3-1.友人たち
「リュウ!そっちへ行ったぞ!」
「わかってる!トマス!挟み込むぞ!」
「あぁ!」
俺はインベントリからウェルチ包丁を抜き出す。
ウェルチ包丁は鞘がないので普段はこうやってインベントリに入れている。
使う寸前だけ取り出すようにしているのだ。
「ふっ!」
トマスが槍を突き出し獲物をこちらに追い込む。
俺はその獲物の首を狙ってウェルチ包丁を振りぬいた。
スパンッと刎ねられた首はきれいに宙を舞って獲物は絶命した。
よし、特訓の成果が出たな。
あのヘビーウェイトコングと戦った日から既に3週間の時間が経過していた。
出会いの経緯はともかく、彼らは気の良い奴だったので協力関係をお願いしたのだ。
彼らは俺の提供する焼肉を食べられる、俺は色々教えてもらえる。
非常によくできたWin-Winな関係だ。
え?俺の得るものが大きい?
馬鹿な!?焼肉の対価だぞ?
流石にジャイアントボアの肉はそんなにないけど、ここにはそれなりの数の肉があった。
まぁ、大分助かってるのは間違いないんだが。
彼らは色々と教えてくれた。
一般知識や冒険者に関して。
そして、戦闘面に関してだ。
トマスは剣術を教えることに関しては非常に優秀だった。
ウェルチ包丁の形状を見て一撃の重さより切れ味を重視した包丁だという事もすぐに理解してくれた。
それに合わせた戦い方や振り方、包丁の手入れの仕方まで教えてくれた。
トマスの剣技は真っ直ぐな型を重視しつつも我流で突き詰めた剣技らしい。
トマスは剣の他にも槍も使えるらしく、普段はマジックバッグの中に入れているらしい。
剣とはリーチが違うので初めは剣で戦って槍を使う、なんてハメ技も使うらしい。
意外とえぐい戦法を使う。
エルは剣術も魔法も使えるらしい。
あのド派手な衣装はあの時だけだったらしく、普段はトマスに負けず劣らず地味だ。
金髪碧眼以外は。
なにかしら青い部分がある衣装を好んで使う以外はいたって普通の服を着こなしている。
こいつが魔法を使っているところはまだ見たことないけどな。
風魔法が得意とか本人が言ってたから多分使えるのは風の魔法だろうな。
風の魔法、火の勢いを増すのに使えそうだ。
いつか教えてほしいものだ。
ともかく、自分で言うのもなんだがここ数日で俺は大分成長したと思う。
少なくとも、剣を少しマシに振れるくらいには。
「リュウ、手伝ってくれ」
「了解」
俺はエルに呼ばれて渡されたロープを引っ張る。
ロープの先には俺が先ほど首を刎ね飛ばした獲物、鹿の魔物の後ろ脚が繋がれている。
ロープを木の枝を梁の代わりとして引っ張ると魔物の身体が逆さ吊りの状態で持ち上がった。
要は血抜きだ。
長い首から血が流れ落ちる。
この時点で結構グロい。
この魔物はエピスセルフ。
ギリギリ一般人でも狩ることができるらしいが立派な魔物の一種だ。
魔物のランクにはF~Aまである。
ランクF、まぁよくいるこっちに害がある動物。
ランクE、所謂モンスターと言われる奴ら。一般人でもなんとかなる。
ランクD、本格的に軍や冒険者に討伐依頼を出す。
ランクC、一般人には絶望。冒険者でもベテランが必要。
ランクB、冒険者を何十人も揃えないとヤバい
ランクA、もはや災害と呼べる魔物。
このようなランク付けになっているらしい。
この魔物はDランクでもかなり弱めの部類に入り、ともすれば一般人でも討伐可能な魔物。
価値のほとんどは角にあるらしいが、肉もそこそこ美味しいらしい。
人によっては甘みを感じる肉だとか。
肉としては春のものよりも秋や冬のものの方が価値が高いらしいが。
『奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の、声きくときぞ秋は悲しき』だったっけ?
鹿は『もみじ肉』といって日本でもジビエとしてよく手に入った肉だったよな。
「すまないが血が抜けたら、君のアイテムボックスに入れてくれないか?」
「あぁ、わかってる」
流石に疑似的とはいえ3週間もパーティーを組んでいると隠しきれなかった。
基本彼らとはギルドで合流する形で、実際にどこに宿を取っているかもわからないが、依頼を一緒にこなすことはあった。
その過程で俺の包丁を取り出すスタイルを提案してくれたのも彼らだからな。
流石にインベントリとしては隠しているが、空間魔法アイテムボックスとして彼らには伝えている。
連携だってこの通りなかなか様になって来たと思う。
今日で魔物の狩りは5回目。
それぞれ兎型のジェプールラパン、鹿型のエピスセルフ、鶉型のシャルコスの群れ、兎型のジェプールラパン、そして今回が鹿型のエピスセルフだ。
大体、昼過ぎには依頼を終わらせて町に帰るようにしているのだ。
そもそも、時間が合う時も少ないしな。
俺の訓練は早朝とか会えた日の昼とかにするようにしてるからな。
結構時間がキツキツなのだ。
まぁ、2人はなんかどこかの貴族っぽい佇まいだし、何か貴族の仕事の傍ら冒険者をしているのかもしれない。
よくあるじゃん。そういうお忍びの設定。
「さて、そろそろ血も抜けきったようだな」
「えぇ、結構な量でしたね。今回は肉はどうします?」
「そうだな……、リュウ。どうだ?春はエピスセルフの肉も脂がのっていない。今回は肉は売って、売った金で市場で別の肉を買うというのは?」
「なるほど、二人がそれでいいなら俺は構わない」
俺はそう提案してきた二人に同意した。
確かに一度狩ったときはあまり質のいい肉とは思えなかった。
町の評価では甘い肉とのことだったが。
まぁ、後から聞いてみると「旬」ではなかったらしい。
エピスセルフの肉は秋や冬が脂を蓄えて旬となる。
春は比較的あっさりしていて干し肉などの加工肉に向くそうだ。
尤も、そういう肉でも愛好家はいるらしく、むしろ春の肉を好む人もいるそうだ。
赤身がいいか、霜降りがいいか、そういう事だろうか。
「ただ、解体を頼んでからでいいから、モモ肉と角は少量でいいから確保したい」
「モモ肉?何か理由があるのか?」
「いや、街中にヨーグルトがあったからさ。ちょっと試してみようかと」
「ほう?」
「そんなもの欲しそうな顔しなくても用意しとくよ」
「そうか。ではギルドへさっさと納品してしまおう。トマス、ついでだ、何か採取できるものがあるか探そう」
「はっ」
エルがルンルンと擬音でも出そうな感じでトマスを伴って後片付けをしていく。
この男、貴族っぽい服を着て貴族っぽい動きをしているのになんだか俗っぽいというか、最近は俺の焼肉を狙ってる節がある。
仮に本当に貴族ならずいぶん俗っぽいが。
まぁ、俺の焼肉を楽しみにしてくれているんだ。
その期待には応えたい。
「リュウ、片づけ終わりましたよ」
「あー、ありがとう。じゃ、こっちも片付けるわ」
俺は手早く血の抜けたエピスセルフの身体をインベントリに入れていく。
おっと、頭も忘れず入れておかないとな。
俺はエピスセルフの頭を押し込むと、帰り支度を始めるのだった。
うん?絵面が狂気?
うん。俺もそう思う。




