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「なんでみんなあんたなのよ」


突然エンジェルの顔が醜く歪んだ。


「ひとつだけ教えてあげるわ。あなたのこと、昔から大嫌いだった」


エンジェルが耳元に口を近づけてきたので、その赤い髪がはらりとオーロラの肩にかかる。


「虫唾が走るほどあなたを殺してやりたくて仕方なかった。だからその地位を奪ってやったわ。わたしは今度グラント王太子殿下と結婚するのよ」


うっとりとした表情のエンジェルは少し狂気がかって見える。

怖い……。


「ふふ。晴れて王太子殿下、そして王妃となるの。この国はわたしのものよ」


そう言うとまた高らかに笑う。


「見て。これ」


「何?」


「闇魔術を無効化できる石よ。ノエルに作らせたの。これがあったらあなたを殺せるらしいわ」


そんな石が?

オーロラの前にかざされた真っ白な小石。

聖女ノエルが作った?

けれど何の魔力も感じられない。

こんな石で闇魔術を封印できると?


エンジェルはにやりと笑って護衛騎士を顎でしゃくると、それを受けて護衛騎士のひとりがイヴァンをオーロラから強引に引き離した。


「やめて!イヴァン!」


「いやだぁ!」


部屋の中にいてもキラキラと輝くその金色の髪が揺れる。


「暴れるな。だいたい誰の子?もしかしてあの護衛騎士との子かしら?あの護衛騎士、金髪だったわよね。確か」


にやりと笑う。

そういえばあの護衛騎士は金髪だった。そして確かに見目はよかった。

だが、あの護衛騎士とは何もなかった。

というよりは王宮にいる時もここに来てからもそういう関係になった男性などいない。

イヴァンはまぎれもなく……。


「エンジェル!あなたに関係ないでしょう?わたしはここで静かに暮らしている。何もあなたの地位を脅かしはしない。ほうっておいてくれればいいわ。どうかイヴァンだけは……」


あんな役に立たない石くらいはじけ飛ばして、闇魔術を使って三人を抹殺することは簡単だが、イヴァンを人質に取られてしまった以上、簡単にはいかない。

それに……闇魔術を人間の殺傷に使ったことは今までに一度もない。

死の淵にあってさえ、それを使うことは……できないと思った。


だが、自分が一番大切にしているイヴァンを人質にとることは正しい。

これで自分は何もできなくなった。


なんということだ。

この悪魔のような妹を自分は信頼していたというのか。

敵ばかりの公爵家で唯一自分を頼ってくれていたかわいい妹だと思っていたのに。


「さあ、ここでやるのよ。その剣を胸に一刺しすればいいだけ」


「はっ!」


護衛騎士の動きは速かった。

威勢のいい返事とともに、剣が目の前に伸びてきて、オーロラは胸に突き抜けるような鋭い痛みを感じた。


――ズサッ――。


「うっ……」


その場に倒れこんだオーロラは口から大量の血を吐く。


死ぬのだ。


「おかあさまぁ!」


遠くにイヴァンの声が聞こえる。


「いやだ!死なないで」


「イ……ヴァン……」


小さくつぶやき、最後にみた息子のイヴァンの髪から神々しく光る金色と銀色の眩い光が見えた気がした。


イヴァン……わたしの光の子……。

ごめんね。守ってやれなくて……。



その光に包まれながら、オーロラの意識はそこで途絶えた。

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