2-2.ギルドの窓口
「向かって正面が各種依頼などを請け負ったり、逆に依頼を出したりするための窓口です。左手の階段の下に掲示板がありますので、文字が読める冒険者はあちらで依頼を探しますよ。二階はギルドマスターの部屋などがあります。右手側は金銭の受け取り窓口と、討伐証明などの提出窓口が……って、リュウ?聞いていますか?」
鼻腔をくすぐる、かぐわしい匂い。
それは肉を焼いている匂いだ。
俺の最も長い趣味であり、好物。
そして、俺が最も研究しているものでもある。
そう、焼肉の匂いだ!
「ロス!焼肉だ!焼肉を喰うのだ!」
俺は思わず天を仰いで叫んだ。
そう、肉を食わずして何を喰うのだ!
ちなみに俺は醤油系ダレ派ではあるが味噌系や塩系も否定はしな……。
スパンッ!
俺の額を書類か何かの束が叩いた。
おぅふ。
良い音したぁ……。
どうやらロスが俺の頭を書類で叩いたらしい。
「いてぇ……。何するんだよ、ロス」
「それはこちらのセリフですよ。急に暴れないでください。他の冒険者の皆様に迷惑ですよ」
いや、それにしたってこんな本気で叩くなよ……。
「うわぁ……。出たよ。ロスの《書類しばき(ドキュメントブロー)》」
「相変わらず、音だけでもいてぇなぁ」
「このギルドじゃ、アレに敵うやつはギルドマスターとモミジぐらいだしな」
なんかすごいこと言ってるし。
そんなに痛いのかよ。これ。
「それはもう。普段のストレスを発散するつもりでやっておりますので」
すっごい良い笑顔でそうロスが言った。
笑顔にキラキラとエフェクトが見える。そのくらいいい笑顔だ。
この男、見かけによらずヤバい。
「ギルド内なら、どんどんボケてもらって構いませんよ。全部もみ消しますから☆」
ひぃぃぃ。
俺とギルドの中にいた奴らの息がぴったりと合ったのがわかる。
というか、こいつ。これをやりたくて俺をここに連れて来たんじゃないよな?
正直、暴走した自覚はあるけど。
俺は冷静になった頭で改めて見てみる。
焼肉の匂いの正体はいったい何だったのか。
テーブルについていた奴らの方を見てみると、テーブルの上に平たい七輪のようなものが置かれていた。
俺の現代知識でいうと七輪みたいな感じだ。
「ロス、アレは?」
「あれ?あぁ。食事の事ですか?ギルドのこのスペースは冒険者たちが待機するスペースなのですが、『席代』を支払う事でこうして持ち込んだ食事をとることができます」
席代……。
聞きたかった内容と微妙に違ったのだが、まぁ、それは御愛嬌。
しかし、これで宿なしでも昨日みたいに露天で食事するって事にはならなそうだ。
宿と食事処が付いてるなんて天国かよ。
「各町のギルドによって多少の差異はありますが、ギルドに必要なスペースはおおむね揃っている感じですね。ちなみに、彼らが使っているのは、非魔導系コンロの一つで陶芸職人に弟子入りしている子弟たちの失敗作や研究作を再利用したもので、上部にくず鉄を使った網を用意することで火の上で焼ける優れものですが、失敗作が多いので火が燃えなかったり燃える最中に崩れてしまったりするので使用する際はご注意ください」
いや、何それ怖い。
コンロが肉を焼く途中で壊れるとか。
「ち・な・み・に!ギルドのテーブルを損失したり、損壊したりしたら罰則がありますので、お気を付けください」
マジかよ。
「さて、とりあえず登録を済ませてしまいましょうか」
「うん?あぁ。そうだな」
そういえば登録に来たんだった。
ロスは俺に一枚の木の板を差し出した。
「まずはこちらにご記入ください。代筆は……、必要ありませんでしたね」
そういってロスが出した紙には氏名、性別、得意なこと、主な使用武器の記載欄があった。
……え、それだけ?
「ロス?これってこれだけしか書く項目ないのか?なんというか、少なすぎないか?」
「えぇ。まぁ。ギルド登録なんてそんなものですよ」
ふーん。
まぁ、いいか。
リュウ・シノダ、男、焼肉、ナイフで良いのか?
書き込みながらよくよく聞いてみると、その理由や他の事も色々分って来た。
まず、そもそも冒険者業には登録すればだれでもその身分をギルドが保証する点。
俺の常識ではこういった書類には住所が必要となってくるが、そもそもこれは登録するギルドの町、……つまりこの場合はここ『アスタランテ』の町の名前がそもそも仕込まれていることで解決している。
俺のように都市にはいる時には確認と税の支払いが必要になるからだ。
このおかげでこの国では住所、というか所在地は町単位。
要は町に入れている時点である程度身分は保証されている。
村だとその限りではないが、村にはそもそも簡単な支部しかないところが多く、そういうところにわざわざ行って登録でもしない限り、どこの馬の骨か分からない、なんて奴がまぎれることは少ないらしい。
……あれ?もしかして俺、本当に詰みかけていたのだろうか。
次にこの世界は『エディンヴァハラ』と呼ばれこの国は『フィルフィリア王国』。
ここは北部『サフィラ公爵領』の直轄地らしい。
ここの領主はサフィラ公爵で俺がいた森から魔物が湧きださない様にここで守護の任務についているらしい。
やっぱり、あそこの森ヤバかったんだな。
そういった事情もあって、この町は強いものなら大歓迎、といった風潮らしい。
ちなみに、事前にカルバラに聞いていたように、あの猪は『ジャイアントボア』というBランクの魔物はとんでもなく強い魔物らしく、あの『暴君の森』でも上位のランクに位置している……、ぶっちゃけ危険度ランキングで上から数えた方が早い魔物らしい。
……生きててよかったよ。本当に。
で、その肉。素人の解体で、半身で金貨3枚という価格もわかるというものだ。
ちなみに、しっかりと自分の食事分大体4回分くらいのバラ肉とロース肉、それとモモ肉は確保しておいた。
残念ながら血抜きをしていないのでついさっきまで俺の収納に入れておいたのだが。
これもロスからは空間魔法『アイテムボックス』と言われたのだが、たぶんこれ。魔法じゃないよな。
そもそも魔法の使い方なんてわからないし、こういった異世界転生物でお約束の『インベントリ』というやつじゃないだろうか。
せめてステータスとかスキルとかがわかればいいんだが。
とにかく、金貨というと、アスタランテの町では借家で25日間、生活できるらしい。
(正確には10日間ごとのデカドという単位で取引されるので20日か30日でおつりかあぶれが出るのだが)
俺達の世界にもデカードやディケイドと呼ばれる、10個一組や2つのものの桁が違うという意味の単位があったが、それと似たようなものだろう。
ちなみに、某仮面戦士の10周年記念作品も同じ呼び名だ。10人目だからだろうか。
「ロス、できたぞ」
「はい確かに。では登録しておきます。棒証はすぐ発行できますから少しお待ちください」
「わかった」
俺はロスに記入した木の板を渡す。
とりあえず、登録はこれでいいだろう。
俺は辺りをもう一度見まわす。
ギルド内には結構な人数がいる。
殆どがマントを身に纏い、ロングソードを下げた者や、斧とか槍を持っている者もいる。
いかにも、冒険者といった風体だ。
「ほら、じぃさん。せめて席まではちゃんと歩けよ。肩貸してやるから」
「うぇ……、目が回るのぅ」
さっきの外でダウンしていた酔っ払いの爺さんも無事に室内に入って来たようだ。
いくらつらいことがあったからって、ああいう風に飲みたくはないな。
あ、そうだ。今のうちに。
「なぁ、ロス。ここって不用品の買い取りとかしてないのか?」
「買取ですか?まぁ、買いとれるかどうかはわかりませんが、あちらの窓口に見せてみてください。ローヌさん。対応をお願いします」
「はーい。それじゃ新人さん、こちらへどうぞ」
ロスが差す先には、一部がたわわなお姉さんが呼んでいた。
俺は誘われるままにお姉さんのところへ向かう。
「それじゃ、買取希望のものを提出してください。……と言ってもすでにロスさんが買い取ったのでは?」
「あ、いや。それとは別に何ですが」
俺は再び収納空間からロングソードとナイフを取り出しカウンターに置いた。
「すみませんが、森で拾ったものです。ジャイアントボアを倒すのに必要で。少々血が付いていますが、十分使えました」
「これは。随分と上等、……な?」
「お、お主!」
ガバッと俺は後ろから、いきなり引っ張られた。
え、なに?
後ろを振り向くと、先ほどの酔っぱらいの爺さんが真っ青な顔をして俺を睨みつけていた。
「お主!コレをどこで!いや、まさかあの森を抜けて来たのか!?どうやって!?」
必死過ぎる、爺さんの圧力がすごい。
えぇ。どう切り抜けたもんかな。これ。




