あの日、助かったのは誰だ
崖から落ちた記憶。
それが現実だったのか確かめるため、過去を辿る男。
ある日、見覚えのない一枚の写真を見つける。
そこには——
あの場所と、幼い頃の自分の姿が写っていた。
だが、その写真には、あり得ない“もう一つの姿”があった。
同じ服を着た、もう一人の自分。
立っている自分と、落ちた自分。
どちらが現実なのか。
そして——
本当に助かったのは、誰なのか。
それを見つけたのは、偶然だった。
古いアルバムを整理していたとき、一枚だけ、違う紙質の写真が混じっていた。
見覚えがない。
それなのに、どこか懐かしい。
写っているのは、あの場所だった。
石切山の、あの崖。
はっきりと写っている。
今まで見てきたどの写真にもなかったはずの場所が、そこにあった。
画面の中央。
崖の縁に、一人の子どもが立っている。
小さな体。
見覚えのある服。
——自分だ。
そう思った瞬間、息が浅くなる。
写真の中の子どもは、こちらに背を向けている。
そして、次の瞬間。
足元が、崩れている。
連続写真ではない。
だが、そうとしか見えない。
落ちる直前の一瞬が、そこに切り取られている。
「……違う」
思わず、声が漏れた。
こんな写真は、知らない。
誰が撮ったのかも分からない。
そもそも——
どうして、今になって出てきたのか。
そのとき、気づいた。
写真の端に、もう一人写っている。
崖の下。
倒れている子ども。
顔は見えない。
だが、服は同じだった。
——二人いる。
立っている自分と、落ちた自分。
その瞬間、背中にあの衝撃が走る。
息が止まる。
苦しい。
だが、今回は違った。
苦しさの奥に、もうひとつの感覚がある。
——誰かが、息をしている。
自分ではない、もう一人の呼吸。
写真を持つ手が震える。
これは記憶ではない。
記録だ。
そして、そこに写っているのは——
「あの日、助からなかった方」なのかもしれない。
では、自分は——
どちらなのだろうか。




