2-9.冒険の始まり、換金とエルフ
エステルアリト商会を出て俺は大通りをギルド方面に進んでいく。
今日の購入で金貨が3枚と琥珀貨1枚まで減ってしまった。
剣とナイフの代金をもらっておいてよかった。
アレが無ければ、今頃琥珀貨1枚になっていた。
仕事の一回がどのくらいの金銭をもらえるかは分からないが、かなり心もとない。
武器はやっぱり高かったな。
ロスが紹介してくれてよかったよ。
そういえば、あの魔道具店の店長、俺がステータスを見れる道具を探したときになんであんなに驚いたような表情をしてたんだろう?
もしかしてあまり使用されていないものなのか?
まぁ、今考えても仕方ないか。
それにしてもあの収納できるスキル、やっぱりインベントリだったんだな。
それにあの時間を操れる倉庫のような空間も別のスキルとして存在していた。
なんなんだろうなこれ。
ちなみに、今日買い物した武器や服はインベントリに収めてある。
流石にあのでっかい包丁は抜き身で町の中を歩くには不適切だろう。
皮か何かで鞘とかホルスター的な物を作った方が良いだろうか?
まぁ、別にスッと取り出せるから武器をぶら下げておく必要もないしな。
そうこうしているうちにギルドまで来たわけだが。
なんだか、みんな忙しそうにしている。
声をかけるのは少し気が引けるなぁ。
「はい、新人さんはこちらに。新規登録はこちらでお受けします」
「納品はこちらです。順番にお願いします!」
本当に忙しそうだな。
昨日が人がいない時間だっただけで、今日のこの様子が普通の状態なのかもしれない。
「リュウさん」
あまりの勢いに呆然としていると横から声をかけられた。
「あ、えっと。ローヌさん……でしたっけ?」
「はい。ローヌです。本日はどうされました?」
「ロスにカウンターにジャイアントボアの報酬があると言われたのですが」
「あー、はい。お預かりしていますよ。こちらにどうぞ」
俺はローヌさんに促されてギルドの入って右手の方に進む。
「リュウさん、ここが受け取りカウンターです。本来、解体した後の素材なども受け取れる場所です。とはいえ、今回は換金になりますのでこちらではなく……」
ローヌさんはそのカウンターよりも入り口側、鉄格子に囲まれたカウンターへと案内してくれた。
「こちらの換金カウンターですね」
換金カウンター!
つまり獲物の換金をするときに使うカウンターか。
そういえばギルドの棒証って銀行にもなるんだっけ。
「ロスさんから聞いた話では……」
ローヌさんの解説では。
まず解体料金が大きさもあって銀貨5枚。
残した半身は悪臭がひどすぎて肥やし程度にしかならない。
しかし量があったので琥珀貨1枚。
毛皮も半身は使えるが、半身は匂いが酷いため、通常の半分より少し少なく金貨2枚。毛皮は一枚丸々あった方が価値が高いらしい。
最も重さ当たりの価値の高い牙は元々1本があまり状態が良くなかったのもあって、良い方は金貨5枚、悪い方は金貨2枚。
内臓はなかったのだが、あればもっと価値が付いたらしい。
どうも内臓などは薬やポーションのような物になるらしい。
蹄も装飾品などの材料になるらしく、4つで金貨1枚と琥珀貨2枚。1つあたり琥珀貨3枚の計算だ。
骨も装飾品やトロフィーとして価値があるらしく、頭蓋骨が一番価値が高いがあばら以外は丸々一頭分そろっていたので何と驚愕の金貨8枚。あばらがあればサイズ的に金貨10枚は下らなかったらしい。
残念ながら俺の喰った1本は埋めてしまってるからな。
骨は周りのすべてを処理した最後に出てくるものなので手間賃などが上乗せされそれなりに高値で取引されるらしい。
そしてここで俺はひとつ大きなミスに気付いた。
豚足部分を取っておくのを忘れたのだ。
もも肉は1本分骨に沿ってそぎ落としたのに、トン足部分、蹄の内側の存在を忘れていた。
さすがにすでに肥やしとして処理されていた。
くそぅ。
博多名物「焼き豚足」は、焼肉屋では定番中の定番じゃないか!
すっかり忘れていたことはショックでしかない。
そういえば柑橘類っぽい果実をもらったよな。
昨日のスープにほんの少しさわやかな辛みがあったから、おそらく青唐辛子かそれに似たものがあるのだろう。
うまくすれば「柚子胡椒」の再現だってできたかもしれないのに。
「と、いうわけで全部で金貨18枚と琥珀貨2枚と銀貨5枚です」
金貨18枚!?
ここにきてとんでもない収入が来た!
肉の価値が大半かと思ったが、意外とそうでもないのな。
そういえば金貨3枚は半分の肉、それも俺の下手な解体でってなると一匹当たり金貨30枚くらい行くんじゃないか?
今日買った包丁セットが15個買えるな。
いや、そんなに包丁ばっかりいらんけどさ。
そうだ、鞄とか服も買っておくか。
あの爺さんの店ならいいものが大量に買えそうだし。
カッシャカッシャ。
おや?
なんか不思議な音が?
カッシャカッシャ。
音のする方に顔を向ける。
うん?なんだ?あれ。
そこには一人のギルド職員が何かを押しているところだった。
機織りのような大きな据え置きの台のような物。
なんだあれ?
「ローヌさん、アレってなんです?」
「あれ?あぁ。木摺り版機のことですか」
木摺り版機?
「あれは木版の表面を削って再利用できるようにしているんですよ」
あぁ、なるほど。
そりゃ木だからな。
表面削れば下の地の部分が見えて再利用できるようになる、か。
紙なんて高いだろうし。
昨日俺がギルドに来たときも木版に名前書いてたっけ。
「ちなみに、削った木簡は細かく砕いて着火剤などに利用されています」
へぇ。節約というか、再利用意識の高い町なんだな。
俺の見た作品だと、こんなところまで見られることとかなかったもんな。
そりゃ、普通に生活してるんだからこういう細かいところも出てくるよな。
そういえば普通に認識できているから何も気にしてなかったけど、文法とかもきっと細かく決まってるんだろうな。
しっかし。
こっちに来てからちょいちょい気にはなっていたんだが。
俺、こんなに視力良かったけ?
削るために置かれた木簡の文字さえ見える。
身体が若返ったせいか他にも細かいところが気になり始めてくるな。
視覚・聴覚・嗅覚。
味覚は……元の食材を食べてみないと分からないからな。
ジャイアントボアの肉が異常にうまいって可能性もあるし。
えっと、なになに?
ルワンディア・ロア・アリアンデ・ウェル・アスタランテ。
えっらい長い名前だな。
ふと、カウンターの客側の方を見るとエルフの少女。
見たところ新人冒険者登録って感じだけど。
……うん?
アスタランテ?
町の名前と一緒だけど。最近どこかで……。
あぁ!あの魔道具店の店長か。
「どうされました?リュウさん?」
「あぁ、いや。ちょっと今の書類が見えちゃいまして。ローヌさん、アスタランテって苗字の人がいますけど、この町の重役のご家族か何かですか?」
俺の言葉にローヌさんはチラリと件のエルフの方に目をやった。
「アスタランテ?あぁ、エルフ族の方ですね。エルフ族の方は、住んでいる場所の名前を苗字にする文化があるんですよ。なんでも50年程住めばその町を名乗るのが習わしだとか。ですので、彼女の場合はおそらく親御さんがアスタランテに住んで長い一族なのでしょう」
へぇ。
ってことは、アスタランテって苗字のエルフはいっぱいいるって事か。
でもそれって不便じゃね?
「そもそも苗字を持っている人間の平民は少ないですし、エルフの方々は本人の名前・中間詞・母の名前・選別名・住むところの名前と組み合わせて名付けられるので、区別はできますから。例外は、人間の貴族など苗字持ちの方と結婚された女性のエルフさんでしょうか。彼女たちはすむ場所の名前の代わりに、夫と同じ苗字を名乗るそうですし」
そんなルールがあるのか。
ってあれ?
「そしたら、ロスってもしかして貴族なの?」
そう言うと、ローヌさんが笑って答えた。
「いいえ。ロスさんは正真正銘、この町の平民ですよ。家系の由来は存じ上げませんが、ロスさんはアスタランテの商人たちの中でも大店の店の出身でして。商家や武功を上げた冒険者の中には苗字を名乗ることを許された者達もいるのです。リュウさんもそういった家系だったのでは?」
「あぁ、いえ。まぁそんなものなのですが」
失敗したな。
これは苗字を書いたのは失敗だったかもしれん。
まぁ、今更悔やんでも仕方ない。
もう少し、勉強しておいた方がよさそうだという事がわかっただけ良しとしておくとしよう。
そう思いながら俺は色々教えてくれたローヌさんに礼を言い、カウンター前を後にしてギルドの階段下、ボードのある方へと足を進めるのだった。




