2-10.冒険の始まり、依頼受注と七輪
『遺体収容:最低ランクC:小隊参加任務:小隊参加報酬琥珀貨2枚』
『オーク討伐:ランク不問:なるべく多くの肉。低層での討伐を推奨』
『アスモス商会:ランク不問:新規入荷の奴隷の世話役を募集。負荷軽減のため』
『賞金首:盗賊ガザ:生死不問:金貨20枚』
けっこういろんな依頼が並んでるな。
殆どが木の板に書かれてかけられている。
これもあの木摺り版機とかいう機械で表面を削って再利用するためかな。
こういうところは羊皮紙ってやつかと思ったけど、やっぱり紙とかは高いのかな?
羊皮紙って確か羊の皮の加工品だっけ?
まぁ、読めれば何でもいいけど。
しかし、依頼の掲示板が階段下って。
まぁ、エントランスエリアにはテーブルとかが所狭しと並べられるし、有効なスペースの使い方だとは思うが。
ざっくり見た感じだが掲示板に書かれた依頼はいくつかの種類に分かれるっぽい。
もちろんここに書いてある限りは、の話だが。
大雑把に討伐・採取・護衛・運搬・そのほか雑用。
受けることができる冒険者ランクが決まっているもの、決まっていないもの。
受ける条件のあるもの、ないもの。
報酬が書かれたもの、書かれていないもの。
ギルドが発注元のもの、依頼主がいるもの。
これらを組み合わせて書かれているっぽい。
もちろん他の情報も書いてはあるが、木の板にも面積があるからな。
必要最低限の情報だけが詰め込まれているのだろう。
比較的多い依頼は運搬の依頼。
依頼主が冒険者の場合もあるようだ。
後は、賞金首や珍しいモンスターの賞金とかかな。
俺のお目当ての依頼は……。
お、あったあった。
『薬草採取:ランク不問:低層域に生えているアマネ草の採取』
薬草採取依頼。
いかにも初めての依頼といった感じの内容だ。
「すみません」
俺は近くにいた職員の女性に軽く手を上げて呼び止める。
「はい。なんでしょう?」
「このアマネ草って見た目とかって教えてもらえるんですか?」
「……見た目、ですか?少々お待ちください」
職員さんがそう言って奥の方から製本された本を持ってきた。
紙はありはするんだな。
「これがアマネ草です。この時期は花が咲いているでしょうから見分けも付きやすいと思いますよ」
職員さんが本のうちの一ページを指して言う。
そのページには多数の情報が載っていた。
見た目は茎が太く小さな葉っぱが連なったセリのような見た目。
ページには花をつけた姿と花のついてない姿が載ってるが。
書かれた事に軽く目を通してみると、どうやら花のついている状態の方が価値も効果も高いらしい。
先ほどの発言からすると、今は花のついている時期らしい。
「ああ、でも注意してください。アマネ草は群生しますが全部取り切ってはいけません。次の芽を残すことを忘れないでください。乱獲しても罰金の方が高くなりますよ」
へぇ。
結構考えられてるんだな。
ところで、さっきから気になってるんだが。
「ところでなんでメイド服なんですか?」
ギルド職員は皆、統一した制服を着用してるがこの子はメイド服なんだな。
男性は白いシャツと青い服を着用しており、女性も青を基調とした服を着用している。そして男女に共通するのが赤い腕章をつけていることだ。
メイド服を着ていてもギルド職員だと分かったのはこの腕章のおかげだ。
「あぁ。すみません。先ほどまで旦那様の『お世話』をしておりましたので」
……だ、旦那様?お世話?
なんか『お世話』を異様に強調された気がするが。
「え、えっと……」
「……?……失礼いたしました。私、当アスタランテ冒険者ギルドのギルドマスター、ドラムレットの『愛人』、『夜の御伴』、『愛の奴隷』、兼当アスタランテの副ギルドマスター、モミジと申します」
いや、そういうことじゃないんですが。
というか、なんかすごい単語が聞こえた気がする。
き、聞かなかったことにした方がいいのか?
もしかしてギルドマスターがめっちゃやばい人だったり?
そういえばさっき掲示板で『奴隷の世話役』とか書いてあったな。
やっぱり奴隷とかある世界なんだろうな。
ということは彼女の言っていることはあながち嘘ではない可能性も……。
ギルドマスターが奴隷を囲ってるってことか?
「モミジ様!何をバカなことを言っているのですか!」
「ちっ!」
カウンターの奥から怒鳴り声が聞こえたかと思うと、目の前にいたメイド服の少女はすごい勢いでカウンターの上から飛び上がり隣にある、階段をすっ飛ばし二階へ行ってしまった。
すごい身体能力だ。
メイド服であんな動きってできるんだな。
たしか、副ギルドマスターとか言ってたな。
え、なに。ギルドの上層部ってみんなあんな動きができるのか?
こわっ。さすが冒険者ギルド。
「大変失礼いたしました。先ほどのモミジ様の発言は忘れてください。リュウ様」
「い、いえ……。はい。わかりました」
こういう時はフォローに回っている人の顔を立てたほうがいい。
なんだかすごい人だったな。急に疲れた気がする……。
どっと疲れた俺は、メイド服の少女の代わりに出てきてくれたギルドの職員に薬草採取の依頼を受理してもらい、ギルドの建物を後にするのだった。
ギルドの建物から出てしばらく進む。
屋台の通りを抜けると、狭い路地に小さな階段が見えてくる。
そこの手前、階段端に実は気になった店があった。
屋台と言っても地面に茣蓙を敷いて商品を並べただけのもののようだったが。
ロスは先日、確か『陶芸職人に弟子入りしている子弟たちの失敗作』とか言ってたっけ。
ギルドでチラッと見えた網はずいぶんアラの目立つものだったけど。
さっきギルドに来るときに似たものを見たんだよな。
お?あったあった。
「らっしゃい。にいちゃん。どうだい?近所の陶芸職人の弟子の手習い品だが、簡単に肉を焼く程度には使えるぜ。値段もそれなり、品質もそれなり、だけどな」
正直な店主だ。好感が持てる。
「じゃぁ、一つもらえるか?」
「まいど。どれでも一つ銀貨2枚だ」
銀貨2枚。
かなり安いな。
残念ながら上に載せる網はどれも粗雑な物ばかりだが、使えないことはない。
せめて網の感覚は一定にしてほしいな。
さて、使いやすそうなものは……。
七輪もどきにはいくつか種類がある。
形は角型と丸形。構造としては、網が上部の蓋と一体化しているものと、そもそも上に網を乗せる設計になっていない、火鉢や土器のような形をしているものだ。
「うーん。じゃぁ3つまとめて買うから銀貨5枚にしてくれない?」
「おう、いいぜ。好きなもん持っていきな」
俺は了解を取ったので銀貨を5枚支払ってそれぞれ角型を1つ、丸形を2つ手に取る。
丸形を多めに選んだのは、構造的な丈夫さと熱効率を重視したからだ。
角型は長い物を焼くときには便利だが、強度では劣るし、肉を均等に焼くにはムラなく熱を網まで伝える丸形構造の方が役に立つ。
しかし、角型七輪が決して劣っているわけではない。
まず前述した通り、焼ける面が大きい。
これは魚や焼き鳥、一時期流行った自分でハサミで切るタイプの一枚肉のカルビなど、長いものを焼くのに役に立つ。
さらに熱を伝えるのにムラがあるという事は、一枚の網で様々な火加減を再現できるという事だ。
端には根菜、中ほどには肉、といったような使い分けがしやすいのだ。
更に四角い形は構造的には丸形より弱いが作るのが簡単だ。
つまり様々なサイズを用意しやすく、収納性にも優れている。
たとえば一人焼肉店ではスペースを有効に活用できる角型の方が多く使われているとおもう。
しかしそれを差し引いても、丸形の強度と熱をムラなく伝えられる構造には利点があるという事だ。
恐らく、七輪と聞いたらほとんどの人が丸形を思いつくことだろう。
それだけ、利点があるという事だ。
ただ問題は丸形の網がこの世界にあるか、という事なのだが。
そういう意味もあって今回は蓋部分に直接網が埋め込まれたものを選んだ。
この丸い七輪の上部は取り外せるようになっており、取り外した部分に直接網が埋め込まれている構造だ。
洗い難そうだが、たれで焼くわけでもなし、これだけ安いなら最悪使い捨てと考えてもいいだろう。
どこかで網を作れる鍛冶屋でもあればいいけど。
受け取った七輪を抱えて人気が無くなったところでインベントリに収納した後、俺は町を見回しながら門の方へと歩みを進めるのであった。




