1-2.初めての街
はぁ、はぁ、はぁ。
「ここまで……、はぁ、くれば……。はぁ、大丈、夫、……だろ」
息を整えることに少し集中する。
結構走った気がするぞ。まったく。
体感だと一時間近く走っていた気がする。
……いや、言い過ぎか。俺にそんな体力はないのはわかってるし。
若干、木々に隙間ができて視界が開けて来たから、僅かながらでも出口に近づいてきたと思いたい。
大体こういうのは、人里に近い方が人の手が入って整理されているもんだ。
その証拠にこの辺の木は枝打ちされた痕がある。
ってことはこの辺には人がいるって事だ。
さっきみたいな大きな音もしないし、この辺を探索するのも悪くは……。
PGYHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
うわっ!?
突然森の方から聞こえて来た声に俺は思わず後ずさりをする。
ビックリするわ!突然!
なんだよいきなり。
って、うわっつ!?
俺は「なにか」に躓き、尻餅をついた。
いててっ。
なんだ?一体?
木の根っこにでも躓いたのか?
俺は何に躓いたか、改めて確認してみた。
するとそこには。
「げっ!?」
乾燥し、黒く変色しているが人とわかるソレ。
窪んだ眼球のあったであろう場所から覗かれるような漆黒が見え、より一層、恐怖心が増す。
死体。それも人間の。
皮の鎧だったであろう何かを身につけ、白くカビが生えた服や恐らくカバンであったであろうモノ。
鎧は大きく引き裂かれ、『はらわた』があったであろう場所は何かに食い散らかされていた。
幸いなのはもう結構時間が経過した後なのか、あまり匂いがしないことだ。
……正直、原形をとどめていなくて助かった。
もし、もっとソレとわかる状態であれば、確実に吐いている自信がある。
俺は恐る恐る、ソレに近寄ってみる。
何か身分証みたいなものはあるのか?
一応、胸があったであろう辺りやズボンのポケットを探ってみる。
カバンを探ってみてもよかったが、表面が白いカビだらけだったから触るのに躊躇したのでやめておいた。
久々に見たよ。綿みたいになったカビ。
うーん。身分証みたいなものは無し。
お?腰に下げてる大型のナイフはまだ使えるっぽい。
なんか柄もまだ使えそうだな。
最悪、布か繊維をまけばいいか。
それにしても、ずいぶん凝った彫り込みがしてあるな。
えっと、これは何かの紋章か?
まぁ、気にするほどのものじゃないか。
他に使えそうなものは……。
目に留まったのは少し離れたところに刺さっている剣。
剣の種類には明るくないが、両刃のRPGとかに出てきそうな西洋っぽい剣だ。
少し短い気もするが。
ただし……。
「うーん。これ使えるのか?」
切っ先の部分が折れてしまっている。
これって何かが当たって切っ先が飛んで行ったのではなかろうか。
少し周りを見回してみるが、それらしいものは見つけられなかった。
だが、あんな動物がいる以上、何もないよりはましだろう。
これもお借りしよう。
にしても、改めて見てみると、あちこち焼け焦げているし、もう古くなっているが小さな枝や茂みは不自然につぶされていたり折れ曲がったりしている。
……これってやっぱり戦闘の痕なのだろうか?
となると、この死体はこの戦闘で死んだものなのだろうか。
出来れば、苦しみなく死んでいった方だと願いたい。
俺はそう願いながら手を合わせる。
何も道具がないので埋葬してやることはできないが、せめて冥福を祈っておこう。
……残った道具は、ありがたく使わせていただきます。ありがとう。そしてごめんなさい。もしまた出会うことがあれば必ず恩返しします。
そうして俺は、背後のなるべく明るい方へ向けて歩き始めたのだった。
……そうして、体感3時間ほど。
いや、なんだここ。
行けども行けども森ばっかりじゃねぇか。
もしかして俺、一生この森で生活しなきゃいけないんじゃなかろうか。
念のため、木の幹に手に入れた剣で一文字の傷をつけながら歩いている。
最悪、さっきの死体の場所に戻れるようにだが。
刃先がないので本当に傷つける程度だ。
そんな感じで歩いているので結構進みは遅いだろうが、それでもそれなりに歩いてる気がするんだけどな。
俺は空を見上げる。
だんだんと木の葉より空の範囲が広くなってきた気がする。
それに、風が抜けるようになってきた。
木の密度が下がって来た証拠だ。
ってあれ?この音は……?
水の音?あ、違う。川の音か!
俺は音のする方に走る。
ただし、木に傷を入れることは忘れない。
これを忘れると、最悪迷子になる。
焦っていても冷静に、確実に。
作業員の鉄則だ。
これを怠ると、けがや失敗のもとになる。
今、失敗するともれなくさっきの死体コースだ。
申し訳ないが、俺は死にたくない。
お?やっぱり、だんだん開けて来た。
これは出口が近いぞ!
俺は光に向けて速度を上げる。
そうして、すぐに茂みを抜けた。
「いぃぃぃぃぃよっしゃぁぁぁぁぁぁ!抜けたああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
思わず両手を天に掲げる。
こんな達成感は生まれて初めてだ。
まさか森を抜けるのがこんなに苦労するとは思わなかった。
この剣とか、ナイフとか意外と重いし。
走り回ったし歩き回ったから、大分疲れたなぁ。
今なら爆睡できる気がする。
お?
あっちの方になんか見えるな?壁?塀か?
あ、ひょっとして、町か!!
ってことは人がいる!
俺は疲れを忘れて走り出した。
あそこまで行ければ休めるだろうし、あともうひと頑張りだ!
「こうして改めて近くで見るとでかい壁だなぁ」
俺は、壁のそばまで来てみた。
その様相はザ・中世の街の門といった感じだ。
まさにRPGの街って感じだな。
「おい!そこのお前!」
俺が町の門を見上げていると、誰かが声をかけて来た。
そちらを見ると、どうやら彼はこの門の門番らしく、金属の鎧や槍を持っていた。
さっき見かけた剣に比べるとずいぶん上等な奴だ。
まぁ、アレはずいぶん長い事放置されてたみたいだし。元の品質は分からないよな。
ってしまった。
俺、この国の言葉って、分からないぞ!?
「おい?大丈夫か?言葉分るか?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
わかる。わかるぞ!……え、なんで?
「そうか?さっきから呆けてるようだから少し心配なんだが」
「い、いや。すまない。実はちょっと混乱していて。すまないけど、宿屋まで案内してほしいんだが」
「宿屋?なんだ。旅人か。ここは、アスタランテの町だ。フィルフィリア銀貨はあるか?入市税は銀貨一枚だが」
フィ、フィルフィリア銀貨?
そんなものは持ってないぞ。
ヤバいな。
えっと、財布財布……。
やっぱり日本円しか入ってないよな。ひょっとしたらって思ったんだけど。
「えっと、これじゃだめだよな?多分?」
俺は500円を取り出して見せてみる。
それを兵士は覗き込んでみてくる。
「なんだそりゃ?ずいぶんと精巧な柄だな……。だけど、こりゃ金でも銀でもないな……?どこの貨幣かわかるか?」
「えっと、日本円?」
素材はちょっとわからない。
「日本円?聞いたことないな?すまない、換金率がわからんから通してやるわけにはいかんな」
まぁ、そうだよなぁ。
正直、銀貨がどれくらいの価値があるのか分からないし。
「すまない。何とかしてやりたいのはやまやまだが、さすがに規則を破るわけにはいかんくてな。すまんが今日のところはお引き取り願えないか?」
おうふ。
そりゃそうか。
何の金かもわかんないわけだし。
少し粘ってみるけど、当然ダメだった。
だが、この人たちも規則通りに仕事をこなしているだけだろう。
俺がわがままを言うのも迷惑がかかりそうで気が引ける。
……仕方ない。
屋根のあるところで寝たかったけど、今日のところは野宿で我慢しよう。
入市税の分は、何か稼ぐ手段を考えよう。
出来れば。明日は屋根の下で寝れればいいなぁ……。
俺はそう思いながら、とぼとぼと門の前を去っていくのであった。
「せめてわかる硬貨だったら、両替もしてやれるんだが。すまんなぁ」
そんな兵士の声が背後に聞こえたが、そんなことを気に留める余裕も正直、なかった。




