3-6.出張依頼
「よっこいしょっと」
決め顔で自己紹介したギルドマスターが座りなおす。
せっかく、ちょっとカッコイイと思ったのに。
なんかいきなり普通のおっさんになったな。
「さて、本題だが。お前たちにはちと依頼をしてもらいたくてな」
ギルドマスター、ドラムレットが一枚の羊皮紙を出してくる。
どうやら羊皮紙には依頼が書かれているようだ。
エルがそれを受け取り依頼票を流し読みする。
「ふむ……。リュウ、どうやら君宛てのようだ」
そう言ってエルが羊皮紙をこちらに寄こしてきた。
「俺宛て?」
いや、意味わからん。
これってあれだろ。
指名依頼って奴。
依頼主が受ける冒険者を指名して依頼を出すって奴。
確か冒険者になってすぐくらいに聞いた気がする。
でも、あれだ。
そう言うのって上位の冒険者がほとんどで、俺みたいな駆け出しには無縁なはずだけど。
俺は受け取った依頼票に目を落とした。
なになに?
依頼目標:オリーヴィアの里周辺のオークの討伐。
依頼対象:アスタランテの冒険者、リュウおよびそのパーティーメンバー。
報酬条件:里の防衛、およびオークの殲滅。オークロードなど上位種族は未確認。群れの規模は不明。
うん。
なに?これ。
流石に情報少なすぎじゃない?
これじゃ、俺とエルたちに依頼を出したこととオークを倒せって事、後はオリーヴィアって名前の町か村か知らんけど、そこでやれって事だよな。
いやまて、それ以前に。
「なんでこれを俺に?」
俺はドラムレットの方をみて聞いてみる。
「なぜって、そりゃお前さん」
ドラムレットが後ろに居たモミジさんから受け取った書類を机の上に投げて寄こした。
その書類の上をトントンと太い親指で叩く。
「冒険者登録していない状態でBランクの魔物の討伐。それも被害をほとんど出さなかった。その後、薬草や兎狩りをしちゃあいるが……、おめぇ、まだ出してないもんあるよな?」
ドラムレットが鋭い眼光をのぞかせる。
やべぇ。
町のチンピラや不良なんて目じゃない。
視線だけでそこら辺の輩なんて殺せそうなほどの殺気だ。
これが元Aランク。
そう呼ばれるには理由があったって事か。
……にしても、これ多分あれだよな?
ゴリラのことバレてるな。
どこでバレたんだろうか?誰にも言った記憶はないんだけど。
「……まぁ、良い。その事は後回しだ。実力は十分足ると評価した。で、どうだ?この指名依頼、受けるか?」
……正直な話、遠慮したい。
多分、難易度高いとかそんな気配がする。
「ちなみに、断ってもいいが冒険者としての評価は下がるぞ」
きたねぇ!?このおっさん!!
絶対わざと依頼を見せた後に言いやがったな!
まぁ、冒険者としての評価は実際はどうでもいいけど、これで生計を立ててる以上、どんな悪影響があるか分からない。
と、なればマイナス評価は避けたいのは人なら誰でも思う事だろう。
「……わかったよ。受けよう。詳細を教えてくれ」
俺は降参というように両手を広げてあげる。
「そうか。英断、感謝するぞ」
そう言った頃にモミジさんが机にお茶の入ったコップと小皿に盛られた果物を持ってきてくれた。
「どうぞ。ボムボムポムです」
……、ボムボムポム?
え、何?その不思議な名前の果物は。
プリン頭のデフォルメされた犬だったり、有名RPGのピンクの浮遊物体のモンスターだったりするのか?
パッと差し出された果物は見た目だけならラ・フランス、いわゆる洋ナシのような感じ。
ただフォークを刺してみると柔らかい。
この柔らかさは……熟した桃かイチジクのような。
とりあえず一口。
甘い。めちゃくちゃ甘い。
悪くはないけど、もう少し固い方が俺の好み。
焼肉のたれへの加工も幅が広がるし。
完熟してしまうと甘さが際立っちゃうから配合が難しくなるんだよな。
俺達の世界でも季節や気温、熟し具合によっては調味料や配合をその都度変えなきゃ味が安定しないんだよな。
そして、お茶の方は……。
あ、これ緑茶ですわ。
高級そうなカップに入ってるけど、まごうことなき緑茶。
何だか西洋風の文化に似合わぬ和風。
が、心を落ち着けるには非常に良き。
「いかがです?貴族街に流れているものなのでかなり良い品質のお茶ですが」
「うん。これは良い。なかなかの茶葉だな。今度卸している商会を教えてくれ」
モミジさんの言葉にエルがそう答えた。
満足しているようだ。
恐らく貴族っぽい男が緑茶って。合わねぇなぁ。
「それで、今回の依頼の詳細ですが」
若干まったりし始めていた俺たちにレモンさんが語り始める。
「依頼の場所はオリーヴィアの里です。最近、里の近辺の街道沿いや森の中でオークが頻繁に確認されるようになったため、里だけで対処しきれなくなる前に大きな町に依頼しに来たという訳です」
ほう。オークねぇ。
そういえば夜に運搬を見たきりだな。
「オークか。アレは単体ではそこまでの脅威ではないだろう?多少数が増えたとしても外の応援を求めるほどか?私たちがここに来たときも3匹ほど遭遇したがすぐに討伐したぞ?」
「我々の方でも個体選別の為に見つけ次第、マーカーをしているのですが……」
「しているのだが?」
「……総数が、数えられるだけで100を超え始めました」
それを聞いてエルがガタッと席を立つ。
「馬鹿な!?どういうことだ!?そんな数があの辺りに繁殖しているというのか?」
驚いたエルに対して、ドラムレットが答える。
「オリーヴィアだけではない」
「……どういうことだ?」
「国内だけでわかっているだけでもイクストゥロン、コルマール、ルヴァロア、デマック、スルート。国外だったら南の方や西の方。あっちでもこっちでもオークの大量繁殖が確認されている」
それを聞いたエルが口に手を当てて考え込む。
「トマス、報告が上がっていたか?」
「ひと月と半分前、我々が王都を出立する前まではそのような報告はギルドから上がってきていなかったはずですが」
「そいつは多分、コレのせいだ」
ドラムレットが新しい資料を投げて寄こす。
そこには『ギルドの馬車への襲撃事件の調査報告』と題された資料が整理されていた。
「どこの馬鹿か知らんが、わざわざギルドの、それもご丁寧に月報の写しを積んだ馬車だけを襲撃していやがる。この3件の襲撃は、中身はごっそり持っていかれているが、この月報の伝達の遅れが報告が上がっていない原因とみて間違いないだろう」
冒険者ギルドの馬車への襲撃だと?
そんなことする奴が居るのか?
「うちでも軽く先行調査が入ったが……、担当していた『月下の剣』の斥候が深手を負わされた相手だ。そう無理も出来ん」
「なるほど、そういう事だったか……」
いや、そっちで勝手に納得しないでほしい。
俺はわからんのだが。
「そうか、リュウは知らないか。『月下の剣』とはアスタランテの中でもナンバー1と言われている冒険者パーティーでな。その彼らの後方支援を担当していたものがその書類を運んでいる最中に襲撃され負傷した、という事らしい」
へぇ。
まぁ、よくわからんが。
ナンバーワンと言われてるくらいだから強いんだろうけど、後方支援の一人だよな?どっちにしろ、俺に相手の実力は計れないだろうし。
というかそんなパーティーがいるならそいつらに頼んだ方が良いのでは?
俺よりよっぽど適任だろ?
「おかげさまで人手不足でな」
「おかげさまで?」
どういうことだ?
「お前さん、ランプにセブルスの剣を返したんだろう?アレのおかげで今はセブルスの遺体捜索に人手を割かれていてな」
あー、そういや一番最初にあったな。
捜索隊に参加してくれって話。
あの時はロスが無理言うなって拒否してくれたんだっけ。
そのあと異常だとかなんとか言われたな。
ってことは、この依頼が俺のところに来たのは……。
俺の行動の結果かぁ……はぁ。
余計断れなくなったじゃないか。




