2-8.紹介された店、エステルアリト商会
「さて、ロスに紹介された次の店は……」
俺はロスからもらった地図を眺めながら町を歩いた。
結構歩いた気がするが。
朝の市場を中心にするとちょうど反対側あたり。
改めて見てみると、朝の市場は大通りの交差するところに立地していたんだな。
って事は多分あの辺りは一等地だったのかな?
それにしても。
この町はずいぶんと込み入っている印象を受ける。
ここに来るまで何人かに聞きながらやって来たのだが、小道1つ見つけるのも一苦労だった。
ただ、俺が見つけられなかっただけで色々と目印になるものはあるらしく、やれ金床だの老人の馬車だの、いったいどこを見ればその名前の通りだと判断できるのかは俺には判断できなかった。
現代でも、地図を読むのが苦手な人とかはいたけど、俺は自分自身をそうとは思わなかったんだが。
これは、この町で暮らしていくちょっとした課題かな。
最低でもしばらくはこの町にいることになるだろうし。
お、この通りか。
俺は大通りから入れる小道を見つける。
この通りは魔女の猫の通り。
入る入口は猫を模した看板。
目的の場所はこの通りを入って二本目の交差点を向かって左に向かうとY字になる角だったな。
俺は聞いた通りの順路を通っていくと、三階建ての建物群の中に少しだけ開けた空間が見えてきた。
Y字になった二股の角には一軒、ほかに比べると背の低い建屋があった。
灰色のレンガを基調とした建物でおそらく天井の高い平屋、もしくは半二階やロフトのような設備のある高さかな、とうかがわせる屋根の高さだった。
外観は花壇や緑のツタ植物がトンネルを作っており、おそらくはバラのような植物を中心に植えられているのだと思う。
一見すると、魔女の館、とでも言ってしまえそうな佇まいだ。
魔道具店『エステルアリト商会』。
ロスの書いてくれた紹介状にはそう書いてあった。
俺は息をのみ、一歩踏み出す。
すると敷地内に入った瞬間、ひんやりとした空気が漂った。
おおよそ、花壇のあたりを境界に少し冷たい空気が漂っている。
もしかしてこれは魔道具か何かで冷やしているのだろうか。
植物の栽培に関しては良く知らないが、バラは確か繊細な植物とか聞いたことあった気がする。
しかし、見れば見るほど魔女の家だ。
入った瞬間おばあちゃんが大釜の前でイーヒッヒっとでも言ってかき混ぜていそうだ。
俺はそんなイメージを持ちながらも、意を決して扉をたたく。
「すみません。冒険者ギルドのロスに紹介されたのですが」
「空いてるよ。すまないが勝手に入っとくれ」
中からすぐに声が聞こえたのでドアノブに手をかけて力を込める。
聞こえた声は俺のイメージとは裏腹に若い声だったが。
扉を開けた先。小ぎれいにされた店内に鉢植えが並べられ、真ん中にある大きな机の上には数々の品が並んでいた。
奥のカウンターには一人の髪の長い女性が座って本を読んでいた。
彼女が店長だろうか?
「すみません。ちょっと魔道具を探していまして」
そういうと、女性がパタンと本を閉じこちらを向いた。
瞳は青。長い髪は緑に近い深い色。
そしてそれよりも目を引いたのは耳の形だった。
長く伸びた耳は俺が知る限りはエルフと呼ばれる種族のそれと似ていた。
あと、ドレスの開けた胸元からすごい圧力を感じる。
まるで服の中が狭くて窮屈だと主張しているようだ。
そんなことを考えていると、女性がいつの間にか俺の目の前に来ていた。
「……とりあえず、お茶」
はい?
彼女が俺の目の前に突き出してきたのはこじゃれたカップだ。
カップの中には薄い茶色の液体が湛えられている。
思った以上に彼女の背が低く、俺の位置からだとお胸が強調されて見える。
匂いはローズヒップティーに近い。まぁ、人生で2回しか飲んだことないが。
「は、はぁ……」
俺はカップを受け取り持ち手に手を付け口を付けてみる。
「……あ、おいしい」
素直にそう感じたので思わず声に出してしまった。
無言だった彼女はその様子を見ると満足したように椅子に戻っていった。
「それで?用件は?」
「あ、そうだった」
呆気に取られていた俺は彼女の言葉で我に返った。
懐からロスの紹介状を取り出して彼女に渡す。
それをさっと確認した彼女はすぐにこちらに目を戻し脚を組みなおした。
「どのような魔道具をお探しで?」
いや、座ると角度的にお胸の谷間がやばい。
吸いつくような玉の肌、とはこういう肌のことをいうのだろうか。
白く澄んでいながらも血色のいい肌は『不思議』と目線をくぎ付けにする。
「お客様?」
何も答えない俺を不審に思ったのか、彼女が問いかけてきた。
「あぁ、もしかしてお客様、エルフは初めてご覧になりますか?」
そういいながら、彼女が長い髪を少しだけ除けて耳を見せてくれる。
「え、えぇ。すみません。じろじろ見てしまって」
そういうことにしておいた。
エルフ耳に目を奪われたわけではないが、エルフを見るの初めてなので決して嘘ではない。
「かまいません。それで、要件は?」
「実は自分のステータスやスキルを確認できたりする魔道具がないかな?と思いまして」
「はい?」
彼女が変なものでも見たような顔をする。
「え?何かおかしいことでも言いましたか?」
「いえ。そうですね……。少々お待ちください」
数分して彼女が戻ってきた。
戻ってきた手には小さな青い半透明の球。
「使い捨てで良ければ。琥珀貨5枚です」
うっ。使い捨ての割に高い。
ま、まぁ、仕方ないな。
俺は財布代わりの袋から琥珀貨を5枚取り出し、彼女に渡した。
「確かに」
彼女はお金を受け取り、代わりに商品を渡してくる。
手に持ってみると、ビー玉くらいの大きさで青も一色ではなく、雲の様に様々な青が重なってこの色を出しているみたいだ。
「目をつむって握るだけで発動できる。ただ……」
そう彼女が言うので目を瞑って握りこんでみる。
するとなにやら球を持った掌が熱くなってくる。
それと同時に閉じた瞼の中に様々な文字が浮かび上がってきた。
『絶対王道』
『空間収納』
『貯蔵空間』
『超時間』
『食を力に』
なんだこれ?
もしかしてこれがスキルっていうやつか?
空間収納、貯蔵空間……は多分、あの倉庫みたいな空間と、空間から出し入れ自由の時間が止まった空間だろうな。名前的にはどちらがどちらか分かりづらいが、俺のイメージ的には空間収納が時間が止まってる空間ってイメージだな。
超時間はわからん。なんだろうか。時間を操るスキルかな?
で、問題は絶対王道と食を力に。
食を力には字面的になんとなく、食べたら力が湧く、つまりバフ系の能力だろう。
絶対王道はどうだろうな?
王道、王道……。
だめだ。分からん。
そうこうしていると手に持った球がさらに熱を帯びる。
いや、ちょっ、熱っ!?
その瞬間、パリンという音と共に、手の平に強烈な痛みが起こる。
痛てっ!?
驚いて目を開けると俺の手の平の中で球が割れていた。
そのせいか俺の手の平は血まみれになっていた。
「ごめんなさい。先に言えばよかった。発動するとそうなる。」
「いや、こちらこそすみません。聞かずに発動させてしまって」
そういいながら彼女は俺の手の平を取る。
やば。こんな美人に手を取られてるとか。
なんだかすっげぇドキドキするんですけど。
しかし、そんなことを考えている、俺にお構いなしに彼女はいきなり俺の手の平に緑色の液体をぶちまけた。
痛っ!?……く、ない?
気付けば手のけがはすっかり治ってしまっていた。
もしかしてポーションって奴か?
「琥珀貨1枚の低級の回復ポーション」
え、琥珀貨1枚!?
いや、この効果を考えるとそれ以上の価値はありそうだけど。
「今回は特別。タダでいい」
「それはどうも。……えっと」
「アリュシエール。アリュシエール・ロア・ミリアーノ・ウェル・アスタランテ。私の名前」
「あ、はい。俺はリュウと言います。リュウ・シノダです」
「そう」
そういうと、彼女は席に戻って本を読み始めてしまった。
いや、戻るんかい!
というか、エルフの名前ってそんなに長いのか。
うーん。覚えられる気がしない。
「えっと、それじゃ。俺はこれで帰ります。ありがとうございました」
「また来ると良い。強いものは歓迎する」
いや、強くはないんですけどね。
なんだか少しの不安を抱えながら、俺は店を後にするのであった。
主人公の能力ですが、実はここまでですべて一度は発動されていたりします。
どんな能力なのか予想してみてください。




