2-13.冒険の始まり、友は火と共に来たりて
「つ、疲れたぁ……」
ヘビーウェイトコングが完全に動かなくなったのを確認すると、俺は一息入れる。
あ、ウェルチ包丁忘れてた。
俺はわずかにヘビーウェイトコングの胸から突き出た刃の部分に触れ、インベントリに収納する。
ほうほう。
ぶっつけだったがウェルチ包丁だけ収納できたな。
結構便利だ。
あ、そうだ。
インベントリの中は時間が止まってるから今度こいつを解体してもらうか。
胸に穴開けただけだから皮とかも使えるだろ。
せっかくだから解体を教えてもらえたら助かるな。
俺はヘビーウェイトコングに手を触れる。
うん?インベントリに入れられない?
なんでだ?
そう思っていると俺の身体を強烈な痛みが襲った。
何かに掴まれたような全身を圧迫されるような感覚だ。
BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
嘘だろ!?
俺の身体はヘビーウェイトコングに掴まれていた。
こいつ!まだ生きてたのかよ!?
冗談だろ!?どんな生命力してんだよ!?
包丁を胸に突き立てたんだぞ!?
しかし、その驚きは長くは続かなかった。
すぐに俺を掴んでいた力は緩んだのだ。
そのままヘビーウェイトコングは力尽きたのだ。
なんだよ。
最後っ屁だったのか。
もしかしてまだ生きてたからインベントリに入れられなかったのかもしれないな。
俺はもう一度ヘビーウェイトコングに触れてインベントリに入れてみる。
今度はすんなり入ってくれた。
やはり生きていたから入れられなかったようだ。
先に教えてほしいよね。そんなの。
しかし、これで生きてるか死んでるかの判定ができるわけか。
めっけもんだな。
あれ?
さっき薬草入れたよな?
植物は死んでる扱いか?
いや、待てよ?
死んでるなら入れられるのであれば、居るかは分からないけどスケルトンやゾンビみたいなアンデッドや、例えば木の精的なものとか石の精的な無機物に宿ってるみたいな設定を持っているものとかどうなんだ?
意思のあるマジックウェポンとか。
よくあるよな。ファンタジーだと。
……よし。
難しいことを考えるのはやめよう。
またいずれ、その時が来たら、だな。
いないものを考えたところで答えは出ない。
そんなことより、もっと有益なことに頭を使おう。
俺はインベントリから四角いタイプの七輪を取り出す。
少々小さいが一人でする分には十分だろ。
本当は炭がいいけど、無いからな。
薪でいいか。
お?あの辺りの枝ならいい感じに乾いていそうだな?
こっちは生木だけど細いから着火剤に出来そうか?
ってなんだこれ?白い樹脂が出て来たな。
これじゃ、着火剤にはできそうにないな。
ん?このきのこは……松茸っぽい。若干青っぽい色をしているが。
ついでに焼いてみるか。
あっとはぁ♪
肉!!
ジャイアントボアのカルビ肉。
大体四人分のうちの一人分。
おおよそ10枚。
あの辺の石が平たくてよさそうだ。
包丁をインベントリから取り出してインベントリに入れてあった肉を適当な大きさに切る。
分厚いステーキも捨てがたいが、今は鉄板がないので焼肉ではない。
網なのでどちらかといえば薄めに。
俺は火を熾して七輪に火をくべる。
火はチャッカマンで付ける。
着火剤がないからな。
しかし、これはこのまま使い続けたらすぐガスが無くなりそうだな。
ファンタジー的にはやはり火の魔法とかを学ぶべきか?
誰か教えてくれる人はいないだろうか?
うっし。
火も起きた。
七輪も食材も用意した。
門限は……まだまだ先だ。
準備万端!
さぁ!焼肉の時間だ!!
と、いうわけで。
準備が整いました。
七輪焼肉!
キノコは縦半分に切っておく。
肉はあらかじめ切ったので後は並べるだけ。
ってしまった!
箸とかフォークないじゃん!!
仕方ない。
俺は即席でそこら辺の木を削って箸を作る。
細い枝ではなくて少し太めのものをナイフで平たく削る。
それを二つに割る。
これで割りばしっぽくなる。
とりあえずはこれで良し。
キノコは火力の低い端っこの方に置いておく。
そしてある程度時間が経ってキノコに火が通ったら、肉を網の上に並べる。
タレは無いのでパンの上に肉を乗せる。
パン自体に香草が入っているので多分大丈夫。ついでにパンを軽くあぶっておく。
焼肉と香草パン、マツタケっぽい何かのホットサンド。
絶対うまいでしょ。
それじゃ。
いただきます!
美味い!
若干、パンが乾燥したようになるがそれがまたいい。
肉の味を邪魔しない。
肉の脂が乾燥したパンにしみこんで香草の香りと豚系肉の甘い油が合わさり、味付けが不要なほどだ。
キノコの旨味と風味もいいアクセントになっていていい味を出している。
すごいな。この肉。
本当になんにでも合う。
はぁ~~~。幸せだ。
まさか、中世ファンタジーの文明でこれだけの食事を食えるとは。
これは、あのジャイアントボアを狩ることも考えないといけないな。
「で、さっきからなんのようだ?」
俺はたっぷりと食事を堪能した後、一息ついて後ろの茂みに声をかけた。
「ほぅ?気付いていたか?」
そりゃ、お前。そんなド派手な服を着ていればな。
木の陰からチラチラ見えてたよ。
青い布に金の刺繍。白いズボンにブーツに赤いマント。おまけに金髪碧眼。
どっかの王子様か何かか?
「誰だ?」
俺の疑問には剣が喉元に付き立てられた。
「貴様!こちらの方をどなただと!」
いや、わかんないから聞いてるんだが。
俺はとりあえず両手を挙げて無害アピールをしておく。
あっちの派手な男に比べてこっちは超地味。
地味というか黒い。黒い長髪に黒い瞳。
シャツは白。茶色いマントや革の鎧をつけてはいるが、溢れる気品というか。
なんかどこかの騎士団と言われても疑わない気がする。
「クラシタ。剣を降ろせ」
「はっ」
王子様っぽい方に命令されて黒い方が剣を降ろした。
「すまないな。悪気はないんだ」
「まぁ。そう言うなら。それで?」
「私はレオ……間違えた、エルという。しがない冒険者だ。一応、リアードという苗字がある。こっちはトマス。こいつも王都近辺のモア家の流れを汲む男だ。一緒に家を飛び出して冒険者をしていてな」
男が、笑顔でそう答えた。
いや、さっき思いっきり別の名前言ってたし。
ソレ偽名だろ、絶対。
「……流石に無理がないか?」
思わず言葉に出てしまっていた。
「はははっ。そう思うよな。すまない、だが今はそういう事にしておいてくれないか?」
「はいはい。分ったよ。で?何の用?」
「いやなに。門の兵……じゃなかった、友人に面白い男がいると聞いてな」
門の兵って。やっぱりこいつ貴族かなんかじゃないのか?
「はぁ。まぁいいや」
俺は肉を3人分取り出しておく。
「君ら、フォークとか持ってる?」
「肉用のものであれば」
エルが懐からサッとフォークを出してくる。
肉用の二本爪のものだ。
クラシタ……トマスと呼ばれた男もしれっと出している。
喰えない男たちだな。
門の兵に聞いたって事は俺のが肉を持っていることも知っていて声をかけたって事か。
俺はいくつか肉を切り出す。
カルビ肉は残すところ3人分だったが、まぁ食事は何人かで喰った方が美味いよな。
「ほら、良い肉だ。一人用の七輪だから数が焼けないのは勘弁な」
「ははは。構わないさ。さ、トマス。頂こう」
「はい。殿下」
こうして、俺の初めての依頼は終わりを迎えた。
焼肉の匂いが運んできた、俺の新しい友たちを添えて。
EXをのぞきストックが無くなりましたので次回からはでき次第という事でお願いします。




