2-6.路地裏の仕立て屋
投稿が遅くなりました。
申し訳ありません。
ん~~~!
よく寝た!
いやはや。ベッドの有難みがわかるな。
たった一日、外で寝ただけなのに全然違うように感じる。
さて、今日はギルドに行くのもあるが……。
もう一つ。やっておかないとな。
俺は準備を整える。
……といっても、昨日手に入れた金貨や銀貨の袋だけなんだが。
俺の経験的にはこういうのは朝の方が良いんだよね。
俺は部屋にカギをかけて1階に降りる。
「おや?お出かけかい?」
「えぇ。ちょっと市場とギルドを見ようと思いまして」
「なるほどね。あぁ、朝市ならここからギルド方向に行ってそのまま通り抜けて、しばらく大通りを進んだら朝市の会場にたどり着くと思うよ」
「ありがとうございます」
女将さんに挨拶すると俺は玄関から出て行った。
そう!俺は朝市に行くのだ!
ギルドに拾った武器を納品したせいで武器もナイフもないしな!
どうせギルドで仕事を受けるんだから最低限の装備は整えておきたい。
と、いうことで。
やってきました市場!
手持ちは金貨5枚、琥珀貨8枚、銀貨3枚。
俺の知識と照らし合わせるならば、平民はきっと計算に弱く、商人はこちらを侮っておつりをがめってくるだろうから、出来る限りおつりは必要ないように買い物したい。
さってさて。なにがあるかな♪なにがあるかな♪
広場には良い匂いが立ち込めている。
これは肉を焼く匂いだな。
ま、今は肉じゃない。
腹は減っているが肉の気分じゃない。
どっちかって言うとパンの……。
あっ。そうか。
俺はパンを保存スペースから取り出してみる。
少し齧り、市場の様子を見ながら歩いて回ってみる。
「さぁ!アデリシア王国から輸入雑貨が入ったよ!早い者勝ちだ!」
「今朝捌き立てのオークだ!腹と背中の良いところだよ!」
「今日は木工ギルドの出荷の日だ!日用雑貨を買うなら今日だよ!」
「さぁ、冒険者御用達!ロングソードにショートソード、斧に矢に槍!色々あるよ!」
オーク!
今の呼び込みの声からするとやっぱり喰ってるのか?
美味いのか?オークって?
昨日見た感じそこまでがっつりは食べたくないビジュアルしていたんだけど。
あの二足歩行の豚。
……それにしても。
ここにあるのは屋台だよな?
屋台に刃物売ってるのはありなのか?
ちょっと覗いてみるか?
「お?どうだい?旦那?このロングソードなんてアスタランテの工房主が腕によりをかけて作った品だよ?」
へぇ。
これがアスタランテの工房主が……。
俺は剣を取り、空に掲げてみる。
日の光が剣の刃を逆光ぎみ輝かせる。
これが。これがねぇ……。
……やばい。全くわからん。
よく考えたら剣の良し悪しなんて俺がわかるわけなかったわ。
金額は……金貨2枚か。高いのか安いのかわからん。
こっちのナイフは琥珀貨2枚?
ロングソードがナイフの10倍の値段で買えるって言われてもそれが相場かどうかも分からないしな。
そもそもナイフの相場がわからん。
うーん。
「すまない。またの機会にしとくよ」
「そうかい?それにしても兄ちゃん。もちっとマシな服を着ときな。血まみれじゃねぇか」
血まみれ?
あ、そうか。
簡易エプロンのかかってなかったところは血が掛かってたか。
確かに袖とかはかなり汚れてるな。
「そうだな。先に仕立て屋にでも行ってみるよ」
「そうか、ならここより西側の通りが良いよ。あっちなら仕立て屋の屋台も出てるからね」
「ありがとう。行ってみるよ」
そう屋台の店主に礼を言って、店を後にする。
剣の良し悪しはわからなくても、流石に自分の服くらいなら自分で買えるしな。
うん?
なんだか視線を感じる?
どこだ?
左右を確認する。
さすがに露骨にこっちを見ているような人は、いないな。
物陰は……、たくさんあり過ぎてわからないな。
うん。分からん。
まぁ、気にしてもしょうがないな。
金はとられないように収納空間に入れておけばいいし。
軽く空を見上げてみる。
この辺りは結構建物の背が高いな。
あれ?
何となく見上げた建物の、多分屋根裏の窓が動く。
なんだろう。
なんだか無性に気になるな。
市場から少し外れた裏通り。
建物が高いから、影になって他の通りより、なお暗く感じる。
ザ・裏路地って感じだ。
しっかしなぁ。
ものの見事に人がいない。
一本入るだけでこれだけ人がいなくなるのか。
看板を見る限り樽ジョッキみたいなのが多く書いてあるからこの辺りは飲み屋街なのかな?
おや?ここは?
立てかけられた看板には服のような絵とラベンダーの絵が描いてある。
なになに?
『四つ角のラベンダー被服店 アスタランテ支店』?
ちょうど服が欲しかったし、此処に寄ってみるか。
扉のOPENの表示を確認しつつ、ドアを開ける。
暗い……というほどではないな。店内は何か照明のようなもので照らされている。
被服店というだけあって中には結構な数の服と布が並んでいる。
「ん?客か?仕立てか?」
俺が歩みを進めると、階段の上から男が一人おりてきた。
かなりご年配の男のようだが。
「とりあえず、替えになる服を一式を一セット……いや、二セットと下着の類があれば」
「ふむ。とりあえず、すぐ必要だったら出来合いのものでいいか?」
「えぇ。助かります」
年配の男は数ある棚の中からいくつか服を選び出してくれる。
棚にはそれぞれ大・中・小・子供と名札が打ってあり、その中の『中』の棚のなかからいくつか服を選びだしてくれる。
「お前さん、新人冒険者か?」
年輩の男が棚から服を探しながら声をかけて来た。
「えぇ。昨日登録したばかりで」
「はっ。どおりで」
「?」
「お前さん、解体するときその服をそのまま使ったんだろ?血がべっとりじゃねぇか」
ん?あぁ、そうか。これが気になってたのか。
「ほれ、とりあえずこれでも着とけ」
年輩の男が服を投げて寄こす。
七分の丈夫な服、薄手の長袖、これまた丈夫な長ズボン。これが2セット。
「袖やら肩の細かい調整は適当に紐でも通してくれ」
紐?たしかによく見ると紐を通す穴もついてるな。
それに作りも悪くないように見える。
いや、むしろかなり上等なものに見えるな。
肌触りが絶妙というか。それにほつれの一つもない。
作った職人の仕事の丁寧さが伝わってくる。
「下着は……、まぁ、そっから好きなの選んでくれ」
「えっと、じゃぁ適当に」
俺はワゴンのような平台に適当に突っ込まれた下着と半袖のシャツを3枚ずつ取った。流石に下着はちょっと多めに確保しておこう。
いや、しかし……。
これ、全部男用かな?
俺の知っている中ではトランクスに近いが。
多分、仕立てはリネン生地っぽいよな。
そうやって見てみるとワゴンの端に札のようなものが見えた。
男女兼用。男女ともシュミーズは店員まで。
……え、これ男女兼用なのか?
大雑把というかなんというか。
おや?
店員の男が俺の腕を横に伸ばす。
「ほれ、しゃんと伸ばさんか」
「え、いやあの?」
そのまま男が俺の採寸を始めた。
あまりの急な事態に俺は相手の為すがままになってしまった。
上から下まで、あっという間に採寸が終わってしまう。
す、すごい速さだ。
「これで、必要な時にうちの支店に来てくれれば仕立ててやれるぞ」
「あ、ありがとうございます。おいくらですか?」
「そうだな……。全部で銀貨15枚で良いぞ」
……ってことは、琥珀貨1枚と銀貨5枚か。
なら……。
「琥珀貨2枚で」
俺は琥珀貨を2枚取り出して男に渡す。
「ふむ、ならこれも持っていけ」
琥珀貨を受け取ると男がいくつかモノを寄こしてくる。
「マントの厚手に薄手、グローブとブーツ、後はほれ、鞄ぐらいもっておけ。おまけしておいてやる」
そういって肩さげのカバンと銀貨を5枚寄こしてきた。
「良いのか?」
「弟子の修行用の品だ、気にするな。まとめ買いのおまけだ」
「そうか、ありがとう……えっと」
「オクスファリオじゃ。『四つ角のラベンダー被服店』のオクスファリオじゃ」
四つ角のラベンダー被服店のオクスファリオ、ね。
出会いは一期一会。
この良い出会いに感謝しつつ、俺は路地裏を後にした。




