2-5.夕食と夜の仕事
「お、ようやく降りて来たね」
一階に降りると、ちょうど女将さん、モリーブさんが給仕しているところだった。
1階のフロント兼食堂には10人そこそこの人がいた。
「さ、さっさと片付けとくれ。おかわりはセット売りだからね」
そういって俺のついた席のテーブルにモリーブさんが料理の皿を持ってくる。
メニューは濁った具材たっぷりの緑色のスープに、茶碗くらいの大きさの皿に入った野菜の酢の物、それにお好み焼きのような物。
「今日のメニューはグリンピースのスープにキャベツのザワークラウト、メインは肉を入れたパティッツォだよ」
「パティッツォ?」
「あぁ、ここから南の方の国じゃ、大きな建物の事をパラッツォとかパラティーノって言うらしいんだけどね。そこで出されていた料理が原型らしいのさ。まぁ、この辺じゃ作った店によって味が変わっちまうんだけどね。」
「味が変わる?」
「塩気が強かったり、ソースを使ってたりさ。ちなみにうちはこの昔からの継ぎ足しソースだよ!それにチーズを入れていてね、なかなかに好評だよ」
この茶色いのはやっぱりソースか。
俺は備え付けられた木製のフォークのような物を取る。
フォークって4本爪かと思ってたけど、ここにあるのは3本爪。
これじゃパスタは食べづらそうだな。
木製フォークを横に倒して少しカットする。
すると生地の下から輪切りのジャガイモが出て来た。
おぉう。これはすごいな。
ジャガイモに小麦粉のお好み焼きのような生地の中には野菜や肉がたっぷり。
更にチーズを挟んでいるのか。
とりあえず一口。
う、……うーまーいーぞー!!!
思わず口からビームが出そうなほど美味い!
芋の甘みと野菜、肉の旨味がたっぷりしみ込んだ生地。
そして、野菜などの旨味がたっぷりと出たこのソース。
ほのかな甘みも感じる。
ウスターソースに近いのだろう。
そして何より、明らかに鉄板で焼いたらしき、この見た目。
鉄板で焼いた、というのが特に素晴らしい。
鉄板で焼いてある、つまりこれは実質、焼肉だ!
俺は今、この世界で初めてのお店焼肉を食しているのだ!
すばらしい!
俺の食欲は、今、頂点に達している!
そしてこの付け合わせのザワークラウトっぽい野菜。
(……いや、キノコが入ってるな。とりあえず一口)
……っ!? なんだこの深い旨味は!酢のようなツンとくる酸っぱさじゃない。
塩とキャベツが自然発酵したまろやかな酸味だ!
そこにキノコの出汁がガッツリ効いてて、ただの漬物じゃなく、これだけで立派なおかずになってる!
すげぇ!!いや、まじ、すげぇよ。この料理。
これはスープの方も期待が……。
豆の甘みと野菜の旨味がしみ込んでる!
多分味的には塩だけだろうけど、それを感じさせないほど美味い!
流石、ロスが勧めるだけの事はある。
これなら何セットでも食べられそうだ!
俺は次々とフォークを進める。
やばい!まじで止まらない!
これだけ美味いとマジでいつまででも食えそうだな。
おや?
いつの間にかザワークラウトとパティッツォが無くなってしまった。
くそぅ。
「どうだい?お兄さん?口には合ったかい?」
モリーブさんが大量の皿を抱えながら俺に聞いてくる。
体幹すごっ!?
よくその状態で静止してられるな?
「えぇ。驚きました。まさかこれほどおいしいとは思いませんでした」
「あら?うれしいこと言ってくれるね。おかわりはどうだい?ま、セットになるけどね」
「ぜひ。……って、あぁ!?」
「うわっ!?びっくりした。どうしたんだい?いきなり?」
「いや、さっき食べた時にパンを出すのを忘れてて……」
なんか大したことでもないのに一気に気分が落ち込んだ。
めっちゃショックだわ。
絶対美味しかったに決まっている。
「なんだい。それじゃ、もうワンセットは食べないとね」
「えぇ!もちろん!」
1セットといわず、3セット持ってきてください。
そうして俺は一人、炭水化物の海に溺れていくのだった。
食事を終えて俺は一人部屋へと戻って来た。
ここの夕飯、実に満足度の高い食事だった。
濃い目の味は肉体労働の後には体に染みる味で非常に良かったし、屋台のパンもサクッ、フワッ、モチッとした食感でこれはこれで良かった。
予想通り、フォカッチャに近い食感で癖になりそうだ。
味の濃い料理に合わせる為か、若干薄味なのもポイントが高かった。
女将がパンは別のところで買えと言っていたが、うまいこと二つの味が調和しており、この辺りは地域で一つの味を作り出しているのかもしれない。
俺はガラスでできた窓を開ける。
さわやかな夜の風が吹き抜ける。
そういえば異世界だからと思って普通に窓開けたけど、俺、花粉症持ちなんだよな。
まぁ、森にいたときに発症してないし、あの独特な鼻と目の不快感がないから問題ないと思うけど。
ロスや町の人の会話を聞く感じ今は春らしいし、森で発症しなかったから多分大丈夫だろう。
俺はふと空を見上げた。
「こんな空、現代じゃ絶対拝めないよな」
空には満天の星空。
俺たちの世界でいうと天の川のようなものだろうか。
一つの帯となった星々が雄大にその輝きを放っている。
二階だからか、少し狭い空だが、見る分には十分だ。
昨日の野宿の時はそれどころじゃなかったから見られなかったけどな。
少しもったいないことをしたかもしれない。
次に野宿するときはしっかりと確認しておこう。
ん?
俺の窓のすぐ下を馬車を含む台車の集団が通るところだった。
俺の部屋は宿の玄関側の玄関から向かって右側に窓がある。個室唯一の角部屋だ。
俺たちがギルドから来た方とは反対側から、ギルドのほうに向かっているのだろうか。
あ、あれはロスか?
馬車集団を指揮しているのか?
馬車には豚、……いやあれはもしかしてオークか?
豚のような顔に大きな人のような体、明らかに二足歩行する骨格だ。
しかし、成人向けでよくいる毛のない奴だったか。
あれ?あれは俺が仕留めた……ジャイアントボア?
半身だけ切り出された体に、半分ちぎれた首。それと……。
うっ……!
二階までに追ってくる、尿や体液の匂い。
間違いないな。俺が仕留めた奴の残りだ。
あんなものどうするんだろうか。
しかし、若干小ぎれいになっている気がする。
もしかしてこの通りの奥に洗い場でもあったのだろうか?
そういえば魔石がどうたらって言ってたな。
すぐに対応してくれたんだな、ロス。
台車の数は計4台。
内1台は俺のジャイアントボア。
他の3台はオークと思われる生物だ。
「みなさん。大変だとは思いますが、腐りかけのジャイアントボアを優先的に運び込んでください。なるべく素材を無駄にしないように。オークは血抜きしてあるので多少なら大丈夫なはずです。第二解体所へ運び込んでください。あぁ、部長から第二解体所の鍵をもらってきてください」
しかし、夜も働いているのか。
きっとこの世界も、こういう風に昼夜問わず働いている人に支えられて経済が回っているんだろうな。
働いてくれているロスたちに感謝しつつ、俺は疲れをいやすために、ベッドに横になったのだった。




