2-3.遺品と傷跡
「ちょ、ちょっと落ち着いてください!ランプさん!」
受付のお姉さんが爺さんを止めてくれる。
「お、おぉ。すまん……」
お姉さん、ローヌさんが止めてくれたおかげで、爺さんがクールダウンしていく。
というか、この爺さんさっきまで酔っぱらってたのに、一気に酔いが醒めたって感じだったが。
「とにかく、お前さんいったいどうやってこの剣と短剣を回収してきた?」
「どうって、森の中で遺体から借りたんだ」
「遺体とな?はは……。なるほど。……よし。少し待っておれ。ローヌ、少し買い取りは待て。すぐに準備を整える。リヴィエラ!」
なんだか爺さんがあっとゆう間に別の窓口の方に走って行ってしまった。
一体何だったんだろう?
何だろうと、思っているとすぐに戻って来た。
「ローヌ!手続してきたぞ!処理してくれ!」
「はい。お受けいたします……、これは」
処理ってなんだいったい?
「納品依頼、森の深部、指定物品、セブルスさんの遺品の納品ですね。という事はもしかしてこれが?」
爺さんが静かに頷く。
遺品の引き取り。
あ、もしかしてこれのことか?
「間違いない。柄の紋章もある」
柄の紋章?
そういえばなんか凹凸があったな。
「この紋章はな、儂とセブルスが依頼の魔物討伐で功を挙げた際に、ルルエ男爵閣下から頂いたものじゃ。見間違うはずもない」
へぇ、そんな立派なものだったのか。すみません、解体とか、足取りの目印に使って。
「ではこちらの買取を……き、金貨3枚ですか!?」
「それでも、足らぬくらいじゃろうて。儂にはそれ以上の価値のあるものじゃが、今はこれしか手持ちがなくてな。3ヶ月誰も受けてくれなかった深部への同行依頼。そればかりか遺品の回収まで、感謝してもしたりぬ」
あー、なるほど。
察するにこの爺さん、ランプ氏はあの遺体の関係者だったわけか。
それで、俺が遺品をもってきたから絡んできたってわけね。
「それで、感謝ついでで申し訳ないが、もしよければ深部への同行依頼を受けてはくれぬか?」
「同行依頼?」
つまりまたあのでっかい牛とか、ティラノっぽい奴とまた出会わないといけないって事で。
できれば、ご遠慮したいところではあるけど。
俺まだ冒険者ですらないし。
ただ、俺しかあの場所に案内できる奴もいないわけで。
……どうしたもんかな。コレ。
「待ってください。同行は許可するわけにはいきません」
いつの間に戻って来たのか。
ロスが同行依頼の件でグダグダやっていた、俺たちに声をかけて来た。
「ランプさん。貴方ならわかっているはずです。新人、それも今日登録したばかりの彼にあの森への進入許可は与えられません」
え、そうなの?
じゃぁ、どのみち無理……。
「あっ……」
「「「あ?」」」
俺のつぶやきに、その場の全員が俺の方を見る。
うん。気になるよね。
ごめんよ。他意はないんだ。
ロスが一歩、俺の方に踏み出してくる。
「リュウ。怒らないから言ってみなさい。何をやらかしました?」
「いや、やらかしたって。そんな。言いがかりだよロス」
ロスの顔がもう一歩、俺の方に踏み出してくる。
怖いです。顔が怖いです。
あと、その書類を丸めたものは納めてくれませんかね。
「いいから。とりあえず、言ってみなさい」
「いやー。なんと言いますか。実は気が付いた場所から遺体まではあんまり覚えてないんだけど、遺体を見つけてから森の外までは目印をですね……」
「目印?というか気が付いた場所から、とは?」
「あー、森の奥で何かでっかい赤い鬣と黒い牛とティラノサウルスに追っかけられて……」
「……ちょ、ちょっと待ってください!色々聞きたいことはありますが、そもそもティラノサウルスとは?」
「あれ?知らない?二足歩行のトカゲ」
「あの……、それってひょっとして……ブラッディヘビーホーンとタイラントラプトルじゃ……」
「まてまてまて、まさかお前さん!『暴君の森』の最深部から生き延びたのか!?」
いや、何その怖い名前。
もしかして、あの牛とティラノはヤバい奴なのか?
「……という事は、リュウは『暴君の森』の三大魔物から逃げ延び、あまつさえその内の一体を単騎討伐したという事に……」
「あ、ロス。私、ちょっと頭痛くなってきたから裏に下がるわね」
「いや、待ちなさい、ローヌ。それは私も同じです。我慢しなさい」
「儂、ちょっと酔いが回って来たから向こうで休んでおっても良いかの?」
「おい、じじぃ。いまさら逃げんな」
ロスがいきなり口が悪くなるが、こいつ、さっきの書類叩きの時の冒険者の反応と言い、さては冒険者に対しては結構きつめだな?
っていうかなんでランプ氏が引くんだよ。
森の奥に行きたいんじゃなかったのかよ。
「はぁ……。良いですか、リュウ。『暴君の森』は三つのエリアに分かれています。深部、中層部、低層部です。こちらのランプさんが行きたいのは中層部、今日貴方と出会ったのは低層部の外です。本来ならジャイアントボアがあのような場所にいること自体、おかしな話なのです。ジャイアントボアの生息域は中層部。ブラッディヘビーホーンとタイラントラプトルは中層部から深部にかけて生息しています。つまり、リュウ。貴方は冒険者になる前から『暴君の森』の深部から低層部まで生きてかえってきたことになります」
へぇ。そうなの?
まぁ、あの森、マジちびりそうになるほど怖い奴ばっかりだったからな。
「まぁ、平たく言って頭がおかしい人として認定できますね」
「頭がおかしいって!?」
あまりの言い分に思わずのけぞってしまった。
「ま、まぁ。それは良いです。それで?」
「それで?」
「まだ何かあるのでしょう?あなたは先ほど、目印と言いましたから」
「あぁ、そのことか。剣を借りてからずっと剣で木に傷をつけ続けててさ」
それを聞いたロスがクイっと眼鏡を直す。
「つまり、それを辿れば……」
「そういう事」
俺は剣を手に入れてからずっと木に傷をつけ続けた。
だから俺が辿ったルートをたどることは理論上は可能なことだ。
あとは。
「その痕跡を余すことなく見つけられるか。ですね」
そう、その問題がある。
俺だってそのことは考えていた。
俺は確かに傷をつけ続けていたが、それを見落とさず進めるかは話は別だ。
「そういうのはそれこそ冒険者にプロがいるんじゃないか?」
「そうですね。……分かりました。リュウは情報提供者としてチームに加わってもらうとして。ローヌ、探索が得意な冒険者に片っ端から声をかけてください。それと、短期間でもいいので森に入れる方々にお声かけを」
「わかりました。すぐに招集を掛けます」
「リュウ。貴方には色々聞きたいことがありますので、もうしばらくお付き合い願いますよ」
う……。は、はい。
結局。
俺が、ギルドを出られたのは日が傾きかけてからだった。




