1-3.初めての魔物
「まいった。実にまいった」
思わずそう言いながら空を仰いでしまった。
まさか町に入るのに金が要るとは。
門番に門前払いされてから体感で2時間ほど。
流石にそろそろ腹が減って来た。
とはいえ、宿もなければ食材もない。
ついでに焼肉用の鉄板もない。
改めて門番の男に確認を取ったところ、町の外でキャンプをする分には問題ないとのことだったので、とりあえずは森の入り口付近まで戻って来た。
この辺りは開けていて川があるので、キャンプにはちょうど良い。
森の中や橋の下なら雨宿りにもなるだろう。
とりあえず、一旦この場所で情報を整理して今後の方針を決定することにしよう。
俺はそう考えながら、川べりに横になった。
この辺りは土手が川に向かって下がっているので寝そべったら斜めになるので昼寝にはちょうどよさそうだ。
とりあえず、キャンプするにしたって、火と屋根がいるよなぁ。
屋根は……、すぐには用意できないよなぁ。
寝そべったまま俺は森の方を見上げる。
せめて大きな布があれば助かるが。
……ん?
あれは?
森の入り口の近くに馬車の残骸が見える。
比較的大きな幌馬車だ。
俺は近づいて様子を見てみる。
幌の部分はよほど大きな力が加わったのか側面が荷台ごと破壊されていた。
更に、車輪の軸が割れてしまっているので、荷台としては使えそうにない。
壊れたから放棄されたのかな?
こんな森の入り口で?
まぁ、あの幌の布は使えるかな。
幌の布って結構丈夫なやつをつかってあるはずだし。
一応、門番にもう一度確認を取ってみるか。
俺は一度、門に戻って門番に声をかけた。
都合、本日三回目。
「三顧の礼」でも、「三度目の正直」でもいいから何かの間違いで町に入れてくれないだろうか。
……って町に入っても、金がないからダメか。
「お?兄ちゃん、今度はどうした?」
門番がニヤニヤと笑いながら声をかけてくる。
「あ、ども」
もうすっかり、常連のそれだ。
俺は森のそばにある幌馬車について出来るだけ詳細に彼に伝えた。
こういう通報って語弊があるとよくないしな。
「あー、そりゃ、多分何か魔物に襲われたな。町の警備隊には報告は上がってないが。死体や人が死んだ形跡はあったか?あとは馬車に紋章とかの標章が付いていたか?」
「いや、馬車だけだったと思います。ただ、そんなにしっかり見たわけじゃないからちょっと自信ないですけど。検分されるならご案内しますが」
「そうだな。一応確認しておくか。おい、誰か!巡回班!」
彼は色々すぐに手配してくれた。
仕事のできる男だ。
検分は体感僅か30分程度で終わった。
巡回班、おそらく警邏担当だろうが、その人と門番の人がテキパキと作業し、魔物に襲われたが人的被害はなかったのだろう、という結果に至った。
魔物……。
魔物がいるのか。
何となく、テンプレートとしてそうだろうな、とは思っていたが、この世界はゲームのような中世ヨーロッパ系の魔物のいる世界なのだろう。
という事は魔法も存在するのだろうか。
「あるぞー。火に水、風に土、光に闇、あとは特殊な属性ってのが何個か」
「それはどうやったら使えるんですか?」
「どうやったらってそりゃ、魔力を扱えるように訓練して、魔法の勉強をしてだな……」
なんだか難しそうな話だ。
「勉強はどこでできるんですか?」
「一番手っ取り早いのは学園やギルドだな。後は使える魔法使いに弟子入りするとかだな」
……町に入れない俺には縁遠い話だった。
「話は変わりますけど、その馬車ってどうされるんですか?」
「ん?まぁ、これはこのまま放棄だな。というか、俺達じゃこれ以上は手を出せんからな。後は領主様や冒険者たちの仕事になるだろうな」
「へー。領主様の」
冒険者もいるみたいだし、ほとんどゲームや漫画みたいな世界で確定かな。
にしても、あの破壊具合を見ても彼らは全然動揺していない。
もしかして、あれぐらい破壊されるのが当たり前な世界なんだろうか。
「ちなみに、お前さんは発見者だから、所有権利を主張できるぞ。これだけ破壊されていたらまともに使えないだろうし、火を起こす薪くらいにはなるんじゃないか?」
おっと。
思わぬ援護射撃が。
門番がニヤニヤしている。こりゃ、俺が言いたいこと、わかってた感じかな。
「なるほど、じゃぁ、ありがたく使わせていただきます」
「あぁ、すまんな。これくらいしかしてやれなくて。今度、情報料だけは支払いしに来てやるよ」
「ははは、楽しみにしています」
なんと、思わず初収入ゲット(見込み)である。
三度目の正直効果、すごい。
俺は早速、幌馬車の解体を始める。
幸いにも、木のすぐ裏にあるため、大きく移動させなくてもそのまま雨よけとして利用できそうだ。
胴体部分の箱はそのまま地面に据えて床として利用する。
幌の部分を全部剥いでしまおう。
幌の骨格の部分はそのまま保持しておく。
そのまま屋根として利用してもよかったのだが、せっかくなので広々使ってキャンプ感を出そう。
幌の部分を触ってみると黄色い粉のようなものが手に付く。
恐らく防水加工の痕だろう。
簡単な油か蝋のようなものを塗っているのかもしれない。
足を木材にかけて布の裂け目から思いっきり引っ張るとバリバリと硬化した布特有の音を立てて布が裂け、黄色い粉のような物が辺りに飛び散る。
何とも頼りない音だが、数日過ごす分にはまだ持つだろう。
馬車の中に劣化しているもののロープがあるし。
雨で火が消えない様にしておこう。
壁がないから換気の心配は必要ないだろう。
台車の部分は横の片面が完全に破壊されているが、寝る時だけ使用するので別段問題ない。寝る時に風が吹き込まないだけ良いだろう。
そうなってくると布団が欲しくなってくるが今は我慢。
車輪や軸の部分は燃料として使う。
もうボロボロだしな。左側の車輪は何とか再利用できるか?
とはいえ、どう利用するかはパッとは思いつかないな。
俺はロープを身長より高い位置に括る。
火で燃えないようにするためにそれなりに高さがいるだろう。
念のため、一番外側に近い部分に焚火を用意するつもりだ。
後は種火だが。
ライターもチャッカマンもある。
ガスがいつまで持つかだが、さっき火魔法がどうとか言っていたから、いずれは覚えてみたい気はするけども、今はできないしな。
幸いにも木の葉や細い木の枝はいくらでもあるし。どうとでもなるだろう。
とりあえず、端切れになってどうしようもなくなった幌の布を巻いた枝にチャッカマンで火をつけてみると難なくついたので軽く組んだ枝の中に入れてみると、しばらくして普通についた。
これで付けるのに何時間もかかったらどうしようかと思ったが、とりあえずは一安心。
これほど火が付きやすいという事は、やはり先ほどの黄色い粉は油か何かが酸化したものだったのだろう。
「さて、後はこれからどうするかだけど」
流石に今日は疲れたな。
心地いい疲れだけど。
とりあえず、今日の寝床は確保できた。
出来れば毛布か何かが欲しかったところだけど、幌の布は全部使っちゃったしな。
さすがにこれからじゃ何もできないしな。いったんこれで良しとするか。
俺は幌馬車の箱の上に寝そべる。
放置された木材特有の湿気の匂いが若干気にはなるが、地面に寝るよりはましだ。
運よく、この馬車を見つけられたが、見つけていなかったら青空の元で野宿する目に合っていた。
とりあえず……、今は。この幸運に感謝、する、べきだろう……。
ぐぅ。
まだ明るいというのに、俺の意識はあっという間に闇の底へと落ちて行った。
PYGHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!
突然の大きな音が俺の耳を劈く。
その音に驚いて飛び起きてしまった。
「な、にゃに、なん、なっ!?」
思わず、文字には起こせないような変な声が出た。
一体何の音だ!?
飛び上がった俺の目の前には……。
巨大な猪が赤い瞳を爛々と光らせていた。




