3-5.ギルドマスターとサブマスター
ロスに呼び出しの手紙をもらった俺は翌日、ギルドの扉を叩いた。
元々翌日の呼び出し案件だから問題なし。
「すまない、遅れたか?」
後ろからエルとトマスがやってくる。
「うんや。というかそもそも時間指定されてないし」
俺のところにはロスが来たけど、二人はどうなんだろうな。
貴族っぽいし、専用の伝達係とか居そうなもんだけど。
「リュウ、エル殿、それにトマス殿もお待ちしていました」
ギルドの二階からロスが下りてくる。
なんというか、いつにもましてくたびれている気が……。
眼鏡はずれているし、シャツもズボンから出てるぞ。
ちょっとみっともない。
「どうぞ、ギルドマスターたちがお待ちです。二階へどうぞ。ローヌ、すみませんがお茶を……、7人分ギルドマスターの執務室にお願いします」
「はいはい。承知しました。文官秘書長殿」
ん?
「文官秘書長?」
「あぁ、この度、拝命いたし……いえ、拝命させられまして。おかげさまで私も立派な役職持ちと相成りました」
へぇ。出世か。
現代だったらなんだかすごそうな役職名だけど。
文官秘書長って。
「ロス。出世おめでとう」
「ありがとうございます。リュウ。まぁ、出世と言ってもいまいちよくわかってないんですが」
よくわかってない?
どういうことだ?
そう考えていた俺の後ろからエルが口を挟んでくる。
「そうだった。ロス、今後とも励め」
「エル、その言い方はちょっと。……ごほん。まぁ、経緯はともかく、出世は出世です。おめでとうございます。ロス」
「ははは。ありがとうございます。二人とも」
乾いた笑いと共にロスが答える。
やっぱりこいつ、実は隠す気がないだろ。
それとも天然なのか?
「それよりも、どうぞこちらへ」
ロスは俺たちを階段の方へ案内する。
俺達は促されるまま、階段を上る。
少し重厚な階段がぎしぎしと音を立てるが、別段傷んでいる様子もないので、これはわざと鳴らすような作りになっているんだろうな。
……そういえばあの時のメイドは階段を使わず直接飛んで二階に乗り移っていたな。
ギルドの中であのメイドを見かけたのは昨日を除けばあの一日だけだったし。
3週間もギルドに通っているのに一度も見たことなかったな。
階段を上りきると下のエントランスを見下ろせる廊下にたどり着く。
すぐにある扉をくぐるとさらに内廊下。
そのすぐ右手にある部屋に通された。
「ギルドマスター専用の応接室です。すぐにギルドマスターが来ますので少々お待ちください」
そう通された俺とエル、トマスは用意された席に座る。
後ろにはロスが立って控えているが。
うっわ。
めっちゃ肌触り良い椅子だな。これ。
何の皮だろ?
適度な弾力と柔らかさが同居してる。
凄いな。高級イスって言うのはこういうのを言うのかな。
「すまん。待たせたな」
のんびりと座っていると俺達が入ってきた扉とは反対にある扉から一人の男が出て来た。
ムッキムキの筋肉質の低身長の男。
こいつがギルドマスターだろう。
先日、ロスに上に来るよう指示をしていた男だ。
だがその服装は昨日見たラフなものではなく、少し……その、なんというか。
……豪華だ。
まるで貴族にでも会うような……。
俺は思わずエルの方を見た。
「うん?なんだ?」
「いや、ごめんなんでもない」
俺はちょっとばつが悪くなってエルから目をそらした。
言えない。
絶対お前のせいだろ、とか。
微妙にギルドマスターの目線が泳いでるし。
「突然呼び出して悪いな。これでも忙しい身で、あまり時間が取れんのでな。すまんがそのまま聞いてくれ」
そこまで言うと、今度は俺たちの入ってきた扉の方から、ノック音が聞こえローヌさんの声が聞こえた。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
そう言ってローヌさんが部屋にお茶を持ってきてくれた。
「ローヌ、お前さん。せめてノックの返事を待ってから……」
「失礼しました。セクハラオヤジ」
「ぐふっ!?」
ローヌさんがナチュラルに毒を吐く。
あ、ギルドマスターがダメージ受けてる。
なんだかずいぶんダメージがでかそうだけど大丈夫か?
「ローヌ、せめて来客中くらいはギルドマスターを立ててあげてください」
「……ロスさんがそうおっしゃるなら」
意外とあっさり引いたな、ローヌさん。
「あとでマッシュケーキ一つで」
「……わかりました。東辻の蜂蜜亭ですね」
って買収かよ!?
意外にもしたたかだな。ローヌさん。
「うぉっほん!では本題に入るぞ。入ってこい」
そう、ギルドマスターが言うと新たな人物が3人入ってくる。
「紹介しよう。と言っても内2人は紹介する必要はないだろうが。そっちのメイド姿の女がうちのサブマスター、モミジだ」
「皆さま。改めましてよろしくお願いいたします。ご主人様の『愛奴隷』モミジと申します」
メイドさんが恭しく礼をする。
あぁ、やっぱりあの時のメイドさんか。
サブマスターって。このギルドでナンバー2って事?
というか、『愛奴隷』なんて単語に誰も反応してない辺り、みんなもう慣れっこなんだろうな。
「だから、それをやめろというに……。で、そっちの優男がもう一人のサブマスター、カーティレイジだ」
「カーティレイジです。気軽にカーティとでも呼んでください。あと、新しい薬草や薬を見かけたらギルド窓口ではなく私に直接売り込んできてください。報酬は弾みます」
もう一人の片眼鏡をかけた男はそう言い放った。
え、そうなん?ギルドのサブマスターって買い取りとかもしてるの?
「こら!カーティ!堂々と儂の前で不正な買収をするでないわ!」
不正だった!
アブねぇ!?信じるところだった。
「まぁ、こんな奴らだが、カーティは元Bランク、モミジも登録こそないもののBランク程度の実力はある。そこらの冒険者では歯が立たんから手を出そうと思うな」
へぇ。すげえな。ギルド。
Bランクって言えば、上から二番目。エルと同じランクだ。特にモミジの方は俺よりも年下に見えるのにな。才能ってのはすごいもんだ。
「ごほん。さて、最後の一人だが……」
「オリーヴィアの里で学者をしております。レモン・ロア・ノセルウェート・ウェル・オリーヴィアと申します」
もう一人、横に控えていたエルフの女性がそうあいさつをした。
相変わらず、エルフは長い名前だ。
何だっけ?本人の名前・中間詞・母の名前・選別名・住むところの名前、だっけ?
だからこの人の場合はオリーヴィアに住むノセルウェートさんの娘のレモンさん、になる。選別名についてはよくわからなかった。まぁ、エルフは普通に一番最初の名前だけで呼ばれることが多いらしいので問題ない。
「レモン女史は魔法使いでもあるが、魔道具製作の天才と呼ばれていてな。若いながらも、魔道具の発展に大いに貢献され……」
「ちょっ。ギルドマスター、ほめ過ぎです。その辺で……」
ギルドマスターが興奮気味に語り出そうとするところをレモンさんがインターセプトした。
ギルドマスター、えらく興奮しそうな感じだったが。
ドワーフってやっぱり製作とかそういった単語に弱いのだろうか。
「それよりも、お話を」
「おっと。そうであったっと、その前に……」
ギルドマスターが立ちあがり、全員の顔が見えるようにし、自分の胸のあたりを親指で指し示す。
「改めて自己紹介させてもらおう!儂がこのギルドのギルドマスター。元Aランク『紅玉』のメンバー、タンクのドラムレットじゃ」
そう高らかに宣言したのであった。




