オークの身体がぐらりと傾く。
しかし、次の瞬間、俺の右の方向から強烈な衝撃が走った。
俺は何とか防御姿勢を取ることができたが、左方向に吹き飛ばされた。
俺は衝撃の余波を受けて左手の壁に衝突する。
左手の壁に激突する瞬間、若干の衝撃の緩和があった。
おかげで大けがまでは至っていない。
埃が舞い上がり、視界が悪くなる。
背中を打ち付けた痛みはあるが動けないほどではない。
俺はすぐに立ち上がりウェルチ包丁を構える。
追撃は……ない。
おかげで少し冷静になる時間ができた。
先ほどの衝撃の軽減は……。
エルの方を見ると手を伸ばして魔法を使った残滓を感じる。
ってことは多分、エルが何かしてくれたんだろう。
例えば、飛ばされた俺の身体を空気のクッションで保護してくれたとか。
たしか風魔法が得意って言ってたしな。
俺のゲームや漫画知識がそのまま使えるなら、風魔法って補助とかが得意だと思うんだ。
これは、やっぱりいつか覚えた方が便利そうだ。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
一際大きな先ほどのオークが吠える。
吠えたかと思うといつの間にか持っていた剣の腹を傷口に当てていた。
……うぇ!?何してるんだ?
肉の焼ける匂いが辺りに広がる。
肉の焼ける匂いは好きだが流石に生きてる肉が焼ける匂いはなぁ……。
豚は人間とよく似た体の構造をしているせいで、生きたまま焼ける匂いは死体の焼ける匂いとも称されるという。
毛や皮膚の燃えるケラチン臭。
沸騰して焦げた血液の強い鉄の匂い。
骨が炭化した時特有の粉っぽくむせ返る匂い。
それらが一気に押し寄せる。
まさか、自分の肉を焼いて血を止めるつもりか?
デカいオークが荒い息を吐く。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
オークが片手に持った剣を振り上げた。
そのまま再び振り下ろそうとする。
ヤバい!
俺はウェルチ包丁を収納し、全力で前に飛ぶ。
今の身体能力ならできなくはない。
今アイツの目の前には……繋がれたレモン女史がいる。
アイツが振り下ろすのを止められればいい。
俺はアイツの下に潜り込んで思いっきり殴る。
ぶよん。
いや、ギャグかよ!
腹の肉……いや脂が分厚過ぎて、打撃が通らねぇ!
にやり、オークが笑った気がする。
このままじゃやべぇな。
何か硬い物……。
ってそうか。
俺はインベントリから『あるもの』を取り出す。
……いや、射出する。
俺とは違う、硬く強靭な『体』。
ヘビーウェイトコングだ。
流石に単純な質量なら!
ヘビーウェイトコングとぶつかったオークが怯む。
「エル!頼んだ!」
「任せろ!」
俺はエルの方に叫ぶ。
隠れていた通路の先からエルの声が響く。
「だが!そのヘビーウェイトコングについては後で話せよ!」
あ、やっぱりそこ気になるのね。
……そりゃそうか。
なんせ今の今まで隠してたんだし。
俺達の作戦はこうだ。
俺達が里に着いた時点ですでに移動を始めていたオークの集団はオリーヴィアの里の密偵集団3名が追ってくれていた。
なのであの後、俺達はすぐ行動を開始した。
突入する人間は俺、エル、里の密偵から2名、里のエルフから12名、合計16人。
エルフ達は攫われた人たちの保護要員。
情報では攫われたエルフは14人。救出に向かうエルフも密偵を含めた14人。
彼らに救出してもらっている間に、俺達でオークたちの相手をする。
そういう作戦だった。
俺達が洞窟に着いたとき、30体ほどのオークと洞窟内で遭遇戦が始まった。
里のエルフ達は十分に強く、今回のような不意打ちでなければ単体のオーク程度であれば問題ではないらしい。
ちなみに、その30体のオークは俺のインベントリにぶち込んでおいた。
ある程度まで奥に進むと、ひときわ大きなオークがレモン女史を抱えて奥に進んでいくのが見えた。
飛び出そうとする俺をエルが止めた。
「待て、リュウ。我々の目的はあくまで攫われた女性たちとオークの殲滅、両方を達成することだ。私達が3日、帰ってこなければ巣の中に炎の魔法を放って殲滅が始まることを忘れるな」
「それなら、今倒すのが正解なんじゃないか?」
「いや、今なら戦闘を控えて救出できる。おそらく奴らが出て来た先に檻か広間があるとおもう。当初の予定通りエルフ達はそちらに行かせる」
つまり、俺とエルでさっきのオークを追うって事か。
1人はもし遭遇戦になったときの護衛だ。
ちなみに殲滅部隊はカルバラに指揮を任せている。
ああ見えて実はかなり優秀な人物なようなので、安心して任せられると、エルも言っていた。
「あぁ、だが彼女たちを救出するにも時間がいる。なるべく、斬りかかるのは我慢してくれ」
「そういうことなら……わかった。出来るだけ努力する」
そう言って俺達は別行動を始めた。
向こうのチームが出来るだけ離れられるようにしないとな。
俺達は通路の影に隠れてオークキングに気づかれないよう一匹ずつエルの風魔法で狩っていく作戦にした。
生物である以上、必ず死角ができる。
そこをつくのだ。
エルが死角に入ったオークの首を風魔法で落とし、同じ風属性の魔法でゆっくりと音がしないように体を倒していく。
これで3匹は狩れる計算だった。
……とか、頭ではわかっていても現実には無理でした。
レモン女史が攫われた広間にはオークキングを含めて6匹のオーク。
俺達が追い付いたときにはレモン女史が繋がれ、今まさに暴行されそうになっているところだった。
「エル、すまん。作戦変更だ!」
俺は、思わず飛び出していた。
俺達の作戦が崩れた瞬間だった。




