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「わたしにはお姉様とお兄様がいますもの」


「でもお兄様と結婚するわけにはいかないのよ」


「結婚などしません」


「は?」


「母を見ていましたから。わたしは十六歳の時ここにくるまで父を見たことがありませんでした」


え?


「こら。エンジェル。声を小さくするんだ」


横からシーヴァが声をひそめてエンジェルをつついた。


「お前は家の恥をさらすつもりか」


「あ、ごめんなさい」


しゅんとしてうつむいたが、父が母のところに来たことはなかったと今エンジェルは言った。


「ねぇエンジェル。あなたのところの使用人三人いたでしょう?父が雇ったのではないの?」


「ああ。あの人たちは母が病になってから見てもらっていた医師からの紹介で来たんです。それまで母とわたしふたりで家を切り盛りしていましたから」


なんですって?

では使用人のひとりもいなかったと?

ということはやはり父があの侍女を雇ったのではないのだ。

医師の紹介?

医師が怪しいというわけね。


「苦労したのね」


「お姉様がそう言っていただけるだけでわたしは生きていけます。今は母も安全な場所にいますし、ずっとお姉様のもとにいたいくらい。お姉様が嫁いだらわたしどうしたらいいかわかりません」


ウォルターの方にうらみがましげな眼を向けている。

王宮に着いてくると言わんばかりの勢いだ。


「だからそのためにも恋愛を……」


「だって興味ないんですもの」


「はは」


笑うしかない。


うーん。


と、その時である。


王宮の奥にある森の方からすさまじい音が聞こえてきたのだ。


何だ?

ウォルターが立ち上がる。


何か来るぞ。


そう言ってそちらに目をこらしてみると大きな黒い塊が空を覆っている。


何?

あれはもしかして……。

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