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「お、奥様!申し訳ございません」
侍女と騎士が大慌てで奥様の方へと駆け寄る。
「あら、どうしたの?」
心なしか奥様の表情が硬い気がした。
「この子にスカートを破かれ…いえ…その」
「いいのよ。帰りましょう」
うまく説明はついたのだろうか?
信じてくれたのだろうか?
窺うように奥様の顔を見ていたが、奥様はオーロラへと向き直った。
「オーロラ。また明日から配達お願いね。わたくしの分も。そして週に一度はこちらにパンをいただきに来ることにしたわ。とてもおいしかったもの。やはり焼きたては違うわ」」
にっこりと笑って頭をなでてくださった。
怒ってない。
ってことは受け入れてくださったのかしら?
「オーロラ。僕。大きくなるからな」
「え?」
ちょっとむっすりとしながら奥様の横にいたジルが宣言するかのごとく言う。
「一年後にはミシェルを超えて見せる」
決心したように右手でこぶしをつくったジルは少し背伸びしているようにも見える。
「はい。ジル様」
オーロラがにっこりと返事をすると、ジルはまだむっすりしていたが、奥様はにっこり笑われた。
「では。オーロラ。また」
そう言ってふたりが帰ると、オーロラはあわてて奥の部屋に入っていって状況を聞く。
「先生、どうだったの?」
「ああ、なんとか信じてくれたよ」
マーガレットは母特製のクロワッサンをほおばっているところだ。
「ほんと?よかったぁ」
「オーロラ。あんた知ってたの?」
「え?」
いけない、こんな反応をしたら毒だと見抜いていたと思われる。
「何が?ご病気のこと?治るの?」
「ああ、治る。オーロラも知っておいた方がいいから言うけど、あの親子は毒を盛られているようだよ」
「え?毒?」
驚きの表情を作る。演技をするのも大変だが、六歳の子どもがそんなことわかるはずないのだから、ここは適当にごまかすしかない。
「毎週診療所の休みの日の水曜日にここに来てもらうことになったよ。解毒剤は今ここにないから明日あんたがクロワッサンを届けるときに一緒に届けてくれるかい?」
「ええ。届けるわ」
「必ず直接奥様に渡すんだよ」
「ええ。それはまかせて」
「しかし、毒を飲まされてるなんてね……」
ベラが神妙な面持ちでため息をついた。
「大変ね。お金持ちの貴族も」
「そうだね。誰のことも信用できなくなるね」
「ほんとに」
母ふたりが話し込んでいるのを見て、ミシェルをふと見ると、ぶすっとしている。
「どうしたのミシェル」
くるくるのオレンジに近い茶色の髪を手でくりくりと触りながら顔は剥れていて……。
「いや、何でもない。あのジルってやつ……なんか気に入らない」
「は?何言ってるの。相手は貴族よ。そんな言い方しちゃいけないわよ」
「わかってるさ。わかってるけどな」
そのままミシェルはその日はずっと不貞腐れていた。




