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「公爵閣下が公爵夫人の侍女に手を出したという噂は本当みたいよ」


「だってあの所作よ」


「ひどいわ」


エンジェルを盗み見るとプルプルと震え出している。

このままでは器からお茶をこぼしそうである。


オーロラはエンジェルが膝の上に置いている手をそっと握った。

落ち着けという意味を込めて。

どんなに信用のおけない妹とはいえ、辱められているのを黙って見てはいられまい。


エンジェルの震えがぴくっと止まった。

よし。


「エンジェルの出自がどうであれ、彼女は兄とわたしの妹です。それに変わりはありませんし、家族も認めておりますわ」


オーロラは扇をぱちんと閉じると凛と胸を張り言った。

場がシンとする。


「今日はミルティのシフォンケーキをお持ちいたしました。皆様で召し上がりましょう」


「まぁミルティですって?並ばないと買えないのよ」


「並んでもシフォンケーキはすぐ売り切れるのよ」


こういう時は話題を変えるに限る。

皆の関心がシフォンケーキにいってしまったので舌打ちしそうな勢いでナタリーが侍女に命じシフォンケーキを配り始めた。


「どんなコネを使われたのかしら?」


令嬢たちの中にはどうあがいてもナタリーの味方である者もいるらしい。必死で貶めようとしてくる。


「我が家にはもう二度ほどシェフが出張で来ておりますの」


「え?出張?すごいですわ」


嘘ではない。シーヴァが一度呼んでからシフォンケーキを食べたいと母が呼んだことがあるのだ。


「どうすればそんなことが出来ますの?」


話題はケーキに完全に飛んでいってしまっている。


なんとか反論して貶めようとナタリーの派閥の者たちは手をこまねいていたが、結局ケーキを食べているとケーキの話題になってしまう。

ようやく反撃の手が緩まってきたところで、オーロラはやっと一息ついて紅茶を一口飲んだが、エンジェルのところに紅茶をつぎ足しやってきた侍女を見て「おや?」と思った。

この侍女……。


と、そこにようやくウォルターが現れた。


「皆、おいしそうなものを食べているね。わたしもクッキーを持ってきたがもういらなかったかな?」


「「「これはこれは、ウォルター殿下」」」


皆が一斉に立ち上がる。オーロラも一緒に立ち上がり礼をとった。


「堅苦しいのはいらないよ。わたしは婚約者に会いに来ただけだからね」


そう言ってオーロラに目を合わせると近寄って来た。


「オーロラ。ごきげんよう」


立ったままのオーロラの手をとり手の甲へ口づけを落とす。


え?


初めての行動にオーロラも驚いたが、皆がざわめいている。


「やはり殿下がオーロラ嬢にメロメロだという噂は本当だったのだわ」


「すごいぃ~」


「美男美女でお似合いよ」


「うらやましいわ~」


にっこりとオーロラに向かって微笑んだウォルターを見てオーロラは思わずうつむいてしまった。

顔が赤くなっているに違いない。


「オーロラ嬢が照れていらっしゃるわ」


「素敵。相思相愛なのね」


何を言われているのだか……。

相思相愛だなんてありえないのに。


それからしばらくすると他の令嬢たちの婚約者もやってきた。会場がざわざわし始める。

その時だ。奥の方からざわざわという騒めきが聞こえた。

誰かやってきたらしい。

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