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◇
「オーロラ。こちらへ」
次の日クロワッサンを届けると、オーロラは外のテラスに案内された。
「あなたも一緒に食べましょう」
「あ、オーロラ。いらっしゃい」
ふたりとも心なしか血色がよさそうに見える。
早春の三月の今は毎日気温が不安定で寒い日やあったかい日があるが、今日はかなりぽかぽか陽気だ。外で食べたらピクニック気分でおいしくいただけるだろう。
「わぁ。すごく綺麗なお花畑ですね」
テラスに入ると、テラスの向こうに綺麗なデイジーの花がいっぱい咲いている。
ちょうど今季節なのだろう。白いデイジーと赤いデイジーが満開だ。
デイジーの花畑……。
懐かしさがこみあげてくる。
「君みたいだね」
奥様に案内されて座った椅子はジルの隣だった。
「え?」
「ほら、赤のデイジーだよ。君の金色の瞳の色と真っ赤な髪がデイジーみたい」
「あ……」
「ほんとにオーロラみたいね。あとで少し持って帰る?」
「いいのですか?」
「ええ」
奥様はにこにこ笑いながらカップに紅茶を注いでくれている。
そうだ。デイジー畑に感動している場合じゃないわ。渡さなきゃ。
テラスの周りには今誰も使用人はいない。渡すなら今だ。
オーロラは懐から小さな紙袋を取り出した。
「奥様。マーガレット先生からです。何が入っているかはお分かりだと思います」
「ありがとう。受け取るわね」
さりげなく奥様は紙袋を胸元にしまわれた。
侍女はそのあとテラスの隅にふたり立っていたが特に邪魔はしてこなかった。
ジルも奥様も所作がとても美しい。
ふたりともいつもより顔色がいいのでさらに美しく見える。
それにしても誰なのだろう。
この屋敷にユングの実の毒を盛っている使用人がどこかにいるのだ。
ユングの実はソードノーズ王国の西に位置するパルリム王国でとれる遅効性の毒だ。
ユングの実自体に毒はないのだが、その種子に毒がある。
毎日服用すると、三年くらいで死に至ると言われている。
今オーロラが渡したのは解毒剤。
毎日飲めばユングの毒を盛られてたとしてもすべて尿とともに流れていく。
だからとりあえずこれを服用しながら犯人を捜すしかないだろう。
犯人捜しについては自分にはわからない。
奥様がうまくされるしかない。
「オーロラ。お茶が終わったら外を散歩しようよ」
「え?ジル様とわたしがですか」
「うん。ダメ?」
不安そうな顔。眉尻をさげたその顔がとてもかわいい。
あー。ほんとにイヴァンみたい。
「いいえ。散歩します。じゃぁデイジーの花が見たいです」
「じゃぁ僕が摘んであげる。いいよね、母上」
「ええ。もちろん」
「行こう」
にっこり笑った顔は本当にイヴァンそっくりでそれを見て思わずオーロラもにっこりと微笑んだ。




