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「これは、大事だわ。ユングの実じゃないの」


小さな声でマーガレットがつぶやいたのをオーロラは聞き逃さなかった。


やはり……。

遅効性の毒だからベアトルかユングかどちらかだと思っていた。


「やあ、オーロラ。母さんが来てるって?」


医師のマーガレットをパン屋の奥に呼んでジルを診察してもらっていたところ、幼馴染のミシェルがやってきた。マーガレットの息子である。

今日は店は臨時休業にして一緒に来た奥様は母親に相手してもらっている。


「お、これがルヴィエのお坊ちゃまか?」


「ミシェル。口を慎んでよ」


何が起こったのかわからずきょとんとオーロラを見ているジルに対してオーロラに話しかけるみたいにふつうに接している幼馴染のミシェルをたしなめる。


「貴族のご子息なのよ。もう少し口の聞き方……」


「だって、同じくらいの歳じゃないか。同級生ならふつうに話していいだろ?」


そういえば、ジルは何歳なのだろう?

オーロラとミシェルは同い年の六歳だ。

ジルも同じくらいに見えるが……。


「僕は八歳だよ」


「「え?」」


ふたり同時に驚いた。


「「見えない」」


さらに同時に言うと、ジルはぷうっと頬を膨らませている。


「なんだよっ!小さいって言いたいのか?」


「だって小さいじゃないか」


ミシェルの方が少し背が高いくらいだなとオーロラは思った。


「し、仕方ないだろう?僕は体が弱いんだ」


か、かわいい。


見た目は六歳でも、前世を思い出した今、精神年齢は前世と同じ二十五歳だ。

自分の息子のイヴァンに思わず重ね合わせてしまった。


「はいはい。そこまでっ!」


パンパンと手あわせの音が響き渡る。


「これは大事よ。よくわたしに見せてくれたね。オーロラ。この坊ちゃんのお母さんも来てるんでしょ?」


ミシェルの母、マーガレットが真剣な目を向けてくる。


『マーガレット・リーン』


キノックス領で診療所をやっている医師で、ベラのパン屋の近くで開業していて、彼女の息子ミシェルとは小さい頃からずっと一緒に遊んでいる。

前世でオーロラに黒魔術を医療に使えることを教えてくれた親子である。

マーガレットの後を継いだミシェルとともに、診療所で平民たちを治療することを生業としていた。


先日、ジルのお屋敷から戻ってすぐにマーガレットの元を訪れたオーロラは、お屋敷の男の子が病気で苦しんでいるから見てあげてほしいとさりげなく頼んだ。

母のクロワッサンを食べた時だけ元気になるらしいということも付け加えて。


そしたら『なんだって?』とすぐに反応してくれたマーガレットは快く、今日やってきてくれた。

おそらくその時点で毒ではないかと疑っていたに違いない。


マーガレットはかなり腕の立つ医師だ。

すぐに何の毒か突き止めてくれるはずだと思っていた。


だが、奥様にどうやって伝えるかが問題だ。

奥様は今、母のベラとお茶を飲んで談笑しているはず。

タンポポがたっぷり入ったクロワッサンを食べて少しくらい元気が出ていると思うが、平民の医師が言うことを信じてくれるだろうか?

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