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「あの……わたし、オーロラと言います。さっきの男の子は……」
「そうなのね。オーロラ。あの子はジルというの。今医師の治療を受けているのよ。終わったらまたここに来るわ」
ジル……。
前世では名前まで知らなかったなと思った。
奥様は後ろに控えていた侍女に何か言いつけると、侍女が出ていく。
おそらくジルを呼んでくるよう言ったのだろう。
「あの、奥様。ジル様はどこがお悪いのですか?」
「え?」
「ご、ごめんなさい。聞いちゃいけなかったですか?」
しゅんとしたように俯くと奥様はにっこり笑った。
「いいえ。いいのよ。ジルは……わたしと同じで体が弱いの。体の弱いわたしが産んだ子だから仕方ないわね。すぐに熱を出してしまうから屋敷からあまり出られないのよ」
やはり……。
と……部屋の扉が開いた。
「気がついたの?」
ばぁっと笑顔で入ってきたジルはオーロラのベッドの方に駆け寄ってきた。外では車椅子だったけど普通に歩けるようだ。
「ジル。あなたも熱があるのよ。あまり走ってはダメよ」
「はい、母上。けれどクロワッサンをいただいたから大丈夫ですよ。僕はあのクロワッサンを食べたら元気になるんだ」
母のクロワッサン……。
もしかして……。
「ジル様、お熱はどれくらいあるのですか?」
失礼だと思いつつも子どもだから許されるだろうと、目の前にいるジルの額に手を当ててみた。
確かに熱い。
そして……触れている間にじっくりと身体の中を探る。
やっぱり、間違いなく何かが血液の中を巡っている。
まだでも今なら回復できる量だ。
「少し熱いような気がします。いつ頃からお悪いのですか?」
奥様の方を向いて聞いてみた。
「この屋敷で去年の秋から療養してるのよ。去年までは元気にしていたのだけど……」
約三ヶ月ほどか……。
早く解毒しなければならないわ。
でも何の毒だろう?
オーロラは前世で医師とともに治癒師をしていた。黒魔術でウイルスや菌を殺すために、体中に散らばるウイルスや菌を探さねばならない。
人の細胞には匂いがあってその匂いを嗅ぎ分けて違う匂いのものを探すのだ。訓練するのに三年かかった。
どうやらその技術は回帰した今も健在のようでジルの体の中に毒が巡っていることを瞬時に理解できた。
毒を検知してそのせいで前世を思い出したようだ。
だが、厄介なことに毒は生き物ではない。だから黒魔術では無効化できないのだ。
前世ではこの日ジルにクロワッサンを渡した際、毒の検知はできなかったから、その日少し話をして家に戻ったはずだ。それから毎回話すようになったが、半年ほどした頃奥様が亡くなられた。
今思えば毒のせいだったに違いない。そしてその後さらに半年ほどでジルはどこかに引っ越してしまい、それ以来会えなくなった。
ジルは毎日ベラのパン屋のクロワッサンを食べていたから毒の効き目が遅かったのかもしれない。
母のクロワッサンにはタンポポの根が隠し味に入っている。タンポポを入れると香ばしく味わい深くなるらしい。そのタンポポの根には解毒効果があるのだ。
どうしようか。




