3-2.新たな力
「貴方という人は……」
ロスは眉間にしわを寄せた。
「別にルールに違反はしてはいないだろう?」
「それはそうですが……」
まぁ、気持ちはわかる。
俺達が買い取りカウンターの上に広げた獲物はエピスセルフのほかに、薬草、川魚、木の実、山菜。それに鳥や兎の魔物が数体。
量としては新人の持ってくる量ではない。
アイテムボックス……という事になっているが、俺のインベントリがあってこそのこの量だ。
ぶっちゃけ、エルとトマスの指示通りに突っ込んでいったのでエピスセルフとジェプールラパン以外の区別はつかないのだが。
後から知ったのだがエルはBランクの冒険者。
本来この辺りで素材採取とかしているような人材ではないらしい。
いや、まぁ。それはなんとなくわかる。
トマスはエルと組んではいるが本人の冒険者ランクはEランク。
俺の一つ上のランクらしい。
これはかなり意外だった。
エルの相棒的な感じだったのでもっと高いと思っていた。
まぁ、彼らの隠しているであろうことを考えると冒険者ランクが低くても理解できなくはない。
実は俺も彼らに隠していることがもう一つある。
『鑑定眼』
いつの間にか使えるようになっていた、俺の新しいスキルだ。
……全く使えるようになった理由がわからん。
だが、結構便利なこのスキル。
なんと前は魔道具で見ていた自分自身のスキルも見れるようになっていた。
ちなみに、異世界転生にありがちなレベルとかそういった表記は見られなかった。
だが別の方面でこのスキルは便利だ。
名前やある程度のスキルが見れるのだ。
そのスキルを駆使すれば、俺の知らないこの世界の野草の名前が一目でわかった。
それに加えて、食べられる、食べられないの判定が効くのだ。
これは正直すごく便利だった。
そして、このスキルでわかったことが一つある。
それはエルとトマスの事。
彼らの名前の部分には別の名前が表示されていた。
「レオナール・ド・オーゴン(フィルフィリア王国王子)」
「クラシタ・ド・ラ・カペル(フィルフィリア王国子爵・騎士団長)」
やっぱり貴族じゃねぇか!?
と心の中で突っ込んだ。
まぁ、なんとなくだがこれは予想はできていたのでそこまで驚きはしなかった。
それが2週間前の出来事。
そこから買い物や新しい商品を見つけるたびに使ってみた。
結構知ってる調味料の原材料とかはあったな。
ヨーグルトを見つけた時は結構感動した。
このあたりに流通しているのはギリシャヨーグルトみたいな固いタイプが主流みたいだけど、やりようによってはいろいろ使いようがあるし。
「しかし、こんなめちゃくちゃな量を収められるアイテムボックスとは……。これで他の魔法が使えないというのも珍しい」
「ロス」
「……失敬。失言でした」
ロスのつぶやきに、エルが反応した。
そう、俺のインベントリはアイテムボックスという魔法、という事になっている。
魔法を知らない俺にとってはエルとロスの会話に合わせただけだったのだが。
魔法を知らないから教えられる人材を教えてほしい、と言ったらとても人に見せられないような顔をしてたな。
あの時のロスは。
「わかりました。……ですが、今すぐは難しいですね。難しいですが……、おそらく大丈夫でしょう。その件に関しては私の方で手配しておきます」
そう眼鏡を光らせながら言ってたな。
そういえば手配って言ってたのは何だったんだろう?
今すぐは無理、とか言ってたよな。
まぁ、気にするだけ意味ないか。その時になったら向こうから声かけてくるだろ。
「しかし貴方、魔法が使えないのにこれほどの容量のアイテムボックスは使えるのですね」
「あ、あぁ。これだけは昔から使えたから別問題というか、なんというか……」
そんな感じに適当に言い訳しておいた。
突っ込まれても困るから、できる限りあいまいにボロが出ないようにするのも大変というか。
いや、別に隠す必要はないんだけど、なんとなくね。
時間の停止した、どれだけ入れても満杯が来そうもない容量保管庫って、この世界どころか、俺らの世界の物流も壊しかねない代物だしな。
教えないに越したことはない。
……そういえばあのヘビーウェイトコングが入ったままだったな。
アレはどこで出すべきかなぁ。
ランクが上がったらギルドに売るか。
流石にゴリラの肉は俺も食ったことないからちょっと食べてみたい気もするが。
ゴリラってどこの肉が食えるんだ?
腕?
霊長類って食ったって話を聞かないんだが。
いや、そもそも霊長類と分類していいのか?魔物を?
……なんかすごいこと言ってる気がする。
一旦この話はよそう。
「はい、ではこちらは全て引き取らせていただきますね」
「あぁ。そうしてくれ」
「ロス、すまないがエピスセルフの角とモモ肉は確保したいのだが。リュウ、何本いるんだ?」
あ、そうだわすれてた。
「そうだった。モモ肉食いたい人~」
そういうとエルとトマス、それにロスが静かに手を上げる。
ロス、お前もか。
まぁいいけど。
焼肉好きが増える分には別にかまわないし。
「じゃぁ4本、足は腿だけで大丈夫だけど、できれば脛は俺には調理できないから……そうだ、今の宿の大将にでもあげるか。やっぱり丸々で」
「承知しました。今回は血抜きも出来ているようですし、一日でできると思いま……」
「ロス」
ギルドのカウンターの上の方からロスに声がかかる。
ギルドの受付の吹き抜けになった部分の上の方を見るとなんだか筋骨隆々な男がこちらを睨んでいた。
他にも何人か周りにいるが。
一人は前に見たことあるな。
確かメイド服を着ていた……、モミジとかいったっけ。
「ん」
一番筋骨隆々な男が顎と指でロスを上に来るように促す。
アレは何だろうか。
随分偉そうだけど。
「すみません、ギルドマスターが呼んでるようですので私はこちらで失礼します」
ギルドマスター?あれが?
あー、なんか大切なことを忘れているような……?
それにしてもあの男。
他の人より背が低いけどその分筋力が付いていて俺達より一回りも二回りも腕や胸板が太くて厚い。
ドワーフって奴かな。
俺が泊っている鉄板街灯亭の店主、ブデンさんもドワーフだったな。
マンガとかファンタジー物なら職人気質のパワーファイター。
あれだけの筋肉量、力仕事は敵わないだろうな。
「すみません、皆様。ロスの代わりにこちらで処理します」
「あぁ、頼むよ。ローヌ嬢」
「あ、ローヌさん肉は明日か明後日取りに来るので解体よろしくお願いします」
「畏まりました。リュウ様」
後処理はロスと入れ違いで対応してくれたローヌさんに頼めば大丈夫だろう。
「リュウ、今日はこれからどうするんだ?」
「ちょっと食事用の調味料とか薬味なんかの素材が乏しくなってるから、市場で買い物かな。宿屋の娘さんのご懐妊のお祝いも買いたいし」
「ほぅ?なら、東市より中央市の方が良いだろうな。質の良いブローチを売っている店をこの間見つけてな。ちょっと待っていろ、場所を書いてやる」
そういって、エルがローヌさんに書けるものをもらいに行っていた。
おせっかい焼きめ。
それにしても中央市か。そういえば手袋とエプロンも買い足しておかないとな。
またあの爺さんの店に行っとくか。
幸い、金貨はまだまだあるし。
ほんと、ジャイアントボアとあの時の飲んだくれ爺さん様様だ。
こうしてつつがなく、冒険者業は進んでいくのであった。




