3-11EX.オークキングの脅威
EXですが、実質続きです。
私の名はレモン。
レモン・ロア・ノセルウェート・ウェル・オリーヴィア。
ノセルウェート・ロア・アルミダ・ウェル・オリーヴィアを母に持つ、エルフの娘。
私の父と母は冒険者だった。
父はオリーヴィアの里から南に向かった先にあるダクスという町を拠点としていた冒険者であり、母はこの里の出身。
南の町と言っても、山越えが必要なそれなりに遠い都市だ。
距離的には遠いがアスタランテに向かう方がまだ早く着けるだろう。
そんな父が依頼のさなか立ち寄ったオリーヴィアの里で母と出会って、二人は恋に落ち、私が産まれた。
母は父の影響からか冒険者登録もしていたみたい。
人間との混血の影響なのか、身体こそエルフだが、私の髪は薄い青。瞳も他のエルフ達と違って青い。
幼い頃はそれなりにコンプレックスだった。
けれども、父と母はそんな私にもたっぷりと愛情を注いでくれた。
里のみんなも、気にしないと。同じ里に生まれた仲間だと言ってくれた。
後から知ったのだが、この髪はエルフ族にはたまに現れるらしく、さして珍しいものでもないらしい。それならそうで早く言ってほしいわよね。
……まぁ、子供にそれが理解できるかは不明だけど。
……けれど、そんな父と母が死んだ。
原因は魔物の発生。
里のある森は、川で分断されてはいるが危険地帯、暴君の森とも近い。
その欠点が存分に発揮された形なの。
私が15歳の時、魔物が暴君の森のオリーヴィアにほど近い場所で暴れた。
暴君の森で、ブラッディヘビーホーン、タイラントラプトル、ヘビーウェイトコングと並んで恐れられている魔物、ジャイアントボア。
暴れ始めるとそれなりの犠牲を覚悟しなければならない、強力な魔物。
その時は大変だった。
アスタランテという都市では5人くらいの犠牲で済むという話だけど、そんな与太話、ちょっと信じられないかも。
結局、里の戦士13人が犠牲になり、その中には私の父と母も含まれていた。
それ自体は仕方のないことだと思う。
彼らの本業は冒険者。
自分の命には、自分で責任を持たなければならない職業だもの。
けれども、それからの私の人生というのはあまりいいものじゃなかったと思う。
もちろん、奴隷だったとか、食うに困ったとかいう訳ではないの。
15歳という人間族であれば成人手前。生活できないわけではないはずだ。
私は、人族の町で魔道具の技師として修業を始めた。
もちろん。簡単な話ではなかった。
私は懸命に研鑽を重ね、魔道具技師として一級と言われるまでになった。
しかし、そんな私が工房の人々に投げられた言葉は……。
「さすが、『天才』だな」
そんな言葉だった。
「いえ、そんなこと。ない、です」
私はそんな言葉を吐くことが精いっぱいだった。
魔道具作りの天才。
それが私の世間の評価だった。
そうじゃなかった。
私はただ、褒めてほしかったのだと思う。
『頑張ったね』と。
『努力したね』と。
天才なんて言葉で片づけてほしいわけじゃなかった。
たぶん、もう一度、あの温かい大きな手で頭を撫でてほしかったんだと。
その時、初めて分かった。
その直後、私は人の町を去った。
私の求めていたものはここにはなかった。
私はオリーヴィアに戻ると、そこで魔道具研究を始めた。
魔道具作りは性に合っていたから、気を紛らわせるにはちょうど良かった。
ここは私を『天才』と括らない。
私を迎えてくれる里。
それが、ここオリーヴィアの里だ。
「少し、根を詰め過ぎではないか?」
それからしばらくして。
里長からアスタランテの町に増援を頼みたいからお使いに行ってほしい、という依頼があった。
実はこれでも人間の町にいたころに冒険者登録をしていたから冒険者たちの事に関しては多少他の人達よりも詳しかったので受けることにした。
たまには外の空気を吸うのも悪くない。
それにこの依頼は私の運命を変える。
そんな気がした。
……それが、こんな結果だとは思わなかったわ。
「くっ!はなして!放しなさい!」
私は今、オークに抱えられて洞窟の奥へと連れていかれていた。
抵抗はするが、私の体格や筋力ではとてもオークを振りほどくことができない。
たまに膝が関節か何かに当たるのか、少し身じろぎするくらいだ。
私は最大限の抵抗を試みながら、考える。
……やはりおかしい。
オークのこの行動にはわずかだが知性を感じる。
こんなこと、今まで確認はされなかった。
と、なれば。
やはりオークたちは知恵を得たのかもしれない。
その想像に私は背筋が冷たくなるのを感じた。
そして、もう一つ。
私と同じく攫われた彼女たちがまだなにもされていないこと。
そして、いま私が連れていかれていることで一つの仮説が考えられた。
彼らの目的は、初めから私であったのかもしれない。と。
彼女たちは完全に巻き込まれただけで、私をさらった目的を達成すれば、彼女たちは犯されるか殺されてしまうのではないか。
そんな嫌な予感がしている。
「きゃっ!?」
突然、オークが私を投げ飛ばす。
私の身体は石の台の上へと投げ出された。
私の腕を別のオークが持ち上げ鎖につなぐ。
同じように足に足かせをはめられ、鎖につながれた。
……この枷はどこから持ってきたのだろう。
私は助けを求めてあたりを見回す。
もちろん、この場に私を助けられるものなどいない。
Buhya!Buhya!Buhya!
ひと際大きな体格のオーク、オークキングが何かを叫び始める。
「ひっ!?」
奴の手には人の物であろう骸骨で作られた首飾りのようなものがぶら下がり、片方の手にはたいまつが握られていた。
……いや、たいまつじゃなさそう。
そもそもオークは夜目も利くから、たいまつをわざわざ使う必要が……。
私はそれの正体に気づいた。
それは魔道具だ。
片刃の剣の形をした、炎を出す魔道具。
それを片手にオークキングは横の藁の束に火をつけた。
……これ、何の冗談かしら。
オークが道具を使っている。しかも魔道具。
カランッ。
と乾いた音が響く。
それはまるで前時代の帝国が奴隷に使っていた焼き鏝のような形状をしている。
それを火のついた藁の束の中に突っ込んでいた。
四肢を固定され石の祭壇ともいえる場所に縛り付けられた私はさながら前時代の生贄か奴隷のようではないか。
そう思った瞬間、恐怖が波のように押し寄せてきた。
反対側にいたオークの手が私の服に伸びる。
「い、いや……」
私は恐怖で知らず知らず、声を上げてしまっていた。
オークはそんな私の様子を見ると、ゲスの様に口をゆがめて見下した。
オークの手に力がこもり、私の服の前の部分を力任せに引きちぎった。
ビリッ!!
「あ、あぁ……」
恐怖で言葉が出ない。
オークキングが先ほどのオークよりもさらに下卑た顔で近づいてくる。
そのまま私の顔を覗き込んだ。
むり、これは無理。
恐怖で言葉が出ない。
身体が抵抗する力を恐怖が上回る。
にやりとオークキングの口がゆがむと、私の下半身、お腹のあたりへと手を伸ばし……。
残っていた服を引きちぎってきた。
私の服は、前が完全に開かれた状態になる。
これで終わりか。
そう思った。
恐怖が完全に精神を振り切ってしまったのだ。
私の頬と下半身に温かいものが伝った。
せめて、最期に。誰かに褒めてもらいたかったな……。
そう、覚悟したその時。
Buhyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?
今までに聞いたことないほど、巨大に響くオークの叫び声と共に。
オークキングの左腕が宙を舞い、その薄汚い血液をまき散らしたのだった。




