2-4.アスタランテで宿泊
「すみません、リュウ。時間がかかってしまって」
「いや、まぁ。仕方ないよ」
ギルドで手続きをしていると日が完全に傾いてしまった。
俺は自分のギルドの棒証をロスから受け取り、ギルドから町への道を歩く。
大通りとは反対側、町の奥へと続く道だ。
俺は棒証を空にかざす。
木の棒に小さな青い石が付いている。
青い石に光が透過してキラキラと光る。
これが冒険者としての身分証になるらしい。
……ちょっと感動。
「一応、無くさないようにしてくださいね。再発行はなかなか手間ですから。あと先ほど説明した通り、規定で初めはGランクからのスタートです」
「それはわかってるよ。今度、紐か何かで括っておくよ」
先ほど受けた説明では、登録したてはGランク。
Gランクは所謂試用期間で1ヶ月中に3つの依頼を達成すると卒業し、そこからE、D、C、Bと来てAまでがギルド証、つまりは冒険者のランクらしい。
ちなみにFがないのはFは非常事態が起きた際のギルドの手伝いをしてくれる人たちに配る臨時の棒証だかららしい。
一応、この上に特級があるとの話だが数えるほどしかいないらしいので気にしなくてもいいと言われた。
つまり冒険者ランクとしては一番上はAという事だ。
ランクに合わせて棒証の素材も変化するらしく、上のランクほどよい素材を使っているので見栄えもいいらしい。
ちなみに、棒証に付いている石は魔石の欠片で、文字情報などを記録する機能と生体情報を記憶する機能があるそうだ。
へぇ。魔石ってそんな性質あるんだ。
「あぁ、伝えるのを忘れていました。貴方が倒したジャイアントボアですが、こちらで魔石の回収に向かわせています。次からはせめて魔石は回収しておいてください」
「回収って。んなこと言われても俺、解体もできないし」
「そうでした……。まぁ、解体は最悪ギルドで銀貨1枚で可能ですので運んでいただければなんとかしましょう」
ギルドはそんなサービスもやってるのか。
そういえばさっき解体場とかあったな。
てっきり解体場を使って自分たちでやらなきゃいけないのかと思ってた。
「ちなみに、今回の出張のように買い取る金額から引くこともできるので積極的に利用してください。解体する時間はかかりますがね」
なるほどな。
そうなってくると益々、あの猪を丸々納めなかったことが悔やまれてくるな。
……まぁ、あの時はこの収納できる能力知らなかったから仕方ないんだけどさ。
「さぁ、着きましたよ」
ロスが俺に声をかけてくる。
うん?
着いたってどういうこと?
「今日はもう遅いですからね。ここは私一押しの宿ですよ」
宿。
そういえば考えてなかった。
これはありがたい。
幸い、金はある。
金貨にして5枚と、琥珀貨と銀貨に両替して銀貨で2枚支払い済み。
つまり、現状金貨5枚と琥珀貨9枚、銀貨8枚。
両替なんかは手数料がかかるらしいから出来れば琥珀貨で支払いたいな。
「女将、新規客を連れてきましたよ」
「なんだい、ロスかい。最近ご無沙汰だったじゃないか」
「すみません。ギルド職員っていうのは色々しがらみがありまして。今日は私個人としてきていますので」
「なるほどね。ま、お客さんならうちは歓迎だよ」
ロスと女将が仲良さそうに話す。
恰幅の良い、いかにも女将といった感じ。
「紹介します。リュウ、こちらはここ『鉄板街灯亭』の女将さん、モリーブさんです。ここは値段も手ごろで料理も良い。とても良い店ですよ」
「あら、うれしいこと言ってくれるね。おだてても何も出ないよ」
「いえいえ、正当な評価ですよ」
へぇ。
ロスはこの宿をかなり高く買ってるんだな。
「それで、宿泊に空きはありますか?」
「そうさね。今朝宿泊の商隊が出て行ったから、個室も大部屋も開いてるよ。個室は2泊3日で銀貨7枚、大部屋は今日は銀貨3枚で泊まれるよ。どっちも夕食付さ」
なるほど。うん?
「2泊3日が基本なのか?」
「えぇ。2泊3日はギルドが冒険者にお勧めしている泊まり方でもありますので、国中どこでも似たような感じですよ。到着日は何時か分からないですので、2日目にギルドへの報告と準備、3日目を準備と出発と推奨しています」
そうなのか。
ま、この国の常識みたいな感じかな?
覚えておいて損はないだろう。
いずれにしても今日のところはとりあえず、手持ちで支払える金額で払った方が良いよな?
「えっと、そしたらとりあえず2回分、4泊5日でお願いします」
俺は琥珀貨1枚と銀貨を4枚出す。
「はい。確かに。あぁ、そうそう。うちは夕食にパンは出さないからパンが必要だったら近くの屋台で買ってきな。出て右手の角の屋台がおすすめだね。これが扉の鍵だよ。無くしたら琥珀貨3枚必要だから注意しな。あと、個室への連れ込みは禁止じゃないけど事前に教えておくれよ。シーツの準備があるからね。部屋は2階の右手の一番奥だよ。じきに夕飯を出せるから買うなら今のうちに買ってきな」
「あ、はい。わかりました」
「ではリュウ。私は一旦ギルドに戻ります。明日にでも一度ギルドに顔を出してください。仕事を紹介しますよ」
「了解。気をつけてな」
「ありがとうございます」
そういって俺達は別れた。
俺は女将さんにカギをもらって先にパンを買いに出た。
本当は焼肉がいいけど、こういう泊まり先での食事もいいよね。
「じゃあ女将さん。パンかってすぐ戻っていますんで」
そう女将さんに声をかけて俺は町へと向かった。
宿を出てすこし大きな通りの方へ歩く。
どうやらこの辺りは旧道なのか道の広さの割には圧迫感を感じ、埃臭い。
後、若干だが鉄の匂いと油っぽい匂いがする。
恐らくだが、この辺りは昔は街中の交通の基点の一つだったのではないだろうか。
要はここは街中では旧道なのだろう。
俺は女将さんに言われた通り、角の屋台の近くまでやって来た。
そこには木組みの簡易的な屋台があり、屋台ではパンというには平たい何かが並べられていた。
イタリアのフォカッチャみたいなものか?
「らっしゃい!1個で銅貨1枚だよ」
銅貨1枚。ってことは銀貨で買おうと思ったら10枚は買えるのか。
まぁ、買ってても損はないか。
「じゃぁ、10個くれ」
昨日の感じだと俺の保存容量的な奴は時間経過ないみたいだし。
「はいよ。持っていけるかい?」
「あぁ、大丈夫」
ん?あれ?
保存容量的な奴ってそのまま人前で見せていいんだろうか?
まぁ、ロスもあまり驚いてなかったし大丈夫か。
俺はとりあえず、買った10このパンを保存容量のなかに収め銀貨を1枚渡した。
「まいど。へぇ、マジックバッグ持ちとは羽振りがいい冒険者だな。まとめて買ってくれたからこいつはおまけだ」
そう言ってパン屋が小さなみかんのようなものをくれた。
「なんだ?これ?」
「これは、冬から春先に食べるアローネっていう果物さ。葉はハーブとして人気なんだが、実はあまり食べられてないんだ。けど、酸っぱ甘くて口の中を爽やかにしてくれるいい味の実なんだぜ」
なるほど?
食後のガムみたいなものか?
「それなら、ありがたくもらっておくよ」
そう言って俺はパンと果物を買い、宿へと戻った。
宿に入ると、女将さんに促されて先に部屋に行くことにした。
と言っても荷物はないからなぁ。
部屋を見渡すと、ベッド、窓際にテーブルとイス、クローゼットが一つ。
随分とシンプルな部屋だ。窓はガラス製でカーテン付き。
うん。良い部屋だと思う。
昨日の馬車の荷台野宿に比べたら圧倒的だ。
「リュウ君!食事の用意ができたよ!降りといで!」
「はーい!」
女将さんからの声が下の階から響く。
明日はギルドに行かなきゃな。
それに、ナイフや武器も買っておかないとな。
思わぬ収入もあったし、ロスに聞けばわかるかな。
あと、服も買わないとな。
なんだかんだで埃と血で汚れてるしな。
解体の事を考えると皮の手袋とかエプロンも欲しい。
これだけ大きな町なら鍛冶屋もあるだろうから、鉄板や網も作れるだろう。
そうすれば、ようやく焼肉が食べられるな。
ま、しばらくはこの宿にお世話になるわけだし。
ゆっくり楽しもう。
窓の外の異界の景色に俺は静かにそう思うのだった。




