2-12.冒険の始まり、遭遇戦ヘビーウェイトコング
BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
巨大な猿……いや、ゴリラが異様に興奮した状態で咆哮を上げていた。
ちょっとまてぇ……落ち着け!落ち着け!俺!
えっと、こいつって絶対最初のクエストとかで出てくるような魔物じゃないよな?
あ、いや。そういえばカルバラが何か言っていたような……。
「あぁ。Bランク、ジャイアントボア。タイラントラプトル、ヘビーウェイトコング、ブラッディヘビーホーンと並んでこの『暴君の森』の生態系の上位に君臨する魔物だ……って、知らなかったのか?」
タイラントラプトル、ヘビーウェイトコング、ブラッディヘビーホーンと並んでこの『暴君の森』の生態系の上位に君臨する魔物だ。
タイラントラプトル、ヘビーウェイトコング、ブラッディヘビーホーンと並んで……。
ヘビーウェイト……。
あっ。
もしかしてコングってこいつの事か!?
……いやいや、騙されないぞ☆
コングってのは元々某映画の名称からゴリラの英語名だという誤解が広まってそれ以降日本の作品にゴリラ型の魔物を示す名称として使われているとかいないとか、つまりこの世界ではコングは別のモンスターの名称を示す可能性もあるわけで、こいつが件のヘビーウェイトコングだとは限らな……。
ヒュッ!!
俺の目の前に巨大な拳が降りかかる。
俺はすんでのところでそれを躱して、後ろに飛び退る。
土煙が俺の視界を遮る。
いやいや、どんな力だよ!?
視界が遮られるほど土煙を起こす力って。
俺はインベントリから今朝買った長い包丁を取り出す。
こうやって持ってみるとやっぱり包丁じゃなくて剣じゃなかろうか。これ。
って、あぶねっ!?
土煙の中から俺目掛けて再び巨大な拳が向かってくる。
ブオンッ、と空気を切り裂く音が目の前で聞こえる。
俺はそれを横に転がって避けた。
視界が風圧で晴れていく。
中から現れたのは上半身、とくに腕の部分が異様に発達し、黒い体毛に包まれたゴリラのような魔物の姿だ。
足の大きさに比べ、明らかに上半身が発達している。
某映画の様に基本的に二足歩行するタイプのシルエットではなさそうだ。
いや、ほんとにでかいな。腕。
丸太より太いんじゃないか?
BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
ヘビーウェイトコングが大きく雄たけびを上げた。
落ち着け。俺。
猪の時と一緒だ。
魔道具屋で見た『絶対王道』や『空間収納』ってスキルはおそらく、転生?転移?の特典のチートスキルだろう。
字面からは分からないものもあるが、それは追々解明していくしかない。
今はどう使えるのか。それに限る。
猪の時は気付いたら自分の身体じゃないような感覚があった。
あの時はどうだった?
何がトリガーになっていた?
ヘビーウェイトコングが突進してくるのが見える。
俺は再び横に飛びのきゴロゴロと地面を転がる。
思った以上に腕の振りが長い。
これは横振りや縦振りは遠心力によるパワーに、まっすぐ伸ばしてくる場合はリーチに注意すべきだろう。
そしてこういうパターンの敵は狙うべきは……。
俺は立ち上がり、長い包丁を前に向けて両手で構える。
俺の構えを見てヘビーウェイトコングが少し笑ったような気がした。
ゴリラに笑われるのは釈然としないが、まぁ、俺は素人だし、仕方ない。
傍から見てもよほど可笑しいのだろう。
だけど……。人間様をなめるな。
その油断が命取りって教えてやる。
ヘビーウェイトコングは再び雄たけびを上げて俺に向かって大きく踏み込む。
絶対的な自信がヘビーウェイトコングから感じられる。
踏み込んだヘビーウェイトコングは斜め前方向に跳躍、一気に俺との距離を詰めてくる。
「……かかった!」
俺は身体を沈みこませ、前に跳躍する。
先に跳躍したヘビーウェイトコングは目的地、つまり俺の居たところを目掛けて飛びかかっているので空中で軌道を修正することは不可能!
結果として俺の身体がヘビーウェイトコングの下を取ることになる。
「こなくそ!」
俺は両手で構えた長い包丁……もうめんどくさいからウェルチ包丁と呼ぼう。ウェルチ包丁を思いっきり振り上げる。
多少は痛いだろ!
これだけの質量の包丁、筋肉だけで受けきれるものじゃない!
しかし、俺の思惑とは裏腹に、吹き飛ばされたのは俺の方だった。
もちろん、筋肉で包丁が弾き飛ばされたわけじゃない。
奴が尻尾で俺の腹を打ち、吹き飛ばしたのだ。
脇腹と背中に強烈な痛みが走る。
幸い骨に当たったわけじゃなさそうだ。
だけど、吹き飛ばされた先に木があって俺の身体は尻尾による一撃と木を背中にぶつけた痛みで泣きそうだ。
「くそっ!」
しくじったな。そう何度も使える手じゃないってのに。
さっきだって全力だったのに痛めたこの身体でどこまで持つか。
というか尻尾があったのか。
なんかすごく太い尻尾だ。
ゴリラ型だから尻尾がないものと思い込んでいた。
BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
再び奴が咆哮を上げて俺の方に向かって突撃してくる。
くそ、あの太く強靭な尻尾の筋肉。
うまく倒せればテール肉としていい味しそうなのに!
このままじゃ食うどころか俺がやられて……。
そう思った瞬間、奴は何かを感じたのか飛びのいた。
「……?」
なんだ?なんで退いたんだ?
まぁ、おかげで立ち上がる時間ができた。
俺はウェルチ包丁を構えなおして相手に向ける。
「なんだかよくわからないけど、チャンスか?」
俺は駆け出す。
すると明らかに自分の力以上の速さが出た。
猪の時と一緒だ。これなら……。
ヘビーウェイトコングが俺へ向けて大ぶりの攻撃を仕掛けてくる。
俺はそれを上に跳躍して避ける。
ヘビーウェイトコングの真上に飛んだことによって奴は俺を見上げる形になった。
俺はインベントリからあるものを取り出す。
丸形の七輪。
……少々勿体ないが。
七輪が重力に従って落ちる。
BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
落ちた七輪は運動エネルギーを伴ってヘビーウェイトコングの顔面に落ちた。
ヘビーウェイトコングが悲鳴をあげる。
十分痛みもあるだろうが、これは痛みを目的とした攻撃ではない。
俺の目論見通り、顔面に落ちた七輪は粉々に砕け、ヘビーウェイトコングの視界を塞いだ。
その間に、俺はヘビーウェイトコングの後ろに降り立つ。
そして手に持ったウェルチ包丁を思いっきり奴の背中から突き立てた。
ヘビーウェイトコングが仰け反っているのもあり、奴の体重で包丁はすんなりと刺さっていく。
ウェルチ包丁はそのまま分厚い筋肉の隙間を貫き、根元まで刺さって俺の手では支えきれなくなり、手を放して横に飛び退る。
そのままヘビーウェイトコングは後ろに倒れ込み大きく一度痙攣し、そのまま動かなくなった。
はぁ。
何とかなったぁ……。




