3-9.二日目、三日目、そしてオリーヴィアへ
二日目。
朝食は焼肉を自重。
流石に俺でも朝から焼肉にするには多少の準備がいる。
今回は黒パンを美味しくいただくためにスープを作った。
夜の見張り番は俺の番を長くしてもらった。
代わりに俺の番は最後に回してもらった。
俺の感覚だけど20時30分頃に寝て2時間30分、2時間30分でカルバラ、エル。
残りの日出までが俺、って感じ。
俺は御者ができないので結構長めに。
道中寝れるからね。
いつもの感じなら多分6時過ぎくらい。
火の番をしながら作ったのでそれなりに長い時間煮込まれている。
材料は玉ねぎ、にんじん、ジャガイモなどの根菜ときのこ。
玉ねぎ、にんじんはみじん切り。ジャガイモは四等分、キノコは薄切り。
それと昨日余ったモモ肉の切れ端とキャベツ。
これはヨーグルト漬けにしたままの状態。
鍋を二つ用意して一つはジャガイモをゆっくりと煮て、他の材料をすべて一つの鍋で煮る。
ジャガイモ以外を煮ている鍋に骨ごとモモ肉を入れておく。
キャベツはこの時点では入れてない。
ジャガイモが煮えるとスプーンでつぶす。
マッシャーとかブレンダーはないのでスプーンで大雑把につぶせるようになるべく軟らかく煮るところが肝だ。
で、野菜を包んでいた布を皿の上に張る。
張ると言っても現代のように輪ゴムなんて簡単に張れるようなものはないので紐でしっかり固定しないと。
つぶしたジャガイモを布の上からさらに潰す。
要は漉している。
煮込んだ骨付きモモ肉を一度取り出して肉を削ぎ落す。
うーん。少し足りないかも。
仕方ない。予定外だが、出る前に市場で買ったクロードゥラパン……兎の肉を入れておこう。
漉した芋を他の野菜を煮込んだ鍋に入れてさらに煮込む。
岩塩とハーブで味を整えたら後は煮込むだけだ。
ヨーグルトと野菜、肉と骨の旨味が染み出したポタージュ風。
うん。それなりにうまそうだ。
ポタージュなんて久々に作ったけど、幸い見張り番で時間だけはあったしな。
ちょっと味見。
……ポタージュなのに若干シチューっぽい風味。
ヨーグルトを使ってるからか?
悪くない。
焼肉の付け合わせにも……。
うーん。
たれ次第か。
逆にこれをもう少し改良して焼肉にも合うように……。
いや、言うてもポタージュ系だしな。
パンとかになら合うだろうな。
「お?もう何か作ってるのか?」
エルが声をかけて来た。
気付けばもう朝になっていた。
「あ、あぁ。まぁ昨日の残り物入れたのポタージュだけど」
「ポタージュ?聞かない名前だな?スープか?」
エルが俺の横に座って鍋の中を覗き込む。
お玉をひと回ししてスープの香りを楽しんでいた。
「なかなかうまそうなスープだ。なぁリュウ、これを普段のスープにするわけには……」
「却下。作るの結構面倒なんだぞ。それ」
「それは残念だ」
エルはそう笑うと鍋の蓋を閉めて馬車の方に移動した。
「ほら、カルバラ。朝だぞ。起きろ。リュウがうまいもの作ってくれているぞ」
そう声をかけていたから多分カルバラを起したんだろうな。
「ま、今度レシピは書いてやるよ」
2人が馬車から出てくるのを眺めながら俺はそう独りごちたのだった。
そうして昼は馬車旅の最中に携帯食。
これは硬く焼いたクッキーみたいな奴。
意外にも腹持ちは良い。
その日の夜は近隣の村の外れで野営させてもらった。
農村なので宿屋が無かったのだ。
だが、食事だけはとることができた。
村の顔役という男が夕食に招待してくれたからな。
非常に助かった。
その日の夜の番も昨日と同じ順番で休みを取った。
途中、野生のジェプールラパンの襲撃があったが単体では流石に負けない。
なんだか、アスタランテ周辺の兎より小さい気がするが。
というか、若干俺から逃げてたのはなんでだろう?
襲ってくるにしても若干及び腰だった気がするんだけど。
多分気のせいだろう。
三日目。
今日は朝から豚の肉。
昨日、新しい豚の肉と炭を顔役の男から買っておいた。
ジャイアントボアみたいな高い肉じゃなくて普通の豚の肉。
網の七輪を三人分用意した。
うん。うまいが、やっぱりしょうゆベースの焼肉のたれが欲しい。
あと、ごま。それに白米。
後は焼く道具とか、もっとちゃんとした物用意しないとなぁ。
箸は自作しているから問題ないんだけど。
やっぱりちょっと物足りないと思ってしまう。
昼はまたも携帯食。
というのも昼にいちいち火を熾しているとかなり進行が遅くなるのでサクッと食べられるものが好まれるらしい。
もちろん、休憩は取る。
馬の休憩や御者の休憩時間がとられる。
今日の携帯食は豆と小麦、ギリシャヨーグルトのような水分がないヨーグルトを混ぜ込んだ生地の間に干し肉を挟んで焼いてスティック状に切ったもの。
硬い。
だが、携帯食の中では結構うまい部類らしい。
これと小樽に詰めたピクルス。
酢ではなく、塩水につけられた野菜っぽい。
今回は蕪の漬物だったが、なんか新しい調理法なのに懐かしい味がしたと思ったら、いわゆる古漬けのような食べ物だった。
懐かしい。田舎のばあちゃんちで出て来てたなぁ。古漬け。
その日の夜は森の手前にある宿屋や小さな市場と数軒の民家がある場所の宿屋を借りた。
この場所はキャラバンや旅人が休憩するために作られた場所らしい。
市場はオリーヴィアの里の人間が取引するためにも使われている場所らしい。
へぇ。
って事はオリーヴィアの里が近いって事かな?
宿屋と言ってもこういった場所は食事は基本付かない。
もっと言えば寝床だってただベッドっぽいフレームが置いてあるだけだ。
毛布や布団は持参前提らしい。
これで一人銅貨3枚。俺たちであれば銀貨1枚にもならない。
まぁ、カルバラ曰く、これは経費になるらしいので別にいくらかかってもよかったらしい。
井戸は自由に使っていいらしい。
本当に寝床と井戸、馬を休ませるための場所って印象だ。
アスタランテでもいろいろな店を見たが、宿屋は基本、寝床・馬小屋それに追加料金で食事といった感じだった。
部屋も俺の泊っている鉄板街灯亭のように個室なんてものはなく、ただ広い部屋に衝立がいくつか置いてある感じ。
オープンスペースのネットカフェか何かのようだ。
エルはこんな環境でも寝られるのか?
と思っていたが意外にあっさり寝ていた。
おっと、そう心配しなくても、もちろん夕食のことは忘れていない。
鹿、兎、豚を食べたからな。
別の肉を用意しようと思ったが、今、手元にあるのはトカゲと蛇。
完全なゲテモノだ。
ただトカゲとか蛇って鶏肉に近いっていうよな。
兎も鳥に近い味だったし、案外普通の味かもしれない。
現代にいたときでもトカゲと蛇は食べなかったなぁ。ワニはあったけど。
しまった。試食してみればよかった。
仕方がないので別の食材を探す。
生姜、ニンニク、ニラっぽい何か。
卵があればニラ玉っぽくしたかったが残念ながらない。
となれば。やはり焼肉だろう。
兎、豚の肉を薄く切る。
生姜、ニンニク、ニラを細かく切って玉ねぎのみじん切りと合わせる。
それを軽く火で炒めて玉ねぎがあめ色になるのを待つ。
肉を玉ねぎたちを炒めたものに絡ませて鉄板で焼く。
それをパンの上に乳草として売られていたレタスのような生野菜を乗せ、肉を乗せて、軽くマスタードソースを乗せて挟み込めば……。
手軽に食べられる滋養満点フォカッチャサンドイッチの完成だ。
アスタランテのパンが平たくて助かった。
ちなみにだがハーブ入りの方が俺は好みだ。
今回は市場前のパン屋、『赤い果実屋』の物を使った。あそこのパンは使うハーブの種類を絞って特定のハーブの香りを際立たせている。そういうこだわりは好きだ。
これに昨日のポタージュ風を付けておく。
よくよく考えたらポタージュ『風』ってのもおかしな話だな。
翻訳の都合かわからないけど、ラパンって確かフランス語でウサギのこと。
ってことはここはフランスっぽい名称と考えるとポタージュはスープのことになる。
まぁ、そう深く考えることでもないか。
「ガツンと来るこの味と香り。気力がわいてくるな」
「まったくだ。リュウが作るとなんでもうまくなる」
そう褒めるな。
正直、これでも胡椒がないから不満なんだ。
四日目。
朝は軽く済ませてしまおうという事になった。
というのも、ここからオリーヴィアまではゆっくり行っても夕方まではかからない場所らしい。
なのでここは一気にオリーヴィアまで抜けてしまおう、という話になったのだ。
今から急げば昼頃にはオリーヴィアに着ける。
ゆっくりするのは向こうに着いてからでいい、そういう話になったのだ。
そうと決まれば善は急げ。
俺達は泊めてもらった村の方にお礼を言って先を急いだ。
そうして、俺の腹時計で昼過ぎごろ。
俺達は急いだこともあって思った以上に早くオリーヴィアの里に着いた。
ただし……。
里の入り口は、紅蓮の世界に包まれていた。




