2-1.アスタランテ冒険者ギルドへ
「あのロス?さっきのカルバラが言ってたのは……」
俺はロスと大通りを歩きながらそれなりに声をかけてみるのだが。
「あぁ、あそこは良い肉を仕入れていまして」
この通り、先ほどからはぐらかされている。
「らっしゃい!今日は良い肉が手に入ったよ!フェアリーサンダーバードだ!晩酌に良いよ!」
「アルサンピーク産の山菜が入ったよ!ピリリと辛い癖になる奴だ!エールに合うよ!」
「オークの良いロースが入ったよ!とれたて新鮮!今は春先だから若干脂は少ないが、喰い応えは十分だ!」
「ピース公爵領から果実が届いたよ!春先だから甘みがあるものじゃぁないが、食卓の彩りには良いよ!」
活気のある市場を通り抜ける。
……いや、さっきからサンダーバードだのオークだのえらい物騒な単語が聞こえるんだが。
そうなってくるとカルバラが言っていた『地獄の曲がり角』って単語が余計に気になってくる。
物騒すぎる通り名だ。
いや、っていうかオーク居るのかよ。
たしか、豚人間だっけ?いや、二足歩行の豚だっけ?
よく成人向けゲームでいるよな。
女性を食い物にするような凶暴なモンスターだ。
たしか、元はでっかいゴブリンみたいな奴なんだっけ。
果たしてこの世界はどっちなんだろうな?
出来れば人間にやさしい家畜的存在であってほしいものだが。
「なぁ、ロス?さっきから結構物騒な単語が……」
「あぁ、あそこの奴隷商はなかなか目利きがよくてですね……」
やっぱりはぐらかされる。
いや、ていうかそんな気になる単語を出さないでくれよ。気になるじゃねぇか。
奴隷とか。
にしても……。
辺りを見渡してみると、『地獄の曲がり角』って言われているのがウソのような活気だ。
大通りの左右には低木の植木と屋台が用意され、そこが元々そういうスペースというのがわかる。
「この都市は要塞として発展した都市ですから道は狭いですが、馬車の通行のため最低限の広さは確保されています。今代のご領主様のご意向で道沿いを少し広げて市民が屋台を出せるスペースを用意されました。おかげで商業が活気づいて、冒険者の護衛依頼も多いです。そのおかげで薬草採取や魔物の死骸なんかを集める初心者向けの作業も需要が高くなっていますよ」
へぇ。そういう仕事も冒険者がやっているのか。
それにしても……。
街中を歩いていると、まったくといって良いほど、臭くない。
驚くほど清潔な街並みだ。
俺の知っている中世とは大違いだ。
「なぁ、ずいぶん街がきれいに見えるんだが」
俺の疑問にロスはすぐに答えてくれた。
「あぁ、それはスライムたちのおかげですよ。この町では、川から上水を引き込み、都市の各方面に供給しています。そして、生活排水を地域ごとに下水を設置して、浄化します。その浄化した水を川に戻したり、工業用水として使用することによって水を循環させています。この下水のおかげで街に流れる水は清潔な状態を保てているんですよ」
へぇ。
つまり、上下水道が完備しているって事か。
「あれ?でもそれじゃ改修や拡張がしにくいんじゃ?」
「えぇ。お察しの通りです。なので一歩裏に回ると古い町並みが多く残っていますよ。まぁ、上物だけはきれいにしたりしていますがね」
なるほどね。
上下水道だってまさか現代みたいにパイプでつながっているわけじゃないだろうし。
「ただ、そうなると肥やしも入手しづらくなりますから、冒険者ギルドでは肥やしを取り扱う依頼なども多いですね」
へぇ。
そういえば、昔は人の糞尿はわざわざ引き取る専門職がいるくらい重要な仕事なんだっけか。
「さて、ここからは少し狭くなりますよ」
大通りを抜けてくると右手に門が見える。
内壁って奴だ。わざわざ警備の立っている門が付いてるってことは、この先は、多分貴族街とか領主の館とかがあるんだろうな。
……いや、なんか平民っぽい人たちも入って行ってるから違うのかな?
「リュウ。こっちですよ」
右手の門を見ているとロスから声をかけられる。
「あぁ。うん」
いや、よくよく考えたらなんで俺はロスに従ってこんなところまでやって来たんだろうか。
というかロスは俺をどこに連れて行こうというのか。
いや、行くところはなんとなくわかってるんだ。
どうせそれ以外に金を稼ぐ伝手もないから、結局なにかしら冒険者として仕事をやらなきゃいけないとは思うんだが。
それにしてもこの辺りは大通りとは違ったタイプの屋台が多いな。
大通りは皿付きの屋台が多かった気がするが、この辺りはどっちかって言うと串焼きとかパンとかが多い。
装いもカラフルな大通りとは違い地味な感じだが、店構えを見る感じ、民間の屋台ってよりは店の屋台支店って言う方がしっくりくる。
というか、木の皿……いや木の食器専門店か……需要あるのか?そんなの?
「さぁ、着きましたよ」
お?
おぉ!?
そこには、この辺りでひときわ大きな建物。
正面向かって右側に大きな二階建ての建物、左側の正面は庭だろうか?
奥に馬が見えるからこっちは馬用のエリアなのかな?
「こっちが本館で、左の馬屋の奥には解体場があります。そこの二階は集団で雑魚寝できるスペースですね」
解体場の二階に雑魚寝スペース?
なにそれ、解体待ちのスペースかよ!?
「ちなみに下からの匂いは魔道具で消してありますので快適なスペースですよ。利用には冒険者ギルドの登録と宿泊時に予約が必要になりますのでご注意ください」
「へぇ。ギルドって泊まれるのか」
「えぇ。ギルドは明確な犯罪者でない限り冒険者を保護する義務も負いますからね」
「犯罪者?」
「この辺りではほとんどありませんが、冒険者は流れ者も多いので。犯罪者として指名手配され、逃げ延びた者が保護を後ろ盾に泊まることがあるのですよ」
うへぇ。
つまりあれか。
「そこを利用するときはそういう奴が隣にいる可能性も考えておかないといけないって事か」
あぁ、そうか。それでギルド本館とは別の離れに用意されてるって事か。
つまり、使う時は気をつけろっていうロスからの警告か。
チラリと見るとロスの口の端が軽く上がるのが見えた。
さてはこっちを品定めしてたな。喰えない男だ。
「さて、とりあえず、本館に参りましょう。貴方に売っていただいた肉も傷む前に倉庫に移してしまいたいので」
「あぁ、すまん」
俺はロスに促されて本館の方に足を進めた。
入口は重厚に見える。
石畳と石の灯篭……のようなものがいかにも特別な施設であると醸し出している。
「ほら、じぃさん。水だ。最近飲み過ぎだぞ」
「放っておいてくれぇ……儂は、儂はぁ……」
「気持ちはわからんでもないがな、言ってても始まらんだろ。あんたらでも無理だったなら、あいつらが帰ってくるのを待つしかないだろ?」
うわぁ……。酔っ払いかよ。
そんなになるまで飲むなよな。
良い大人の飲み方じゃないだろ。
「すみません。あの方も普段は優秀な冒険者なのですが……」
ロスは俺を扉の方に促してくれる。
「さて、では改めまして」
そのまま咳払いをして一呼吸置く。
「ようこそ、アスタランテ冒険者ギルドへ」
そう言いながら扉を開いてくれる。
熱気が鼻腔をくすぐる。
その匂いは、若干、焼肉の匂いに似ていた。




