3-10.里の救出作戦
「なんだ……。これは……」
エルが絶句する。
流石にこの状況は予想していなかったのだろう。
「おいおいおいっ!やべぇぞ!これは!」
カルバラがそういうとすぐに行動を起こした。
燃えている、おそらく里の門だと思われる燃えた建造物をくぐり抜けていった。
こういう時の行動力はさすが衛兵だ。
「エル!ぼさっとするな!俺達も行くぞ!」
「あ、あぁ!」
俺達は駆けだしてカルバラに続いて燃える建造物をくぐり抜ける。
とりあえず、生存者を助けられるだけ助けて、それから消火。どんな辺鄙なところにあっても村は村。井戸か川くらいはあるはずだ。状況の確認はそれからで……。
Buuuhyalalalalaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!
けたたましい叫び声が聞こえる。
俺は反射的にインベントリからウェルチ包丁を取り出す。
そのまま、左手後ろに大きく振る。
手ごたえがあった。
切った感触は分厚い肉の塊。
ウェルチ包丁が中途半端に止まってしまった。
肉の塊は声も上げずに絶命した。
オーク。
豚人間。いや、人型の豚、が正しいのだろうか。
まさに俺のあの日の夜に見たままの姿だった。
豚の頭に力士のような体。
ご丁寧に口には牙やこん棒のような装備まで備えている。
中途半端なぼろ布を腰に備えてはいるが……。
それは何かの冗談だろうか?
アニメやゲームで見た時は何とも思わなかったが、こうして見てみると違和感がすごい。
野生動物程度しか知恵がないものだと思っていたよ。
「リュウ!オークだ!オークの群れが里を襲ったらしい!里に加勢するぞ!」
「あぁ!カルバラ!先行してくれ!後ろにも何頭かいるみたいだ!エルはカルバラについて行ってくれ!後ろはこっちで引き受ける!」
「了解!気をつけてな!俺は先に里の中心部に向かう!」
俺は脚を止めて振り返る。
後ろからくるオークの数は……、全部で5匹。やるしかない!
俺は集中する。
大丈夫。
あのジャイアントボアやヘビーウェイトコングはこんな程度の気迫じゃなかった。
アイツらに比べたら、この程度の気迫、どうってことない!
俺はオークの集団に飛び掛かる。
なんだかすごく集中しているのか世界がスローモーションのように感じる。
狙いは……首っ!
俺はオーク集団の首目掛けてウェルチ包丁を振るった。
狙い通り、オークの1匹は首と胴が分かれた。
一匹目のオークを仕留めた俺に向かって、後ろに居た4匹のうち1匹のこん棒が俺を捕らえようと横なぎに払われた。
俺はそれを空中で体を丸めることで足の裏をこん棒に当てることに成功した。
現代ではありえなかった動きだが、今はそんなことを気にする暇はない。
俺は気にせず、オークのこん棒を利用してさらに上に飛び上がる。
落下していく俺にオークたちの驚愕の目が向けられた。
俺は構わず、オークの頭にウェルチ包丁を叩きこんだ。
グチュッと嫌な触感と共に頭蓋骨が砕ける音がする。
残りのオークたちが少しおびえたような仕草を見せる。
俺はその機を逃さない。
一旦、ウェルチ包丁を手放し、オークの身体を蹴って飛び上がる。
そのまま新たにインベントリから包丁を取り出して2体のオークに投げつけた。
四角い包丁を二つ。
どちらもウレルターノから仕入れたものだから切れ味は折り紙付きだ。
包丁は2匹のオークの額に刺さる。
Buuuhyalalalalaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!
2匹が悲鳴をあげて絶命した。
俺はそれを確認するとウェルチ包丁を一旦インベントリに仕舞う。
そのまま走って最後の一匹に向かって走る。
あと、10m!
俺は再びウェルチ包丁を取り出す。
あと、5m!
ウェルチ包丁を振るう。
ウェルチ包丁はオークの首に吸い込まれ、首を半分ほど千切った。
これなら生きててもいずれ倒れるだろう。
ふぃぃぃぃ。
何とかなったぁ。
とりあえず5匹全部インベントリに入れておこう。
入った。
って事は全部倒せたっぽいな。
なんというか、戦闘状態になるとどうも自分の限界以上の力が出てる気がする。
ジャイアントボアやヘビーウェイトコングの時もそうだった。
まぁ、便利だからいいか。
「よし。ここは片付いたな」
エルたちのところに急ぐか。
俺は再び正面に向かってカルバラ達が向かった方向に駆けだした。
「すまん!遅くなった!」
「いや、大丈夫だ。それより……」
カルバラとエルの元に向かった俺の目に飛び込んできたのは炎。
予想以上の熱量だ。
里が丸々燃えているように感じるほどだ。
「状況は?」
「ほとんどのエルフが避難を終えている。オークどもも何匹かは倒してもうここにはいないようだ。あとは消火だけだが……」
エルが正面を見る。
「私は魔法は風属性しか習得していない。この火を消すのは無理だ。井戸の水でもとても追いつかない」
燃えているのはどうやら里の奥の方。三軒くらいだ。思ったより少ない。
なら、なんとかなるか?
「一つ確認だけど、あの辺は全部避難終わってるんだよな?」
「はい。確認済みです」
エルの代わりに近くにいたエルフが答えた。
ほほや服が煤だらけだ。きっとさっきまで懸命に捜索をしていたのだろう。
「わかった。エル、火の向こう側の森の木を風の魔法で切り倒してくれ。まだ燃えてないところ。そうだな……、2本分くらい空けばいい。動けるエルフさんたちも手伝いお願いします」
「切り倒す?どうするんだ?」
「燃える物をなくして燃える範囲を少なくするんだ」
「なるほど!そういうことか!村側はどうする?」
「それは俺が何とかする!後でアイテムボックスに回収に行くから頼んだぞ!カルバラは残りのエルフさんたちの避難を続けてくれ」
「わかった!」
「了解した!」
そういうとエルとカルバラはそれぞれ仕事を始めた。
さて、俺は村側だ。
家と家はそれなりに広いとはいえ、茅葺っぽいあの屋根では飛び火による延焼の危険がある。
それをまずは防ごう。
俺は家に手を当てる。
生き物が中にいないならできると思うが。
俺はインベントリの中に家を収めた。
よしっ!成功だ!
村側で延焼の危険がありそうな家はあとは三軒か。
全部が終わったら戻すとして今は許してもらう。
俺は四軒の家を次々にインベントリに収める。
意外と何とかなるもんだ。
流石に柵とか付属品みたいなものは対象外みたいだが。
にしても上限知らずだな。俺のインベントリ。
後はエルが切っていった木々だ。
俺はそのすべてをインベントリに収めていく。
「よっしゃ!これで最悪の事態は避けられる!」
「なるほど、考えたな。確かに、燃えるものが無ければ延焼もないか」
「でん……、エル。こっちも終わった!」
カルバラの方も終わったらしい。
あぁ、もう疲れた。
そう思った矢先。
ドンッ!
と、燃えている家屋が吹き飛んだ。
Buuuhyalalalalaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!
炎の中から現れたのは普通のオークより幾分かデカいオーク。
武器もこん棒ではなく石を削った石器のような巨大な剣。
あれは……オークの上位個体だろうか。
「!?リュウ!カルバラ!構えろ!」
エルの合図で俺達は武器を構える。
……が。
巨大なオークはそのまま倒れ込んだ。
……なんだ。
最後のあがきだったのか。
今度こそ、終わったかな。
俺はそう思いながら、燃え盛る家屋を眺めるのだった。




