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異世界焼肉道  作者: グッチ
3.苦悩を突き抜けて、焼肉に至れ
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3-3.懐妊祝い

「ほい、全部で琥珀貨1枚で良いよ」

「じゃぁ、これで」

「たしかに、まいど!お兄さん!」


 俺はおつりと商品を受け取って懐に仕舞う。

 金貨なんかは全部インベントリの中に袋で入れているので、別に財布を分けておく必要はないのだが、気分の問題で分けている。

 今回買ったものは食料品がいくつか。


 からし菜の種をブッシェルで3つ。

 ヨーグルトを2壺。

 兎の肉をいくつか。

 乾燥させた唐辛子のような野菜やきのこに古いパン。

 ニンニク、ネギ、生姜辺りもあった。

 玉ねぎなどの根菜や山菜、塩、砂糖を生成する際に使うというルーヴという野菜。

 豆類や果物類をブッシェルでいくつか仕入れた。

 あ、一応主食としてパンと芋と魚も仕入れてはいるが、焼肉感がないので米が欲しい。

 琥珀貨1枚という金額を見てもらえるとどれだけの量買ったのかという事がわかりやすいと思う。


 まぁ、金額の高いところはルーヴという野菜なのだが。

 野菜、というが見た目の印象はちょっと大きめの二十日大根、ただし葉は茂っている。

 所謂、砂糖大根。要は甜菜らしい。思った以上に高い。

 砂糖として煮詰めたりする根っこの部分が高いらしい。

 庶民は葉っぱの部分が野菜として食べられるらしいけどな。

 ちなみにいうとブッシェルというのは要は升で、この世界では小麦や種子みたいな小さくて数の多いものはこのブッシェルで摺り切り一杯という形で販売しているのだ。

 魚や大き目の果物みたいな数えられるものは大体一個単位か樽で売ってるんだよな。


「しっかし、お兄さん。とんでもない量だね?持って帰れるかい?運び手が必要なら銀貨1枚で手配するけど?」

「いや、大丈夫だ。アイテムボックスが使えるからな」

 俺はそう言って手を振る。

 そのついでに持ってきた果物や野菜をすべてインベントリに放り込んでいく。

「おや?さっすが冒険者。稼ぎ時だと思ったんだけどねぇ」

 いや、まぁね。

 ……チートのおかげとは言えないけどな。


 ちなみにこの女性は『目利き人』。

 この世界ではそこそこ広い市場では必ずいる存在らしい。

 彼らの役割は市場での仲買。

 いろいろと店があるのでその各店舗から商品をかき集める仕事だ。

 商品をかき集める代わりに手数料を取る。

 それが彼らの仕事なのだ。


 いやほんと。

 彼らのような職が居て助かった。

 なにせこの市場には店が多い。

 殆どが屋台で外売りをしているがこれを全部回るのは大変なんだよな。

 なので、自分で回るときは少量の購入にとどめて、ウィンドウショッピングに興じている。

 少量の見本をもとに集めてもらっているのだ。


「まぁ、そう残念がるなよ」

 俺は銀貨を2枚、彼女に渡す。

 少々渡す金額が高い気がするが、この先使うことも多いだろうから手付料として、これくらいのサービスは良いだろう。

「こんなに?良いのかい?それとも、()()サービスでもしてやろうか?」

「いいよ別に。これから先も贔屓にさせてもらうよ」

「あらそう?残念」

 俺はひらひらと手を振ってその場を後にしたのだった。






 市場を後にしてエルに教えてもらった店を回る。

 回るのだが……。

「うーん。なーんかピンとこない」

 エルに教えてもらった店はなんというか、少々高価過ぎた。

 流石に旦那が贈った物より高価なもの、……それも王族が質のいいといったものを贈るのは不味い。

 俺達の世界で例えるなら新婚の夫婦に生活費含めたものを客がプレゼントするようなものだからな。

 それに……。


 俺はセレンさんの髪飾りについて聞いたときのことを思い出した。

 それはある日の食事での事。

「あれ?セレンさん、その髪留め……」

「ん?あぁ、これかい?不格好だろ?実は旦那が作ってくれたものでさ」

 セレンさんがそう言いながら嬉しそうに髪飾りを触って見せた。

「へぇ。それケインさんが作ったのか」

「あぁ。まったく、あの人ったら。こんなの作ったことないのにさ、頑張っちゃって」

 そう嬉しそうに話していたのを思い出したのだ。

 流石にあれ以上高価なものを送るわけにはいかんよな。

 どうしたもんかな。


 あぁ、そうか。

 形が残るから高価に感じるんだよな。

 とはいえ……、肉や金を渡すのは流石に……。

 いや、思ったよ?一瞬だけ。

 焼肉を振舞えばいいってさ。

 ただなぁ。焼肉を振舞われて喜ぶのは肉体労働とか俺みたいな焼肉好きだろうからな。

 女性やその伴侶が喜ぶとは……。


 そんなことを考えながら町を歩いていると、気づけば裏路地に来ていた。

 ここは確か……。

 エステルアリト商会、アスタランテ支店。

 流石に魔道具はプレゼントには高級すぎるよな。

 にしても相変わらずバラだのなんだの植木がすごいな。

 って。あ、そうか。

 鉢植えならちょうどいいか。

 そう思い立った俺はエステルアリト商会の扉を開いた。

「あら?珍しい。ご無沙汰ね」

 うっ……。

 開口一番、そう嫌味を言われた。

 いや、確かにその通りだけど。

 確かにステータスの魔道具を使わせてもらって以来だけどさ。

 その言い方だと、俺が酷い男みたいじゃないか?

「あ、あぁ。久しぶり、って覚えられているとは思っていなかったよ」

「あら、物覚えが良くなくては支店長なんてやっていられないの」

 棘に棘で返してくるとは。

 さすがバラだらけの店を構えているだけある。

「それで?今日は何の用事?」

「あぁ、そうだった。忘れてた。あのさ、なんか出産祝いというか、ご懐妊祝いによさそうな鉢植えみたいなものはあったりする?」

「鉢植え……。あまり聞かない習慣だけど。……そうね、これなんかどうかしら?」

 店主が持ってきたのは一抱えありそうな鉢植え。

 そこにちょこんと小さな苗が植えられている。

 いや、鉢植えっていうかこれは壺では?

「ちょうどよいサイズが無くて。このくらいの鉢なら人の背丈より少し大きいくらいまでしか育たないから育てやすいと思うわ。土は作ってあるから、後は日の当たるところにおいておけば、手入れは軽い剪定だけで燃えない限りは生き続けてくれると思う」

「この苗はなんて名前の植物なんだ?」

「金環樹。植えて二年くらいすると黄色い葡萄みたいに成る花を咲かせるの。ただ、枝が柔らかいからできればフェンスとかアーチの側においてあげた方が良いかも。肥料は与えすぎもよくないから半年に一度、クズ野菜なんかを細かく砕いて灰と混ぜて一つかみで十分よ」

「へー」

 俺はそんな説明を聞きながら『鑑定眼』を発動してみる。

 名前は確かに金環樹と表示されていた。

 あとは食用って表示されてるな。え、食べられるの?これ?

「花の後は実ができるからお茶にして飲めるわ。あとは煎じて咳止めになるわね」

 ほうほう。そうなのか。

「庭に植えてあるからせっかくだから花も見せてあげたいけど……、あいにく時期じゃないから無理ね」

 それは残念。しかし、葡萄みたいに成る花か。枝が柔らかいって事は葡萄みたいに樹木を形成する蔦って感じの植物だろうし、俺の知識で近いのは藤の花って感じなのかな?

 ま、肥料もクズ野菜と灰なら料理が売りの宿屋の娘と鍛冶屋の息子にはちょうどいい贈り物だろう。

「ありがとう。じゃぁ、これ頂いてもいいか?いくらだ?」

「そうね……、壺と合わせて琥珀貨一枚ってところかしら?」

「うへぇ。高いな」

 金額を聞いて思わずそう口に出てしまった。

「最近ご無沙汰だった分の謝罪料込みって感じでどうかしら?」

 店主のグローブに包まれた指が俺の指に触れる。

 いや、だから。誤解を招くような発言はよしてほしい。

 冷静に。あくまで、冷静に。

 すぐそばにいる形になるので下を向くとたわわに実った何かに反応してしまいそうだ。

「わかったよ。商売上手だな」

 俺はそう言って懐から琥珀貨を一枚取り出して店主、アリュシエールさんに渡した。

「ふふふ。ご贔屓に」



 俺はそのあと、再びインベントリに鉢植えをしまうと店を後にした。

 その俺の背後で店主が微笑んでいたことなど知る由もなかったのである。

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