2-7.紹介された店、行商ウレルターノ
被服店を出てギルド方面に向かって進む。
とりあえず、朝市では服を手に入れたから次は武器だな。
それにステータスとかがわかる方法がわかれば万々歳だ。
……とはいったものの。
俺は武器の良し悪しはわからんし、そもそも相場すらわからん。
そうだ、ギルドにロスがいるはずだし、ロスに聞いてみるか。
まぁ、わからなくてもギルドならある程度情報は手に入れられそうな気もするしな。
せっかく着替えを手に入れたし、ギルドに行く前に宿屋にいったん帰って着替えてから行くか。
それから俺は着替えを終えて再び宿屋を出た。
あの爺さん、オクスファリオ氏の店で買った服はどれもよく体に馴染む。
サイズの粗さを感じさせない楽さだ。
それにこのグローブとブーツ。
弟子の修行用の品とか言ってたけど、使ってみるとちゃんとした品だ。
グローブは動かしやすい縫製がしてあるし、よく見ると現代の革手袋と同じように親指から手の平にかけて『アテ』がしてあるのに手の動きを阻害されることがない。
ブーツも粗雑なつくりではなく、コルクか何かで中敷きが作ってあるな。
履いていたスニーカーを使い続けてもいいんだけど、汚れがひどくなるからな。
とりあえずはこっちのブーツを使おう。
さて、ギルドに行くか。
ロスを探さないと。
俺はギルドにやって来た。
途中で銅貨1枚で販売していた串焼きを10本ほど仕入れて昨日の平パンを折りたたんで三本分ほど挟んで軽くつまむ。
塩味加減と焼き加減が絶妙で結構なお点前でした。
ん?あれは。
「ロス!」
俺はギルドの玄関前でロスを見つけて手を上げる。
「リュウ。おはようございます」
「おはよう。ロス」
若干あくび交じりのロスに返事を返す。
やっぱり、昨日遅くまで作業してくれていたのかな?
「すみません、こんな姿で。昨日急ぎの仕事をしていまして」
「えっと……、すまん。もしかしてそれって、俺のジャイアントボアだったり?」
「え?あぁ。いえ。気にしないでください。そっちはついででしたので」
「ついで?」
「昨日、夜中にオークが出まして」
オーク?
昨日は混んでいた奴かな?
「幸い、オークが襲ったのは高ランクの冒険者でしたから人的被害はなかったのですが。後始末に人員を割いたのですが指揮官が居なくてですね。臨時で私が指揮を執ったのですが」
なるほど。
「大変だったんだな。ご苦労様です」
「いえ、仕事ですから。あぁ、そうそう。リュウ、受取カウンターにジャイアントボアの無事な部分の買取報酬を預けていますので受け取っておいてください」
「ありがとう。で、仕事明けできついところ申し訳ないんだけど」
「はい?」
俺はロスに事情を説明した。
武器の目利きができないこと。
ステータスを見たりする魔道具がないか、という事。
相場が分からないので可能であれば信頼できる商人を紹介してほしい、ということだ。
「ふむ。……確かに、相場が分からないのであれば困りますね」
ロスが考え込む。
「わかりました。私でよければ協力しましょう」
ロスがいったん、ギルドに下がるがすぐに出て来た。
「知り合いの行商と魔道具店に紹介状と地図を書いておきました。お二人とも誠実な方ですので参考になると思いますよ」
「ありがとう。助かるよ」
「いえいえ。ギルドは冒険者を支援するのが本分ですから」
そういうロスはやはり若干眠そうだ。
これ以上無理をさせちゃいけないな。
「呼び止めて悪かった。俺は行くから仮眠でも取ってくれ」
「そうしてもらうと助かります。少し休もうと思っていたので」
おっと。
このまま一緒に入って、また仕事したりされても困るな。
先に商人のところに行くか。
俺は挨拶もそこそこに再び町へと向かっていったのだった。
うーん。
俺は書いてもらった地図を見ながら頭を捻る。
「本当にここで良いのか?」
俺の目の前にはいかにも富豪と言わんばかりのどでかい建物があった。
マジか。これ。
「おや?初めてのお客さんですかな?」
入口で立ち尽くしていた俺に一人の中年が声をかけて来た。
「あ、すみません。ギルドのロスさんからご紹介いただいて」
「坊ちゃんから?」
俺は紹介状を目の前の中年に渡すと中年は紹介状を広げて確認する。
しかし、坊ちゃん?
ロスってもしかして良いところのお坊ちゃんだったりするのか?
「なるほど。確かに。少々お待ちください」
え?
お待ちください?
いや、武器を教えてくれるだけでいいんだけど。
暫くすると、すぐに先ほどの中年が1人の青年を連れてやって来た。
え?誰?
「リュウ様。こちら我が商会に納品いただいているウレルターノ・ダ・ウェルチ殿です」
「え?あ、はい。よろしく?お願いします」
いや、俺、名乗ってない気がしますけど。
あ、ロスが俺の名前を書いておいてくれたのかな。
「あの?ヒックスさん?こちらの方は?」
「あぁ。すまんすまん。坊ちゃんからの御指名だ。こちらの方との直接の取引をお願いしたい」
「え!?いや、それはありがたいんっすけど、その、商会の規約とか……」
「かまわんぞ。坊ちゃんからの指示書付きだからな」
指示書って。
やっぱりロスっていいところの坊ちゃんなんだな。
「それでは、私はこれで。ほかに御用命がありましたら、またお声かけください。頼んだぞ。ウレルターノ殿」
そういうと、ヒックスと呼ばれた男は下がって行った。
「えっと、では改めまして。ウレルターノ・ダ・ウェルチです。コンフォート諸侯同盟のウェルチ村出身です」
「あ、どうも。リュウです」
「ヒックスさんからはナイフや武器をお探しとのことでしたが」
「そうですね。お恥ずかしながら目利きができないもので、ご教示いただければ助かるのですが」
実際、まったくできないからロスに紹介してもらったわけだが。
「では、こちらにどうぞ」
ウレルターノ氏が俺を奥へと促したのでついて行くことにする。
敷地内には馬車がいくつか並んでいた。
なるほど?
どうやらこの建屋の庭は一方通行と待機場で構成されているようだ。
出口は……多分、俺のいる入り口側に1つとまっすぐ行った奥に1つって感じかな?
待機場の一台にウレルターノ氏は近づいて行った。
「うちはそれなりに荷が多かったので、荷揚待ちをしていまして。まだ馬車にありますからちょうどよかったです。えっと、リュウさんは普段どんな武器を探しているんですか?」
どんな武器を探しているかだって?
困った。
別段、得意な武器なんてものはない。
なんせこっちは素人だ。
あえて言うなら、先ほど使っていた剣やナイフなんかがあったらいいんだけど。
「剣……、ですか。あいにく今は在庫を切らしておりまして。槍や大鎌ならあるのですが」
大鎌って。
なんだそれ。
お前は死神か。
「あ、そうだ。ちょっとお待ちください」
何かを思い出したようにウレルターノ氏が声を上げた。
なんだ?
「えっと、売れ残り品で悪いんですが。こんなのはどうでしょうか?」
売れ残り?なんだろ、一体。変なものじゃなければいいんだけど。
ウレルターノ氏が取り出したのは見た目は片刃の剣だな。
「え、剣。あるじゃないか」
「あ、いえ。これって剣じゃなくてですね……実は、包丁なんです」
は?包丁?
「本当はルヴァロアのギルドの解体現場に納品する予定の品だったんですが、発注した方が結構、難のある方でして。更なる改良を求められまして……」
難の有る?
というかそれって要は品質足りずに返品されたって事では?
「ははは……。まぁ、そうですね。ですが、ギルドに納品予定の品だったので品質は保証できますよ」
受け取った剣……包丁を握ってみる。
片刃の包丁。包丁とは言っているが刃渡りは約75センチ。
現代の傘と大差ない長さの鉄の塊だ。
肉屋の牛刀やマグロの解体包丁に近いかもしれない。
柄の部分に剣のようなガード(鍔)も付いており、これなら脂や血で手が滑っても指を落とす心配がない。
しかも、刀身の真ん中に真っ直ぐ太い溝が彫ってある。
ただ、これはもはや剣と言える代物ではないか。
「本来は魔物を解体する用途に使う目的で作っていたのですが……」
確かに、あのジャイアントボアのサイズを考えればこのくらいの包丁になってしまうのだろうか。
俺は握った剣……包丁を持ち上げたり振ったりして見る。
もちろん周りに人がいないことは確認して、だ。
ずっしりとした重量だが意外なまでにしっくりとくる。
うん。振って使う分には悪くないと思う。
正直、昨日使った両刃の剣より手に馴染む。
それに元が包丁なら解体にも使えるんじゃなかろうか。
もちろん自分で解体するかは分からないが。
保管できる空間がある以上、普段はギルドの解体所を利用するだろうし。
「どうです?売れ残りなんで今だったら安くしときますけど。ついでに包丁類とかどうですか?」
「いいですね。いただきましょう」
「えぇ!?本当にいいんですか!?」
俺の即答にウレルターノ氏が驚く。
何をそんなに驚くことがあるのだろう。
「言っちゃ悪いですけど、これ売れ残りですよ?そちらのご負担になりませんか?」
なるほど、こちらの負担を考えての事だったか。
すごく誠実でいい人に思えて来た。
「えぇ。これで構いません。おいくらですか?」
「えっと、負けに負けて金貨2枚で。包丁を二本つけましょう」
「わかりました。ではそれで」
俺はウレルターノ氏に金貨2枚を渡し、75センチの大型の包丁と普通サイズの万能包丁、四角い中華包丁のような包丁、そして大型の解体用ナイフを購入した。
短剣のような両刃の刃ではなく、片刃の剣鉈に近いものだ。
昨日、解体の際に気づいたのだが、どうも両刃の刃物は力が入れづらく感じたのだ。
「あ、ありがとうございます。あの良ければ私どもは半年程度に一度こちらのセブンリング商会さんに生活鍛冶品を卸していますので、ご用命があれば商会さんの窓口に予約を入れていただけると助かります。切れ味が悪くなったら、ここの商会に持ってきてもらえばご紹介して研ぐことができるかと思います。あと……私の事はどうか敬語は抜きにお話しください。そちらの方が慣れていますので」
「わかりまし……わかった。何かあれば真っ先に頼るよ」
こうして俺はウレルターノ氏から包丁(剣)を買い付け、ほくほく顔で次の紹介された店舗へと向かって行ったのだった。




