3-7.依頼受注
「それで、最低でも5体前後、狩れれば狩れるほど良いのですが。狩ったオークの肉はオリーヴィアの里やギルドで買い取れるように算段をつけています」
いや、別にいいけどな。
そんな何匹も狩れないだろ。普通に考えて。
どうもこいつらは俺を過大評価している気がする。
仮に狩れたとしても俺にはインベントリがあるから分割して出せばいいしな。
「オークは良い食料になるからな。狩れば狩るほど買い取ってやる」
マジか!
つまり狩っただけボロ儲けって事か。
問題は俺にはそこまでの量は狩れないだろうなってことかな。
「まぁ、悪い条件ではないと思うぞ。ギルドマスター、一匹当たりの買取金額は?」
「一匹当たり金貨10枚。相場は金貨8枚だから損はないはずだ」
ふむ……、たしかに。
8枚と10枚じゃ大分違うな。
しっかし。オークって金貨8枚なのか。
確かジャイアントボアの骨が丸々一つでそのくらいの買い取り金額だったよな。
そう考えるといかにジャイアントボアが破格の金額だったかわかるな。
「ちなみにこれはパーティーへの支給の金額になるからな。人が増えれば頭割りになるじゃろう」
そういう事か。
まぁ、此処にいる三人で狩っても、一人三枚と少し。
別に悪い条件じゃ……。
「すみません。私は長期の依頼は遠慮させていただきます」
俺達の横から、トマスがそう反応した。
珍しい。
「なんだ?珍しいな。まさか怖気づいたわけではないだろう?トマス?」
いつもは大体エルについて来ようとするのにな。
「人が訪ねてきますので」
そう言ってトマスはエルに内緒話をするように口を近づけた。
(近いうちに、ローズ様がアスタランテにいらっしゃいます)
(ローズが?なぜだ?)
(私の祖父に会いに来るそうです。今どうやらアスタランテ支店にいるようで)
(あぁ。婚姻の儀のドレスを合わせるとか言っていたな)
(流石に知ってしまえばお迎えしないわけには参りませんから。私は四つ角のラベンダー被服店の方に向かいます)
(いつ頃来るのだ?)
(5日後と連絡を受けていますが数日のズレは考慮しています)
トマスとエルが内緒話をしているが。
どうも、俺は耳が良くなったのか、そのくらいの声でも意識すれば聞こえるようだ。
しかしローズって誰だ?
トマスって騎士団長って鑑定眼のスキルには出てたから、そのトマスが優先するって事は結構上の人なんだろうな。
「わかった。俺に文句はない。エルはどうする?」
とりあえず、俺は依頼を受けてみる。
依頼内容としては悪くないはずだ。
「そうだな。……私もついていこう。構わないな?トマス?」
「本来であれば否定したいですが……、いまさらオーク程度でどうこうなるエルではないでしょう。一つお約束を、無理はなさらないようにしてください」
「わかった。約束しよう。ギルドマスター、他の人間には声は掛けているのか?」
「いや。だが、オリーヴィアの里の現地民と協力してもらいたい。現地にもCランクの冒険者資格は多数いるからな。奴らと協力すると良い」
現地民とか。まぁ、それで大丈夫と思われているって事だよな。
というかCランクねぇ。俺よりランク高い奴らって事じゃん。
「では、決まりですね。私は先にオリーヴィアの里に戻ります。貴方達は3日後くらいからゆっくりと来てください」
そう言ってレモンさんが立ち上がる。
立ち上がるのだが。
ガッ!!!
レモンさんの足がテーブルにぶつかった。
嫌な予感がした。
予感はするがそれに対処できるような状態ではない。
「きゃっ!?」
テーブルの天板が宙を舞う。
でもってレモンさんの正面に居るのは俺。
簡単に言うと、天板が俺の方に向かってひっくり返ったのだ。
へー。
このテーブルって天板と足が分離するんだ。
重厚なつくりだったから一体型だと思ってたよ。
そう思っていると天板はもう目の前にあった。
「ぶべらっ!!っていうか、あっつぅ!!!!???」
思ったより変な声が出た。
天板と同時に上に乗っていたティーセット的な物が俺の頭から降りかかったのだ。
気まずい沈黙が流れる。
エルやトマスは自分の分を持っていたため被害なし。
主な被害はやはり俺だけのようだ。
「す、すすすす、すみません!何か吹く物を……、いや、それよりテーブルをのけないと!」
たぶん今、彼女は慌てて立て直そうとしている。
残念ながら俺の膝に立っているテーブルの天板のせいで見えない。
……見えないが。
凄く嫌な予感がする。
「きゃっ!?」
きゃっ?
おい。まさかだよな?
テーブルの天板に衝撃が走る。
天板にたぶん一人分の体重がかかる。
「ぎゃふっ」
天板の反対側から変な声が聞こえた。
いや、それよりも。
天板は俺の太ももの上に立っているので衝撃がダイレクトに伝わってくる。
ズルズルと天板の向こうで下がっている感じがする。
いや、それはいいんだけど。
レモンさんは多分天板の端をもってるな。これは。
俺の太ももへの痛みが増す。
「だ、大丈夫か?リュウ?」
「大丈夫じゃない。早く除けてくれ」
俺は太ももの痛みを耐えながら答えた。
天板が取り除かれると、レモンさんは俺の足の間にもたれかかれるようにぐったりと倒れ込んだ。
いや、男としてはうれしいシチュエーションだけれども。
ちょうど顔……、というか顎が股間のあたりに。
「ひっ!」
それに気づいたレモンさんが俺を突き飛ばす。
「ぐふっ!」
レモンさんの突いた手が俺の腹にあたる。
幸い、あまり力がないのか、そこまで痛くはない。
「す、すみません!!」
慌ててレモンさんがこちらに来ようとする。
「ちょ、ストップ!いったんストップ!」
俺は慌ててレモンさんを止める。
なんだか彼女は動けば動くほど被害を出すタイプな気がする。
今のうちに止めておくのが吉だと、俺の直感が告げている。
「……すみません」
ふぅ。
とりあえず、これで一旦は大丈夫だろう。
に、しても改めて見ると、彼女は青い髪に青い瞳をしているんだな。青というか水色。
俺の見たエルフといえば、魔道具屋の店長か冒険者にたまに見る人たち、あとは町で数人見かけはしたが、ほとんどが金髪に近い色か緑っぽい色。
ここまで水色っぽい感じは初めてだな。
「はぁ……。せっかくクールな感じで行こうとしてたのに……」
レモンさんが顔を覆って伏せる。
こいつ、あれだな。たぶん、ドジっ子って奴だ。
魔道具製作の天才とか言って居た気がするが、こんなので魔道具って作れるのだろうか?
「と、とりあえず。私は先に出立しますので!リュウ様はあとからごゆっくりいらしてください」
そう言ってレモンさんはギルドマスターの部屋を後にした。
俺は無言でギルドマスターの方を見る。
「……すまん。奴もわざとやっているわけではないらしいのだが」
いや、まぁ。いいけどさ。
「とりあえず三日後に馬車を手配しておく。リュウとエルはそれに乗ってオリーヴィアの里に向かってくれ。馬車の手配の料金はこちらで何とかしておく。オリーヴィアまでは遅くとも1週間程度の道のりだ。ま、旅行気分で頑張ってくれ」
そうギルドマスターがこの場を締めた。
えぇ……。さっきのはなかったことになってしまった。
しかし、馬車で片道1週間か。
って事は往復で2週間。
余裕を見て3週間、いや1ヶ月見ておけばいいかな。
それに合わせて準備しておかないとな。
少し勿体ない気がするが、宿屋も金を払って鉄板街灯亭の個室を確保しておこう。
帰ってきたらゆっくり安心できるところで寝たいし。
はぁ……。早まったかなぁ。
「まぁ、狩ったオークはギルドに卸してもらえればこっちとしては問題ない。あ、肉以外も全部だぞ。忘れるな」
「全部?」
「肉、皮、骨とにかく丸々だ」
「へぇ。丸々。まぁ、でも全部って運べないよな」
実は運べるんだが。
「1週間後には運搬人を送れるように手配しておく。すまんがまかせた」
「うーん。分ったよ。ところで、オークの皮なんて何に使うんだ?」
「?何言ってるんだ?お前の座っている『ソレ』もオークの皮だぞ?」
えっ。
衝撃の発言。
俺の座っている椅子の手触りの良い革はオークだったようだ。
3日後、俺とエル、そしてギルドが手配してくれたカルバラが御者として同行してくれ、俺達はオリーヴィアの里へと向かうことになったのであった。




