3-14.焼肉道
……おかしい。
いつまでたっても熱くならない。
確かに俺は炎にのまれたはずなんだが。
……え?
マジで熱くないんだけど。
どういうこと?
俺は恐る恐る目を開ける。
そこに広がっていたのは、白い空間だった。
……どういうこと?
いや待って?
落ち着け。
俺はオークキングと対峙して……。
アイツは確か俺をハメてなんか炎を吹く宝珠を取り出して……。
いや、どう考えてもこの空間はおかしいよな?
俺は周りを見渡してみる。
見渡す限り白、白、白。
もうずっと先まで白い。
どうしたもんかなこれ。
「こっちこっち!」
うん?
誰だ?誰かが呼んでる?
「こっち、こっちだって」
こっち?
どこ?後ろか?
俺は声のしたほうに振り返る。
「こっち」
うぉ!?
ビックリした!?
急に目の前におっさんが現れた。
いきなり音量が上がった感じ。
そりゃビックリするだろ。
え?誰?
上半身裸にマント。
黒い山羊のような角。
銀髪。赤い瞳。
隆起した筋肉。
マントの隙間から見える上半身からは刺青っぽい物。
うわー。やべぇ人だ。
コスプレって奴だろうか。
「いやいや、やっとつながったぜ。なんせ俺様、こういうの苦手でさ」
こういうの?
「そういえばここって何処だ?」
その問いに、男が髪をかき上げる。
「あー、なんっつえばいいかな。神界とも違うし」
神界?
神様がいる世界的な?
「いや、だから神界じゃないんだって。あー!俺様じゃうまく説明できねぇ!」
男が頭を掻き毟る。
「あれだ!あれ!人類の到達点的なやつ!」
いや、全然わからん。
なんだよ、人類の到達点って。
「まぁ、この場所の事はそういう『よくわからん場所』ってかんじで納得してくれ!で、本題だが」
いや、納得してくれって。
無茶ぶりが過ぎんか?
こいつアレだな?
普段、アレとかコレとかソレとかばっかり言ってるから名前とかが出てこないやつ。
「まぁ、平たく言うと今の状況って奴を説明してやろうと思ってな!」
「状況?」
「おうよ!まぁ、お前も急にこんなところに呼び出されて苦労してるだろうと思ってな」
「いや、それならもっと早く来いよ」
「いやいや、無理無理。だって俺様、こうやって呼んだりするとか超苦手だし!」
苦手ってどういうことだよ。
「俺様、存在するだけで魔力だのなんだの、垂れ流しちまうからな。下手に指向性持たせちまうと世界が歪んじまうんだわ」
へぇ、世界が歪む……、はぁ!?
世界が歪む!?
何いってんのこいつ!?
「なんせ根源を護る城壁たる7つの将星のうちの一つだからよ!まぁ、この姿は人間に合わせたものだけどよ」
……全く言っている意味が分からん。
なんだ?
根源?城壁の星?
どういうこっちゃ?
「あ!どういうこっちゃ?って顔してるな?」
しまった、顔に出ていたか。
「ま、簡単に言うと、お前をこの世界に呼んだのは俺様ってこった。いやなに、前々からちゃんと視てはいたんだが、世界が歪まねぇようにこっちに呼ぶのに苦労してな。ようやく呼べたって感じなんだよ」
へぇ。
つまり、てめぇのせいか。
俺はインベントリの中から包丁を……包丁、ん?
「あー、無理無理。わりぃな。それ元々、俺様の力だからよ。ここじゃ無理なんだわ」
ん?俺様の力?
どういうことだ?
「まー、俺様の力の一旦みたいなもんでよ。その『空間収納』も、『貯蔵空間』も、『絶対王道』も、『食を力に』も、『超時間』も、俺様の力の一部でな。まー、純粋な俺様の、って言うにはもうずいぶんと変質しちまったんだがよ」
変質ってどういうことだ?
「ま、単純にお前の中でお前に合わせて性質が変化したって意味さ。俺様の力は元々いろんな応用が利いてな。お前の中じゃ食に特化したみたいだな」
食に特化って。
どういうこっちゃ?
「いや、まさかここまでとは。もちろん、俺様の力ってのは元々食に流されやすいところはあるんだがな」
全然意味わからん。
こういう時は……。
「なぁ、さっきからよくわからん事ばっかり言ってるけど、結局お前はどこの何者なんだ?」
「俺様か?俺様は『暴食』。『暴食のバアル=ゼアル』。星の守護者、星の城壁、その七つの将星の一つ。中でも強力な三大欲求に直結する啓示-アポカリプス-。気軽にバアルさんとでも呼んでくれ」
「将星?七つって事は他にもあるのか?」
「そりゃぁな。まぁ、同じ城壁と言っても仲間ってわけじゃねぇからな。情けないことに俺様以外の城壁は全部機能停止中でな」
「機能停止?」
「まぁ、いろんな事情があってな」
「事情って……もしかしてあのオークキングみたいなのにやられたとか?」
「いや、そうじゃねぇよ。ま、その辺はいずれ分かるさ。今はそれよりも……」
そう言うと、バアル=ゼアルと名乗った男が俺を指差す。
「お前さんにこのまま負けてもらったら俺様としては困るわけよ」
バアルの指が俺の額にコツン、と当たった。
「……だから、ちょっとだけ手伝ってやろうと思ってな」
ぽぅっと、バアルの指が紫色の光を放つ。
あれ?なんだか意識が……。
いや、なんだこれ?
なんだか異常に眠い。
「まぁ、お前と結びついた俺の根源の力がお前の性質と結びつきやすくするだけだ。心配すんな」
根源の力?性質?
カチリ、と俺の中でなにかが嵌ったような感覚がする。
「力を扱えるようになったらもっといい物くれてやるよ」
良い物?いやそんなことより。
やべぇなこれ。
油断してると意識を持っていかれそうだ。
「さぁ、解放してみな。お前の根源をよ」
俺の……根源?……根源?
俺の中でベースにあるもの?
そんなの決まってる。
焼肉だ!
そう、焼肉。
俺が最も愛し、俺の原動力となっているもの。
「焼肉道序文っ!!!!!!!」
「うぉ!?びっくりした!?急に叫ぶなよ」
「焼肉道とは!
焼肉という食文化を敬愛し、
焼肉という食文化を尊重し、
焼肉という食文化を守護する。
焼肉という精神を世に伝え、広める。
その情熱、その情愛、その啓蒙。
それら心意気を伝える果てなき道であるっ!」
「……は?」
「俺の根源と言ったらやはり焼肉だ!」
そうだ。
なんだかんだとスープだのなんだのって作ってるけど、俺の基本はやはり焼肉だ。
焼肉屋で出てくるものは全て焼肉。
肉はもちろん、野菜や変わり種、一品、ごはんもの、汁もの、デザートに至るまで含めて、焼肉なのである。
そう、焼肉とは単一の料理名ではない。
たまに、焼肉バイキングは焼肉と認めないとか、バーベキューは焼肉じゃないとか、ホットプレート式は焼肉じゃないとか、そういう輩が出てくるが俺の中では焼肉判定だ。
焼肉とは、その場、その店の出てくるすべてを総称する言葉なのである。
「はははっ。やっぱりお前って面白いな。『食』を根源に持つものは必ず強くなる。なんせすべての活動の原点だからな。食事は制限はできて形は変わっても、細胞として産まれてから死ぬまで絶対切り離せないからよ」
「食じゃない。焼肉だ」
「いや、まぁいいんだがよ。ともかく、これでお前の根源は開かれた。前よりは動きやすくなってスキルも自在に使えるはずだぜ」
動きやすく……って。
今まででも十分過去に比べたら動けていたんだが。
「十分よりも、だ。まぁ、現実に戻ってから実際に試してみてくれ」
「お、おぉ。あ、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど」
「ん?なんだ?」
「なんか最近、鑑定の力みたいなのが使えるようになったんだけど、なにか知らないか?」
俺のスキルの元の持ち主ってことは、もしかしたらこいつなら何か知っているかもしれない。
「ん?あぁ、そりゃ『食を力に』の効果だな。お前さん、森でキノコ食ったろ?」
キノコ?
そういえば、だいぶ前に食った気がする。
「ありゃ、見破り茸っていうキノコでな。そのキノコには『鑑定眼』っつースキルがあったんだ」
「なるほど。それを食えばだれでも鑑定眼を手に入れられる、と?」
いやそれじゃおかしいな。ステータスを確認できる魔道具があるわけない。
「そうじゃねぇな。『食を力に』ってのは喰うことで一時的に能力を上昇させられるが、それはおまけみたいなもんだ。本当の力は食ったもののスキルを手に入れる能力」
え、じゃぁ俺は食えば食うほど強くなれるってことか?
「もちろん、厳密にはもっと条件がある。なんでも食えばいいってもんじゃねぇ。まぁ、ざっくり、個体丸々食えばスキルを手に入れられるだろうさ」
個体丸々……、え。無理じゃん。
キノコは一個体が小さかったからできるとしても、動物とかは厳しいだろ。それ。
いや、兎くらいなら何とかなるか?
ちょうどウサギもいくつか仕入れているし。
「まぁ、すぐすぐどうこうなるもんじゃねぇからな。ゆっくり気長にやってみな」
そうバアルが言うと俺の周囲に光の粒が舞い上がる。
それに合わせてか、体がふわりと浮き上がった。
「お?時間みてぇだな?ま、気が向いたらまた喚んでやるよ。それまで死ぬんじゃねぇぞ!」
「お、おい……!」
俺は手を伸ばす。
まだいろいろと聞きたいことがあるんだが。
「あ、そうだ。一応、さっきお前にいろいろ耐性付与しといたから。あのくらいの炎じゃ死なねぇとは思うが、気を付けろよ!」
そういうと俺の意識は空中へと解けていった。




