同じ場所に立つ者たち
過去を辿る中で見つけた一枚の写真。
そこには、自分と同じ姿をした「もう一人」が写っていた。
立っている自分と、落ちた自分。
どちらが現実なのか。
そして——
本当に助かったのは、誰なのか。
それからしばらく、あの写真のことが頭から離れなかった。
二人の自分。
立っている自分と、落ちた自分。
あれが意味するものを、考えない日はなかった。
そして、ひとつの考えに行き着く。
——あの場所に、もう一度行くべきではないか。
確かめるために。
自分は再び、石切山へ向かった。
前と同じように、足は迷うことなく進む。
気づけば、あの崖の上に立っていた。
風が吹く。
あの日と同じように。
そのときだった。
「……やっぱり来たか」
背後から、声がした。
振り返る。
そこに立っていたのは——
あの夜、店で会った男だった。
「あんたも、見たんだろ」
男は静かに言う。
「あの写真」
心臓が強く打つ。
「……あなたも?」
男は小さくうなずいた。
「俺も同じだ。二人いた」
言葉が、重なる。
そして、男は崖の下を見下ろしながら続けた。
「ここはな——」
少し間を置く。
「“分かれる場所”なんだよ」
風が強くなる。
「落ちるか、落ちないか」
「助かるか、助からないか」
「その両方が、ここで起きてる」
理解はできない。
だが、否定もできなかった。
あの写真。
あの記憶。
すべてが、どこかでつながっている。
「じゃあ……」
喉が乾く。
「ここに来た人間は——」
男がこちらを見る。
「全員、どこかで分かれてる」
その瞬間。
ふと、気配を感じた。
視線。
崖の下から。
ゆっくりと、覗き込む。
——誰かがいる。
一人ではない。
二人、三人……
いや、それ以上。
同じ場所に、同じように倒れている影。
そして——
その中のひとつが、ゆっくりとこちらを見上げた。
——自分だ。
息が止まる。
「見えるか」
と男が言う。
声が出ない。
ただ、うなずく。
「あれが、“もう一つの結果”だ」
崖の上に立っている自分。
崖の下にいる自分。
どちらも、本当の自分。
その境界が、ここにはある。
風が吹き抜ける。
そのとき、背後で小さな音がした。
土が崩れる音。
足元が、わずかに揺れる。
——次は。
どちらだ。




