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「お母様。お屋敷に届けてくるわね」


「ええ。お願いね」


ここはソードノーズ王国の北の端に位置するキノックス領。その中でも最も北の一角に大人気のパン屋がある。

美人の女将の名をとって『ベラのパン屋』と呼ばれるその店の女将が作るクロワッサンが絶品で毎日午前中のうちにはなくなってしまう。


そんな噂を聞きつけたのは隣国ルヴィエ王国にある大きなお屋敷の住人である。

わずか百メートル先には隣の国ルヴィエ王国があり、ルヴィエに入るとすぐに大きなお屋敷があった。

そこにはどうやら病気の子どもが住んでいるようで、その子どもがこのクロワッサンなら食べられると言ったとかで、毎日特別に届けることになっているのだ。


当然女将のベラはクロワッサンの作成と販売に忙しすぎたため、配達は娘の役目となった。


「気を付けて行くのよ」


いつも通りの声掛けをすると六歳の女の子には少し大きすぎるバスケットを手渡す。

母子そろってここらあたりでは目立つほどの整った顔立ちだ。

母親は金色の髪にエメラルドの瞳の美女であるのに対し、娘は肩までの真っ赤に燃えるような髪に金色の綺麗な瞳をしている。


「うん。大丈夫だよ」


女の子は真っ赤な髪を揺らしバスケットを受け取ると、忘れずに国境通過証を首にぶらさげて店を出てまっすぐに大きなお屋敷に向かっていく。

国境を超えることになるが、この女の子だけは特別に許可されているのだ。

関所では関所兵がいつもどおり手を振ってくれる。


「おじょうちゃん。今日もお届けかい?」


「はい」


ルヴィエ語で兵士が話しかけたがオーロラは丁寧にルヴィエ語で答えた。

この辺りに住む者は二つの国の言葉をだいたいは理解できるほどに話せるのだ。

兵士は形式上だけ中身を確認するとすぐに通してくれた。


それから屋敷まで歩いて数分。

いつもどおり女の子は大きなお屋敷に入った。


警備兵がいる大きな門を抜け、重厚な玄関扉に辿り着くとついているノッカーをカンカンと鳴らした。

一度でダメならばと二度、三度と鳴らしてみたが何故かその日は誰も現れなかった。


「ごめんください。『ベラのパン屋』です。クロワッサンをお届けにあがりました」


どうしようもないので声を上げてみる。

がそれでも誰も来ない。


おかしいな……。

女の子はもう一度声を張り上げて同じことを言ってみたがやっぱり誰も出てこない。


仕方がないので玄関を出ると、脇にある庭の方を覗いてみた。


そしたらそこにキラキラと太陽の神様みたいな光が見える。


「わ――。すごい綺麗」


あまりの美しさに思わず女の子は声を出してしまった。


あ、いけない。

お金持ちの人のお屋敷ではしたないって怒られちゃう。

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